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IoTわな作動通知システムの開発4〜センサーを自作する〜

友人から依頼があり、イノシシやシカなどの狩猟用わなに取り付けるIoTわな作動通知システム(以下、IoTわなシステム)を開発しています。「IoTわな作動通知システムの開発」シリーズでは、開発過程をまとめています。
今回は、センサー編です。センサー選びって結構奥が深いんですよね。本記事では、センサー選びのプロセスと、自作した洗濯バサミスイッチについてまとめます。前回記事の続きですので、下記も参照ください。


■ 「わな作動」をどのセンサーでとらえるか?

センサー選定は結構難しく、センサーの知識に加え、現場での要件把握や、観測したい現象を正確に把握する必要があります。どのような考え方で、センサーを選べばよいでしょうか?以前のnoteで、センサー選びの3ステップをまとめています。この記事は、特に熱量を持って書いた記事ですので、是非ご参考下さい!

3つのステップを抜粋すると、

Step1. 観測したい現象を物理量に置き換える
Step2. 現場要件等も考慮し、どの物理量をどのセンサー種で計測するか決定する
Step3. 最後に、具体的なセンサーを選定する

です。この手順を踏まえ、今回のわな作動のセンサー選びを、3つのステップで考えます。

◎ Step1. 観測したい現象を物理量に置き換える

わなにイノシシやシカなどが掛かる、という現象が発生したとき、どの物理量が変化しているでしょうか?

わな自体の作動や、わなにかかった動物の動きを物理量に変換できそうです。これらの「動き」をもう一段階深堀りすると、動きに連動して、変位の変化や、振動の発生といった物理量変化があります。動く部分に紐を付ければ、動きに連動して紐が引っ張られることにより、何らのスイッチをONまたはOFFにすることもできます。動物がいるということは、温度変化といった物理量変化もあります。

◎ Step2. 現場要件等も考慮し、どの物理量をどのセンサー種で計測するか決定する

変化する物理量として、変位、紐が引っ張られることによるスイッチ、振動、温度を抽出しました。この中でも紐が引っ張られることにより作動するスイッチが最もシンプルだと考え、これを第一候補とします。

なお、変位は超音波距離センサー/赤外線距離センサー/レーザー距離センサー/ワイヤー式変位センサー、振動は加速度センサー、温度は人感センサーで測るという選択肢もあります。また、カメラで検知するという手もあります。

◎ Step3. 最後に、具体的なセンサーを選定する

次に、スイッチにはどのような種類があるでしょうか?Googleや秋月電子通商などで調べてみると、トグルスイッチ、スライドスイッチ、タクトスイッチ、リードスイッチ(磁気センサー)、静電容量スイッチ、振動スイッチ・・・など色々とあります。

また既存のIoTわなで使用されているセンサーを調べてみると、リードスイッチ(磁気センサー)や、洗濯バサミを利用したスイッチを利用している事例を見つけました。今回は、これら2つに絞り、次章で深堀りします。

■ 案1 「リードスイッチ」でわな作動を捉える

◎ 原理

まず、リードスイッチ(磁気センサー)の原理を調べました。下記のような原理です。

出典:https://www.ablic.com/jp/semicon/products/sensor/magnetism-sensor-ic/intro3/

ニッケルなどの磁性体を左右から1枚ずつガラス管内で隙間を空けた状態で封止したものがリードスイッチです。ガラス管の中は、接点の活性化 (劣化) を防ぐために窒素などの不活性ガスが充填されています。
リードスイッチは通常はオープンの状態 (開放状態) ですが、両端の磁性体に沿って磁界を受けると、磁性体が磁化し、接点部分が引き寄せられることで電気的にクローズ状態 (導通状態) になります。

出典:https://www.ablic.com/jp/semicon/products/sensor/magnetism-sensor-ic/intro3/

リードスイッチを利用した製品は下記のようなものです。磁石を近づけたときに接点がオープンになるものとクローズになるものがありますが、SORACOM LTE-M Button Plusと組み合わせる時は、磁石を近づけたときにオープンになるものを選びます。

3本の配線が出ているのがリードスイッチ。リードスイッチ右側が磁石。
出典:https://soracom.jp/store/5237/

◎ 事例

いくつかの既存事例を見ると、リードスイッチ(磁気センサー)が使用されています。

・九州農政局農村振興部農村環境課
https://electronic.tousekice.com/wp-content/uploads/2022/01/wana_tsu-6.pdf

・群馬県
https://www.pref.gunma.jp/uploaded/attachment/134897.pdf

・株式会社電信
https://www.densin.co.jp/product_iot/3443/

◎ メリットとデメリット

ケースの中にリードスイッチを配置し、ケースを挟んで外側に磁石を配置することで、ケースに穴加工することなく、検知することができます。検知部が非接触であり、これはメリットです。

一方、磁石を近づけたときにオープンになる(ノーマルオープン)になるリードスイッチが、案内入手しにくいことが少し気になります。Amazonで中国製の製品が見当たりますが、信頼性や安定供給性は不透明です。秋月電子通商等で購入できれば良いのですが、ノーマルクローズのみでした。群馬県の事例で採用されている ㈱エヌエーのRS-1 NC型は良さそうです。

■ 案2 「洗濯バサミスイッチ」でわな作動を捉える

◎ 原理

洗濯バサミのハサミ部に銅線を巻き、洗濯バサミの間に絶縁物を挟みます。この状態ではスイッチがOFFですが、絶縁物が引っ張られたときにスイッチがONになるという仕組みです。

絶縁物とわなとを紐で繋いでおけば、わな作動時の動物の動きによって絶縁物が引っ張られ、センサーとして機能します。シンプルですね。

◎ 事例

・下記のリハビリ病棟の下の仮想研究室のサイトに詳しく書かれています。非常に興味深いです。

・この方は、IoTわなに洗濯バサミスイッチを採用されています。防水の工夫や、現場環境を考慮した工夫など、これも非常に興味深いです。

◎ メリットとデメリット

洗濯バサミスイッチは、シンプルな機構であり簡単に自作できること、安価であることなどが大きなメリットです。制作費は100円以下です。壊れても自分で直せます。

一方、リードスイッチの場合と異なり、ケース配線を出すための穴を開ける必要があることには注意が必要です。屋外で使用する場合は、接点部の防水を考慮する必要があります。

■ 洗濯バサミスイッチを自作する

今回、自作可能な洗濯バサミスイッチを第一候補とし、実際に自作しました。制作手順をまとめます。

屋外での使用を考慮し、耐久性の高いポリカーボネート製の洗濯バサミ選定。
洗濯バサミにφ3.2の穴を開ける。
水に強いステンレス製のM3のなべ小ねじを選定。ダブルコードの先端の被覆を20mm剥く
(写真は15mmだが20mmの方が巻きやすい)
(今回はM3x10を選んだが、次は洗濯バサミに内側から通しやすいM3x8選ぶつもり。)
配線が引っ張られたときに接点部に負荷がかからぬよう、配線に余裕を持たせて結ぶ。
今回、配線の長さは40cmとした。
なべ小ねじに銅線を時計回りに巻き付ける。
ナットで銅線を挟み込む。
この洗濯バサミではワッシャーが入らなかったが、入るのであればワッシャーを入れる。
完成!なべ小ねじの頭部同士が接触し通電する。間に絶縁物を挟む。

洗濯バサミに絶縁物を挟めば、洗濯バサミスイッチとなります。絶縁物の例としては、ペットボトルを15mm角程度にカットし、パンチで穴を開け、この穴に水糸をつけるなどが考えられます。絶縁物とわなとをつなぐ紐として、ある程度頑丈な(=重い)紐を選ぶ必要がある場合、絶縁物の挟み方を工夫する必要ありそうです。

また、屋外対応のため、ナット側に、シリコーン系の防水材(例えば、バスボンドQ)を塗布すると良いと考えています。

■ まとめ

本記事では、わな作動をとらえるセンサー選びを、下記の3つのステップで考えました。
Step1. 観測したい現象を物理量に置き換える
Step2. 現場要件等も考慮し、どの物理量をどのセンサー種で計測するか決定する
Step3. 最後に、具体的なセンサーを選定する

比較検討の結果、シンプルで安価な洗濯バサミスイッチを有力候補とし、洗濯バサミスイッチを自作しました。工夫しながら自作することが楽しいですね。

次回は、ケース編です。屋外使用におけるケースの選び方についてまとめます。

■ 参考
・IoTわな作動通信システムの開発シリーズをマガジンにまとめています。





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