絶対に忘れない

春、長女は小学校に入学。新しい生活。
我が家も色々と見直すことが多い時期。

家計の見直しをして、家賃の負担を減らすべく
家を買おうかと色々調べているとわかったこと。
お家を買う時、金額の10%を支払う必要がある。

はじめに手出しで払うお金がうちにはない。
あるにはあるが、キャッシュを全部使ってしまうことになる。
それは困る。
手出しまでローンにすると金利がバカ高い。どうしよう？

夫は親に借りられないか相談してみよう、と言う。
そんな事が可能なのかと私はびっくりした。

まぁ家が決まりそうなら相談すればいいか、なんて
夫は呑気に言う。

夜、義父に電話をかけて、家を買った時の話を聞いた。

30年前、当時の金利は4%を超えていて、
元金の支払いができるまで相当かかったこと。

今と時代が違うから、お前の従兄弟に聞いた方がいい。

横から義母が、お金助けてほしいんじゃないの、と
小声で義父にカンペを出すのが聞こえた。

｢なんだ、金くれってか？｣

｢そうじゃなくて｣

私がつい答えると義父母は黙った。

｢お家の金額の10%を先に払う必要があって。｣
｢でもそこのローンを組むと金利がすごく高いんです｣

義父母はうん、と言う以外静かに聞いていた。

｢ボーナスで3年くらいでお返しする計画で
その分のお金貸してくれませんか｣

具体的な金額を告げると義父はそうか、と答えた。

｢その金額でいけるんか、それくらいならすぐ出したる｣

え、いいの？大丈夫なの？
話を聞いてもらえてびっくりした私の中の私が叫んでいる。

泣くのをぐっと堪えて、ありがとうございますって言うと
後ろで義母が言う。

｢お父さんそんなケチくさいこと言わないの！｣

また泣きそうになる。

｢3年くらいは据え置きでいいわ、まだ返さんでいい｣
義父が続ける。

｢新しい生活とかローンの支払いに慣れた頃から少しずつ、
無理なくでいいから｣

もう、嬉しくて嬉しくて。
なにが嬉しかったかって、私の話を聞いてくれたこと。

ただ静かに、私の話を聞いて、
頷いて、助けてやるから大丈夫だ、と言ってくれたこと。

はじめての経験。
親ってすごい。子どもの話をこんな真剣に聴くんだ。
すぐに助けるって、言ってくれるんだ。
こんなに暖かいんだ。

どれほど嬉しかったか。
夫には伝わらないだろうけど、これが普通だと思うだろうけど、
私は経験したことがないから。

私が義父母に助けて欲しいと言ったのは、
これが初めてだった。

今年の夏に義弟の結婚式があって、そっちにもお金を払って、
そして血の繋がりのない長男嫁の相談まで聞いて。

どれだけすごいことか。
世の中ではこれが普通なのかどうなのか、
私にはわからないけど、ただただ嬉しかった。

助けてと言って、それに応えてもらう事。
私がどれほど欲しがっても手に入らなかったもの。

それがこんなにもすぐに受け入れてもらえた、
聞いて貰えたことを、私はきっと、一生忘れない。

｢私が責任を持って、お金の管理をしてお返しします｣

そう言うと息子である私の夫は信用ならんから、と笑いながら
無理はしないでいいから、とまた言ってくれた。

絶対忘れない。
こんな素晴らしい経験をさせてくれてありがとう。
私が欲しかった、親が子の話を聞いて受け入れる、という
単純そうに見えてできなかった事を
やり直させてもらえてありがとう。

次女妊娠中、義母がなにも言わず送ってきた荷物の中に
ノンカフェインの高い紅茶の茶葉が入っていた時と同じ気持ち。

親の暖かさを感じて、茶葉の袋を抱きしめて涙が止まらなかったことを思い出した。

大丈夫。
私には血が繋がらなくても
大事に想って助けてくれる家族がいる。

本当の親には恵まれなかったけど、
可愛い娘達と、優しい夫がいて
大丈夫だといってくれる親もいる。
みんな新しい家族だよ。

大丈夫。大丈夫だよ。
あの時の小さな私に声をかけられるなら、きっとそう言う。

助けてくれる人がいるからね。
幸せになれるからね。

今日の経験は、私の人生において
ずっと心を照らす経験になる。
絶対に忘れない。