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創作小説・神崎直哉の長い1日 第8話 パーフェクトガールー理想的な関係ー



 全てが完璧という少女がいた。

 容姿。頭脳。運動神経。人間関係。

 今、俺の横にいる少女、天堂梓〔あずさ〕はまさに全てが完璧だった。


 街を歩けば、誰もが振り返って彼女の事を見る。

 校内で行われるテストでは常に学年トップ。

 スポーツも何でもこなしてしまう。

 人を差別する事はなく、誰とでも平等に接する。

 非の打ち所がない。

 絵に描いたような完璧さだった。

 だが……

 まあ、いいだろう。

 いずれわかる事だった。



 今、俺は残りあと僅かとなった学校までの道を、天堂と連れだって歩いていた。

 凛はコバンザメの如く、俺たち二人の後をついてきている。

「うう……。お似合いだよ~二人とも。ドラマに出て来る人たちみたいだ~」

 どこか悔しげな口調で凛がぼやく。

 長身モデル体型の天堂と小柄で幼児体型の凛。

「わたしも天堂さんになりたいよ~」

 泣きそうな声で呟く。

 まあ、学園のアイドル的存在として名高い天堂に憧れる気持ちはよくわかる。

 凛はどう見ても小学校高学年程度にしか見えないし。


 そんなとき天堂は、

「凛ちゃんには、凛ちゃんのいいところがあるのよ。ねえ、神崎君?」

 中腰になり、凛の頭を撫でつつ尋ねるのであった。

 俺に振るなよ……

「まあ、ちっちゃいのはちっちゃいのでかわいいんじゃねえの?」

 にぱぁ……と凛は笑顔になる。

 このように天堂は子供の扱いも非常にうまい。


 凛から見れば、俺と天堂は複雑な関係のはずなのだが、今ではすっかり天堂になついている。


 なつきすぎて、俺には心配な事があるのだが……。

 突然、天堂が妖艶な表情を浮かべる。

「調教してみたいなあ……ククク」

「ぶほっ!?」

 噛んでいたガムを吐き出してしまった。

「どうしたの直哉~っ?具合でも悪いの?」


「いや、なんでもない。喉の調子が悪くてな」


 凛にはさっきの天堂の発言が聞こえていないようだった。

 凛はまだ天堂の本性を知らないのだ。

 俺の動揺など知らず、凛は俺が地面に吐き出したガムをティッシュで拾い、包み込んでいた。

「あら。凛ちゃんはえらいのね~! フッ、誰かさんと違ってね?」

 天堂は大母のような表情で凛を褒めた後、小悪魔のような笑顔でこちらを振り向く。


「悪かったな。道路を汚して」

「だいじょうぶだよ~。わたしがキレイにしといたから」

 そこまでやらんでもいいと思うが、こういう所は凛の美点だ。

 そんな事をしている間に、学校までもう目の前になっていた。

 凛が俺がさっき吐き出したガムを学校前のコンビニのゴミ箱に捨てに行っている間、天堂に尋ねる。さっきの唐突な発言についてである。

「いきなりとんでもない事を言うなよ……。凛に聞こえたらどうするんだ」

「あなたは調教してみたくないの? あ~んな素直にな~んでもいう事聞いてくれる子は他にいないんじゃないかしら?」

 悪びれもせず言う。

「あのなあ。俺はあいつを女とは見てないから」

「そ~う? すっごく仲良さげに見えるわよ。私が嫉妬するぐらい」

「嫉妬って……大体俺たちの関係は……、それはともかく。俺が女性恐怖症だって事忘れてないか?」

 実は今も我慢している。

 この距離感は俺にとって、かなりの試練だ。


「あっ、すっかり忘れてたわ。もう契約開始してからかなりになるし」


「あのなあ。確かに他の女よりかは、いくらかマシとはいえ、あんましベタベタされると俺の体がもたない……」

「しっ…」


 天堂が人差し指を口に当てる。

 校門も間近という事もあり、俺たちの周りは学園の生徒でいっぱいだった。

 そうだった。俺たちは契約通りの役割を演じなければいけなかった。


 ふいに、天堂が真っすぐに俺の顔を見据えた。


「うふっ…」

 そんな吐息をはくのと同時に、天堂は両腕を俺の首に絡め、



『うわああああー!!』

『さすが学園の最強カップル!やってくれるぜー!』

『梓様ステキー!!』

 気付いたらあちこちで大歓声があがっている。

 周りには俺たち二人がキスをしているようにしか見えなかったらしい。

 しかし、それは大きな間違いである。

 唇と唇の距離はわずか3ミリ。

 だが、その3ミリに俺たちの関係は全て集約されていた。

 互いの利害が一致した、理想的な契約相手。


 天堂梓は俺の偽装彼女である。

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