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散文・美点
人の欠点をあげつらい溜飲を下げるような生き方より、日常の中に人の美点を見出だし、それが大きなことでも、ささやかなことでも感動を覚えるような生き方を選んでいきたい。心が荒んでしまうような出来事が多々ある今の世の中だからこそ、美しいものを見たいと思う。目に見える美しさだけではない、内面の、心の美しさを感じることができたら、それだけでもその日一日朗らかな気持ちを保ったまま生きていける気がする。
誰も見ていないようなところで、人知れず努力しているところを見たとき、心が張り裂けそうなとき温かい声を掛けてくれる気遣いを受けたとき、そんな美しい光景、美しい出来事が、私をどうにかこの世界にとどまらせてくれている。優しい人たちは殊更に主張しない。呼吸をするのと同等に、さり気なく誰かを助け、見返りなど求めず、逆に笑顔さえ見せてくれる。そうして安心を与えてくれる。美しいと思う。
無遠慮に投げ掛けられる言葉に、傷付く事もある。恐怖感に心は囚われ、まともに身動きすらできないときもある。顔を上げることすらままならず、ただただ地面を見ながら、自らの不甲斐無さに俯くことしかできない。そんなとき、肩にポンと手を乗せ、「だいじょうぶか? がんばろうじゃないか」と笑顔で声を掛けてくれる。美しい笑顔だと思う。
暗くて深い落とし穴に落ち、もうどうやっても戻る事はできない、もうだめだ、おしまいだあと諦めかけていたとき、どこからか懐中電灯が投げ込まれ、スルスルとロープを垂らしてくれ、「これで上がってこれるだろ!」と救いの手を差し伸べてくれる。そのロープはかつて、首を吊ろうと用意していたものだった。結局、使うことなく、いつかその存在すら忘れていたのだが、今こうして自分はそのロープにすがりつき、生きるために地上目掛けて登っているのだ。さあ、のぼれのぼれ、あの光り輝く地上目がけて、のぼれのぼれ、君の目の前には、美しい世界が待っているのだから。君はまだ、世界の全てを知らない。生きて、まだ見ぬ美しい世界を見つけにいこう。君に、温かな安らぎを与えてくれる、美しい笑顔に会いにいこう。
そうして、僕も美しいものになりにいこう。