80&90年代カルチャーへのリスペクトをうたうチリ産ゲーム『Shikon-x 宇宙防衛要塞』を、正しく評価できる自信がない
『Shikon-X』は、ちょっと変わったゲームだった。
面白いとも、つまらないとも、断言できない。
そして何より、このゲームを評価すること自体がすごく難しい。
それにはいくつかの理由があるのだが、オチのネタバレを避けられないのであとで書こう。本当はオチに触れることはあまりよくないのだが、しかしネタバレしないと、なぜ評価しにくいのかを語ることもできない。
『Shikon-X』をひと言で表すなら「チリからやってきた何か」だ。80年代から90年代のゲームやアニメにインスパイアされたという説明通り、イラストからしてもうコテコテの80年代風なのだが、それに反してドット絵のゲーム画面はそうでもない。単純に80年代日本作品のインスパイアなのかと言えば物語のノリはそうでもないし、年代を特定できない雰囲気が漂っている。
オープニングからして『スターウォーズ』のパロディーだったり、松本零士みたいな絵柄のキャラクターがいたり、シャワーシーンが挟まったりもするが、好きなものを詰め込んだのかと思いきや、1つ1つがそこまで深く掘り下げられてはいない。基本的にはアドベンチャーなのだが、物語の流れでレトロ感のあるピンボールや、ゲームウォッチ風のミニゲームが挟み込まれる。
オープニング画面から遊ぶこともできるが、物語のなかではだいたい1回プレイしただけで、あとはとくに触れられることもない。存在そのものが、かなり唐突な印象も受ける割には、ちゃんと作られているので逆に戸惑いを隠せなくなった。そもそもこのゲーム、全体としてボリュームが少ない。プレイ時間は2時間に満たないが、そこにミニゲームが3つ入っている(しかも、そのうちの1つ、カプセル回収は作中で使われていない完全なオマケだ)。
ブロック崩しとシューティングを組み合わせたような戦闘も、もっと用意されているのかと思えばあくまでもミニゲームの1つ。戦闘ミッションは、チュートリアルとその次の2つしかないので、その短さに驚いてしまった。遊んでいた瞬間は、確かに面白いと思える時もあったのだが、あまりに短い。ストーリーも、ここから盛り上がるべきところで終わってしまう。謎も何も解決しないし、納得できるオチもない。消化不良のまま、続きがあるのかもわからないおふざけなナレーションとともに、ギャグで締められてしまう。
ストーリーの8割は壊れたshikon-Xの修理のために駆けずり回っているし、体験版くらいの感覚で物語が終わってしまうのにも驚いた。発売前に出ていた体験版よりは長いが、体験版クリアからちょっと先に進んだくらいで終わるような感覚に近い。ミニゲームも80年代ネタも、導入だけに触れる感覚だ。
インフルエンサーがSNSに書き込んだ、どうでもいい書き込みを予言だと信じている新興宗教関連の話など、物語自体には興味が湧くのだが、どれも中途半端な形で終わっていた。物語はまったく完結していないし、導入部だけをひたすら見たあと、打ち切り宣告をされた漫画のような読後感が漂う。
1,500円のインディーゲームと言っても、流石に短いし、物語も未完結で終わる。面白い部分は確かにあるし、いろいろ詰め込まれているところからも手を抜いているゲームではないのだが、かなり突然終わるのだ。しかし、いざレビューをしようと考えてしまうと、それはできない。
なぜなら、スタッフロールの前にゲーム側からの命乞いが始まるからだ。
ゲーム側が「悪評を書き込むのは止めよう」とお願いしてくるのだ。こんなの前代未聞である。低評価レビューをしないで欲しいと、ゲーム側がお願いしてきたかと思えば、犬と遊んだり、おいしいコーヒーを飲んで書きたかった悪評のことは忘れましょう、と諭してくる。そんな手があったのか?
ゲーム側に低評価なレビューをしないでくれと言われたら、いくらなんでも私だって出来ない。この延々と流れる言い訳のようなギャグを読んだ時点で私の負けなのだ。打ち切りの様な展開も、レビューへの言い訳も、それらをすべて含めて『Shikon-X』であり、ゲーム側もそこを狙ってやっている。
そう、これは続きが変なところで終わったり、打ち切られたりする80年代アニメのインスパイアなのだ。未完結で終わることをネタにしてしまうことも含めて、1つの作品表現なのである。だから、実際に低評価レビューをして欲しくないと命乞いしているわけではない。最初から完結させた話にするつもりは毛頭ないだろうし、突っ込まれることを見越したネタなのだ。
しかし、わかっていても不思議な感情が残る。絵柄と打ち切り展開以外に、あまり80年代感も90年代感もあるようには見えなかったし、何か特定の作品をオマージュしているというよりも、ごった煮にしすぎてよくわからない印象を受けた。たぶん、これは日本にいるだけだとわからないのだ。このゲームが生まれたチリで、当時どんなアニメやゲームが流行っていたのか。このノリをどう受け止めて面白いと感じられるのか。文化の下地がなければ理解できないし、評価もできない。そうした意味でも低評価できないゲームだ。
ゲームを立ち上げたときに出るチリ政府と芸術省のマークやスタッフロールの文章からも、国の支援を受けて作られたことがわかる。海外には、ゲーム開発に対する国の支援制度や資金援助があると聞いたことがある。おそらくチリでも、こうした小さなインディーゲームに援助しているのだろう。
あえてオチの一部を語ったが、このゲームを実際に体験してもらわなければ正しく評価することはできないと思う。自分でも、未だにどう評価していいのかわからない。ボリュームが短いと切って捨てるのは簡単だし、密度に対しての1,500円という価格が適正なのかも謎だ。少々、高くも感じる。
しかし、コレをただ短い、打ち切りだと言い切るのは違う気もしていた。正直に言えば、面白いのかどうかすらも断言できない。わけがわからなかったというのが本音だ。熱量は感じるのだが、その熱を正しく受け止められている気がしないし、正しく捉えられている自信がない。遊んで損をしたとは思わなかったが、もっとチリの文化に対しての理解や素養があれば、このゲームのノリを正しく理解できたのかもしれない。本当に変わったゲームだ。
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