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「“切ない”ってな、たくさん色があんねん。」歌詞考察Vol.3 『Just a “Crush for Today” 』

学生から社会人になりかけている中で、恋愛の内容が複雑でどんどん難しいものになっているように感じる。特に同年代の女性に話を聞いていると、出会っている男性の数が多く、色々な人をたくさん見てきていて、なおかつ男性の年齢が結構上の方とも関わっている。自分とは経験の数が違いすぎて、自分の知らない世界の話を聞けることが最近の密かな楽しみになっている。

歳と経験を重ねていくと、自分の好き嫌いも分かり、異性の行動パターンも覚えるようになる。見える範囲が増える分、許容できることも増えるが、一発でアウトな事項もわかってきて奥手になる部分も出てくる。様々な恋愛を経験する中で、達観する部分や諦める部分が出てきて、恋愛をするということに関して、考え方が複雑になっていくのではないかと妄想した。

数人の話を聞いていて、経験値や人柄によって、同じような恋愛をしていても、感じ方が変わるのだなと思った。様々な恋愛の感じ方を聴いたことで、切ないラブソングの多様な解釈が見つかった。

2人の関係が縮まるようで、離れていってしまうようなもどかしく切ない恋模様が描かれた脇田もなりさんの「Just a “Crush for Today”」という曲を考察していきたい。

シティポップやR&Bといったジャンルを歌い上げるカッコよさと可愛らしさを兼ね備えた歌声が魅力で、この楽曲では脇田もなりさん自身が作詞を手掛けており、冗談伯爵・新井俊也さんが作曲と編曲を手掛けている。新井俊也さんの手掛ける楽曲はどれも素晴らしいのでぜひ聞いてほしい。

『Just a “Crush for Today”(=「今日のときめき」)』というタイトルにもあるように、“恋をしたい、好きになろうとしたけど、なんとなく上手くいかない”、そんな恋愛模様が描かれている。

理想と現実
思い描いた恋は
少し違って甘く切ない

冒頭の歌詞からこの恋の物語の総括、全ての結末が最初から描かれているように感じた。この人とだったら付き合えるかもという期待を寄せながら、良いところまではいけるのだけれども、"付き合うのはやっぱり違うかも"と思い描いた理想には届かない儚さを感じさせる。この歌詞を念頭に置きつつ、考察を深めていきたい。

「地下鉄を乗り継いで~ハートが踊り出す」という歌詞で、2人の距離感の縮まりとこれからの関係を期待させる描写がある。
だが、その直後で「退屈なBGM」という少し不穏な歌詞が出てくる。ここでは、おしゃれな音楽がかかるBARで二人がお酒を嗜んでいる様子を想像しながら考察する。
男性側の好みの曲が流れ、あれこれと解説を語ってくれるが、女性側は話を合わせているといった構図で、互いの内面にある価値観の相違を写し出しており、本来は合わない2人の今後が少なからず暗示されているように思う。

また、「地下鉄を乗り継いで~」の歌詞の前後のブロックで、「夢を見てたいの 恋をしてたいの」だったのが、「夢を見てたいよ 恋をしてたいよ」と語尾が[の→よ]になっていて、気を張っているような、こらえているような語感から、ため息が漏れるような、ちょっと諦めているような投げやりな気持ちになっている女性の心の動きを感じる。

いつも通りの
にぎやかな街並みに
何故か二人は
晴れない心

BARでの会話があまり上手く弾まなかったのか、2人とも大人だから今日はもうここまでだと感じているのか、「にぎやかな街」と対比されて2人の「晴れない心」が描かれている。

また今日も君に恋をして
また今日も君と恋をする

1番のサビがリフレインし、また新たな恋愛に向けて彷徨う女性の様子が浮かぶ。"今回は上手くいくと思ったのにな…"といった堂々巡りをしているように感じる。

この歌詞の解釈はこれだけにとどまらないと思う。
次は“別れの歌”として考察していきたい。

別れ話をされるとは知らずに、待ち合わせに向かっている女の子を想像する。
「地下鉄を乗り継いで~ハートが踊り出す」という歌詞が、ちょっと家からは遠いけれど、ドキドキしながら会いに行っている様子がすでに切なく聞こえてくる。

BARでの「退屈なBGM」も、好きな男性に「少し背伸びをして」音楽の趣味を合わせているけなげな様子が浮かんでくる。別れ話の最中に、2人で聞いた思い出の曲が流れ、今まさに過去の思い出が頭の中にフラッシュバックしているようにも思えてくる。

「何故か二人は晴れない心」が別れ話をした後のモヤモヤを表現し、それでも「無邪気に笑う瞳」をしている彼の「本音」はどうなのかが気になっていて、もどかしい様子が伺える。彼は本当は別れたくないんじゃないかと、このまま本当に終わってしまうの?と彼女の期待とモヤモヤが浮かび上がってくるようで、切なさを強く感じさせられる。

また今日も君に恋をして
また今日も君と恋をする

この最後のリフレインする歌詞が、今度はこのままずっと終わらないで、“あの時のまっさらな状態に戻りたい”という気持ちが伺える歌詞に変化してくる。現実を受け入れられていないからこその彼女の心の叫びがここにはある。

そして、最後にもう1つ解釈を考えてみたい。
“友達関係を続けているけれども、本当は恋愛に発展させたい気持ちを歌った楽曲”として考察してみる。

冒頭の「理想と現実」という歌詞が、[理想=恋愛]と[現実=友情]という風に読み換えられる。本当は相手に恋愛感情を持っているけれども、言い出せずにいる様子が感じ取れる。

Ah 今この瞬間だけは
夢を見てたいの
恋をしてたいの

どの解釈でも当てはまるが、この歌詞では女性の心の内側が投影されている。ここでは、想いを伝えることができずにいるのは、今の関係性がなくなってしまう怖さや、この関係を壊さずとも一方的に恋をすることはできるという強がりがあるからで、無理に内側だけで恋を完結させようとしている心の動きが見てとれる。

「退屈なBGM」も、この関係性を維持するために、男側の趣味、価値観に合わせようとする努力をしている。2つ目の解釈と同じようなものだが、当人にとってはニュアンスが少し違うと思う。相手のことが好きだから、自分のことを気に入って、ずっとそばに置いて欲しいという気持ちが痛いほど伝わってくる。

いつもと同じように飲んで話をしたけれど、やはり相手の本当の気持ちが気になる。そういった気持ちが「晴れない心」や「本音が知りたくて」という歌詞の端々に現れている。今日は何か起こそうとしている彼女がいじらしく、応援したくなる。

また今日も君に恋をして
また今日も君と恋をする

この歌詞が最後にリフレインすることで、気持ちを打ち明けてしまおうか、どうしようかという彼女の気持ちの揺らぎを表しているように思う。恋をしたいけれども、夢を見ていたい。2人がこの後どうなるのだろうかと想像をさせる余韻が、少し心地よく残る。

自分の勝手な妄想とはいえ、ここまで色々な考察ができる曲というのはなかなかない。同じ歌詞でも、いくつもの解釈ができ、同じ歌詞の同じ意味でも解釈の筋が違うだけで、味わいが変わってくるのもとても面白い体験だった。

理想と現実
思い描いた恋は
少し違って 甘く切ない

何と言っても、この冒頭の歌詞が楽曲全体の総括をしつつも、多様な解釈の指針となっているのが、なんともいえない深みがある。

※歌詞考察はあくまでほとんど僕の主観と妄想で構成されていますので、ご了承ください。

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