楽しいミックスCD――オレの好きなミックス15選
Apple Music始めて「千円生活」
最近まで、わたしは、やはり音楽はCDなりレコードなりの「盤」がなきゃダメでしょと考えていた。
が、最近、引越しを経験して、その盤を大量に運ぶのに苦労し、もううんざりしてしまった。なので、もうモノは出来るだけ増やさないようにしよう、そんな思いで、先月、Apple Musicを利用することにした。
ネットがあれば、あれもこれも聴けて月額千円以下。タワレコでは「千円生活」なんて謳い、名盤を廉価で売っているが、そんなの目じゃない。こっちは、あれもこれも聴けるのでほんとうに「千円生活」だ。
Apple Musicのライブラリは、Kindleの読み放題のビミョーなラインナップと違って、かなり充実している。
とくに洋楽が充実していて、目下、ヴァン・モリソン、ジェイムス・テイラー、カーティス・メイフィールドといった多作なアーティストの、「名盤」以外の作品を楽しんでいる。また、話題のR&Bやヒップホップの新譜が聴けるので、旧譜中心だったわたしの耳がなんだか若返った気がしている。
ミックスCDってなに?
しかし、惜しむらくは、中古CD屋で買うものが減ってしまったことである。Apple Musicを始めてからというもの、すでに配信されている(されてそうな)ジャンルやアーティストについては、すっかりチェックしなくなってしまったのである。
そんななか、逆に、物欲を満たしてくれるようになったのが「ミックスCD」だ。
このミックスCDの存在自体、知らない方も多いかもしれない。それもそのはず、ミックスCD自体、流通がかなり限定されており、一部のものを除き、タワレコやアマゾンなどでは扱っていないからだ。当然、Apple Musicでも配信もされてもいない。
このミックスCDとは、ヒップホップが発祥のカルチャーで、既存の曲を次々と繋ぐDJプレイを録音したものと考えて欲しい。古くはカセットテープによる「ミックステープ」があり、個人で手軽にCDが焼けるようになってからは、ミックスCDとなっていった。
なぜ、ミックスCDをつくるのか?
なぜ、ミックスCDを作るのかというと、オレはこんなプレイするぞという名刺代わりになったり、売って小遣い稼ぎになったりするからである。
それゆえ、作り手たちは、個性をだすために、競うように曲と曲の繋ぎ方を工夫したり、他人の持っていないレアな曲を収録したりしようとする。
また最近では、ネットにおいて「ミックステープ/ミクステ」という発表形式も聞くようになった。ネット上のデータなのに「テープ」というのもヘンなのだが、こちらは、すでに誰かが発表したトラックを拝借してオリジナルのラップをのせたりして盛り上がっているようだ。
いまや、概念が広がっていて、一概にこういうものとは言いにくいのだが、とにかく「ミックス」は、既存の曲を編集していくヒップホップならでは表現と考えればいいだろう。
※ ミックスの一例。昔、わたしが友達と作ったもの。
法的にグレー、ゆえにエッジーなミックス作品
ここまで読んで、他人の曲を勝手に使って良いのか、という疑問が出てくると思う。
もちろん、訴えられれば、著作権など侵害していることになるそうである。
このへんの詳しいことは、以下のサイト「弁護士ドットコム」で専門家が解説しているので、そちらで確認して欲しい。
とりあえず、現状は曲の「プロモーション」になるということで、黙認されているようだ。
・DJが作る「ミックスCD」 さまざまな楽曲の「無断利用」は法的に問題ないの?
こういった背景があるために、ミックスCDは、一般的な流通にも、Apple Musicでの配信にもないわけなのだ。
ミックスを聴きたいならば、盤を買うしかないのである。
もっと知りたい人は……
・ドキュメンタリー映画「ミックステープ」(監督 ウォルター・ベル、2006年)では、ミックスの歴史に加え、著作権を巡るDJとレコード会社の論争の一端を知ることができる。
・また、これまで電子書籍オンリーだった小林雅明による『ミックステープ文化論』が、近々、紙の書籍として刊行されるようだ。
・そして、ミックス作品を専門にレビューしているサイト「MIX Tape Troopers」は必見である。
オススメミックスCD15選
では、このミックスCDの面白さを伝えるべく、わたしのオススメ・ミックスCDを15枚を紹介したい。聴きどころポイント別に勝手に5つのジャンルを作ってみた。
その1 「マッシュアップ」系
マッシュアップ=2つの曲を重ねて新たな1曲にする手法。意外な曲と曲とが合わさってセンスオブワンダーなハーモニーとグルーヴが楽しめる3枚がこれ。
・やけのはら/Summer Gift For You
これを聴いたときの感動を忘れられない。マイナーアーティストによる有名曲のカバーやあのダウンタウンの曲が入っていて、こんなキッチュなミックスを聴いたことないと思った。真夏の昼間用。
・The Avalanches/When I Met You
サンプリング手法を用いた世紀の名盤「Since I Left You」の元ネタ音源を使ったミックス。このフレーズが、あのフレーズになっているのかと種明かしをされているようで楽しい。旅行用。
・LATIN RAS KAZ/ MORPHING FORMULA BRAND-NEW WAVE
曲の似ているパーツとパーツを見つけ出し、モーフィングしていくように繋いでいく。いつの間に曲が変わったの?と狐につままれたような気分になる。ひとりで部屋でビールを飲むとき用。
その2 「○×縛り」系
ミックスCDは月に何枚も出るが、DJは各々少しでも目立つようにユニークな企画でミックスをしている。そのなかでナイスな縛りだったのがこの3枚。
・DJ 吉沢dynamite.jp/SUPER和物BEAT其の二
洋楽のヒット曲を歌謡曲としてカバーしたものを集めた1枚。むりやり日本語を当てはめたものもあり、思わず笑ってしまう。友達が部屋に来たとき用。
・MU-STARS/45rpm 45vinyls 45minutes
45回転の7インチレコードを45枚選び、45分内でミックスするというもの。曲がばんばん変わっていく繋ぎでのりのりに。出勤用。
・SEX山口/Free SEX
シャネルズ、ラッツ&スターの鈴木雅之の曲縛り。SEX山口のミックスには派手さはないが、この人の選曲には独特のメロウ感がある。夜中のドライブのとき用。
その3 「辺境」系
DJにとって、他のDJが持っていないレコードを持っているということが強みのひとつになる。よくこんなレコードを見つけて集めたな、というミックス3枚。
・俚謡山脈/俚謡山脈MIX Vol.4
民謡を専門とするユニットDJの4枚目のミックスCD。いわゆるビートがあるわけではないが、どこまで響いていくような深いエコーがかかったような声が気持ちいい。旅館に泊まったとき用。
・Maft Sai/Thai Funk Zudrangma Vol.1
バンコクで活躍するDJによるタイのビンテージ音源(60年代~80年代)だけでまとめた最初の一枚(たぶん)。日本の昭和歌謡、ロックと通じるものがある。熱帯夜で寝苦しいとき用。
・ECD / Private Lesson 5 -Acid Songs-
ベテラン・ラッパーECDの昭和歌謡を集めたミックス。聴いていると、なんだかずーんと深く沈み込むような気分になってくる。冬の散歩のとき用。
その4 「オールジャンルミックス」系
「オールジャンルミックス」は、その名の通り、縛りのない選曲となる。縛りがあると、一見、不自由のようだが、そのジャンルで曲調やテンポが共通しているので、曲と曲が繋ぎやすいという利点がある。だが、オールジャンルミックスの場合、自然に繋いでいくのが難しい。そこをクリアしつつ、ジャンルを大胆に横断していく楽しい3枚がこれ。
・Peanut Butter Wolf/Bass Your Car Streets And Party Beats
今一番イケてるレーベル・Stones Throwの主催者によるミックス。落ち着いたテンポを保ちながらも、レゲエ、ロックにヒップホップ、果ては岩崎宏美(なんで知ってるのか)まで飛び出す。読書するとき用。
・関口紘嗣/ 粋(壱)
都内を中心に活動するDJ(最近はあまり活動されておられない?)がジャンルにこだわらず、「良い曲」を選んでいる。ちなみに、源氏名じゃない、本名っぽい名前のDJは良い曲をかけそうという説を個人的に唱えている。会社帰りの夕方用。
・クボタタケシ/Neo Classics
オールジャンルミックスといえば、クボタタケシ。カセットテープでのシリーズ「Classics」のCDでの続編。土曜日の朝用。
その5 「レコード=楽器」系
DJにとってレコードは楽器であり、円盤をこすったりゆっくり回したりするのは一種の演奏になる。そのレコードの質感を楽しめるのが、この3枚。
・Afrika Bambaataa/Death MIX Live
ヒップホップ草創期である80年代、ニューヨークブロンクスはモンロー・ハイスクールでのパーティーの模様を録音したもの。レコードをズビズビとスクラッチする音にヒップホップの初期衝動を感じる。終電逃して歩いて帰るとき用。
・Biz Markie/On The Turntable
ラッパー・Biz Markieによるミックス。一発録りっぽいのだが、緊張感のないスクラッチが妙な味となり、ヘタウマ感を醸し出している。落ち込んで元気になりたいとき用。
・Compuma/ADWC3
レコードの回転数を下げてかける「スクリュー」の手法を用いてミックスされた1枚。70年代~80年代のソウルやファンクの名曲をゆーっくりとかかると、不思議な酩酊感が漂ってくる。風邪で寝込んだとき用。
以上、独断と偏見でいろいろ区切って紹介してみたが、どれも共通して、曲と曲を関連させたり括ったりして、一曲だけでは気付かなかった音楽の聴こえ方を提案している。まさに、それがミックスCDの面白さなのだと思う。
Apple Musicでは、あらゆるものが網羅されているが、なにか音楽を探す際の検索ワードがいつも同じならば、実はあまり広がらなかったりする。その新しい検索ワードを知るためには、ミックスCDはうってつけだなのだ。
でも、どうやって、好みのDJを探せば良いのか?
こればっかりは、実際にお店やクラブにいって、探していくしかない。先に挙げた映画「ミックステープ」で、ひとつだけ、良いDJの条件が語られていたのでご参考までに。