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新書:『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』、面白い!…けど、距離をとって読む。

 だんだんと混んだ電車に乗ることも多くなってきた。今日の中央線も混んでいて、向かいの男性がこちらに気にせずスマホを突き出すものだから画面が見えた。「尿の切れが悪い」と調べていた。わたしも勉強になった。
 さて、今日は新書。

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■ 『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』
作 者 樋口耕太郎 
発行所 光文社
発 行 2020年
状 態 一回通しで読んだ

 証券会社~ニューヨーク大学MBA~不動産会社とわたり歩いた著者は、沖縄のホテル買収をして経営にたずさわったことがきっかけで、沖縄社会と関わりをもつ。会社を辞めたあともそのままのこり、いまは大学で教える。本書は「沖縄から貧困がなくならない本当の理由」について、著者が何年も酒場で毎晩おこなったという膨大なヒアリングをもとに論じている。Amazonレビューでは評価にばらつきがあるが、論拠(ヒアリング)の精度をどう捉えるかで分かれている。

 それは別として、内容は明快かつ情熱的でいっきに読ませる力がある。貧困などの社会問題に対する施策は、しばし「対処療法」になりがちだという。どうしてそうなるのか、それがなにを生み出すのか、そのメカニズムをシンプルに説明する。いま、われわれは問題が起こるたび、「対処療法」的な施策を繰り返し(それを支持し)、痛みを中毒的に和らげている。その代償として、問題の根本原因を考えること、ひいてはあるべき社会とはなにかを考えることができなくなってしまっている。

 そうか、なるほどなるほど……と、本書の言葉は明解だ。や、明解「すぎる」ようにおもう。終盤、問題の対処法として「自己愛」を高めることを語るが、それはちょっと「紙一重」な感じもする(たしかに、それも大事だよねともおもうんだけど)。なので、本書の言葉とは、ちょっと距離をおく必要がある。やはり現実ってもっと複雑だろうから。本書は、著者のはじめての本になる。これまでの経験でたまっていたモチーフをストレートに書いたのだろう。この「勢い」は、はじめての一冊ならではのものだ。音楽レビューによくいわれる「初期衝動」ってやつである。いきおいある言葉に読んでるあいだ、元気になった。そういう本ってなかなか出会えないから貴重よね。

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