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SURREALISTEの世界

前回の章では、SURREALISTEの新作について1部ご紹介しました。この章では引き続き、過去のSURREALISTEについてを交えつつ、「SURREALISTEの世界」を描こうと生きた男の話を深く掘り下げながら、新作と併せて皆様にご紹介していこうと思います。

これを読み終えた頃、貴方もSURREALISTEの虜になっていることでしょう。そんな烏滸がましいスタンスですすめていきますので最後まで御付き合いくださいませ。

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【SURREALISTEを構築するイメージ】

今までにSURREALISTEについて話す際、「どこからイメージが湧いてくるのか?」という点について深く言及してこなかった。

そんなSURREALISTEを象徴するイメージを言葉にするなら、繊細な造形から漂う色気と美しくも奇妙で神秘的な世界観。
このイメージを何故ブランドで描くことになったのか。その理由を順を追って話していこう。

【自分の中の繊細な感受性】

物作りをする以前、自分にとって繊細な感受性というのは、人間的な弱さだと思っていた。
人の顔を伺ってしまう、自分に自信がない、自分の感情の浮き沈みに飲まれてしまうなど、そういう自分の弱さが嫌いだった。許せなかった。

そんな自分にとってシルバーアクセサリー特有の無骨さやカッコ良さは自分の憧れで有り、自分の求める精神的な強さを与えてくれるような存在だった。無骨でボリューム感のあるものを着けることで人間的にも精神的にも強くなれた気分なれた。そうして自分は「無骨で男らしく力強い」デザインを作りたいと思うようになり、いつしかそれが自分のやりたいことなんだと考えるようになった。

しかし、色んなデザインのアクセサリーを作っていくうちに、いつの間にか自分が作っていたのは、「スカル」や「クロス」などのインパクトのあるモチーフ系ではなく、滑らかな曲線美で構築した「抽象」的な形だった。

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【虚栄心に蝕まれた精神】

専門学生だった頃、自分は決して作る技術力が飛び抜けて上手いわけではなかった。美術で絵が上達するためには模刻やデッサンなど「模倣」からこつこつと練習していくのが基本中の基本。それはシルバーアクセサリー制作においても同じだ。そんなことは分かっていた。けれど誰よりも早く形にしたい、早く認めてもらいたいという気持ちが基本を疎かにし、自分を驕った。そんなことをしていれば当然自分の技術力の向上は遅くなり、周りの同級生や先輩達と比べたらその差は歴然。なのに自分の甘えを認めず勝手に悔しくなりどんどん自分の烏滸がましい気持ちが増す一方だった。

そんな分かりきったことを知っていたのにも関わらず、「これが俺の世界観、作りたい形だから」とデザインだけで自分のもの作りへのアプローチをして強がっていた。要するに「下手なの認めたくなくて、デザインセンスは俺の方がいいからね」という情けない虚栄心。今振り返ればなんと滑稽なことだったろうと思う。

自分には具象的なモチーフで作るよりも抽象的な作風で表現する方が「カッコいい」と思い込んでいた。そして自分は抽象的な無骨でボリュームのある物を作れていると思った。技術が無い故に生まれたコンプレックスのようなものが、そんな自分の自尊心を満たそうとしていた。

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※2015年初期

【虚構と事実の間に起きた亀裂】

そんな愚かな自尊心の為に見栄を張って続けていくうちに、気づけば周りが自分の作品に付けた評価は「繊細」という言葉だった。なんでだ?俺はカッコいいって思われたかったしカッコいい物を作ったはずだ。繊細なんてのは華奢でインパクトに欠けていて下手だっていうのを遠回しに嫌味を言われているような気がしてならなかった。

繊細なわけがない、俺は弱くなんかない、もっと力強くてカッコいいっものを作りたいんだと心底思った。まるでバカにされたような、作品と人間性そのものを否定されたような気分だった。そうしてどんどん作る物の重量感やデザインを足し算していくようになっていた。そしてついに、自分の中で何かが崩れ始めた。

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【憧れは理解からは最も遠いこと】

頭の中で自問自答のようにその言葉が過った。手が止まった。そして何も浮かばなくなった。どんな形を作っても納得どころか「なんでこんな歪なものばかり」と原型を壊して作業台の前で苦しむ日々が続いた。「君の作る物は繊細だね」と言われた言葉が呪いのように繰り返し頭に響く。

「自分の中には男らしい無骨でカッコいいものを作れる精神性がないんだ」という事実を受け入れるしかなかった。

自分が作りたかったカッコいいは、今まで雑誌やお店でみた先人達の生み出した「憧れ」であり、そしてその憧れは「理解」から最も程遠いもの。そんな力強いアクセサリーを好きになったからこそ同じようなものを作りたいと思っていた。

しかし、本当は自分の繊細すぎる感受性を守るために自分の人間性とは正反対のテイストのアクセサリーを身につけることで、自分の今にも崩れそうな繊細な精神を守っていたのかもしれない。自分が憧れた強さを作り上げることは出来なかった。

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【「弱さ」と感じていた「繊細」な自分】

自分の繊細さを受け入れるようになって制作するようになった頃、友人やお客様からの評価が変わっていたことに気がついた。「繊細で美しい」「色気があって素敵」「女性でも着けれるね」と言われるようになっていた。

最初こそなかなか受け入れ難い気持ちではあったが、何度も言われていくうちに自分の中で少しずつ心境の変化が起きた。今まで自分は繊細な一面を弱さと思っていたのに、それが「美しいモノ」として捉えられるようになっていた。

繊細なことが弱いことじゃない、繊細である自分を認め受け入れることこそ、本当の強さであり美しさであることをこの時知るのだった。

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【繊細だからこそ描ける世界】

今まで憧れてきた無骨でカッコいい世界ではなく、自分の繊細さだからこそ描くことができる美しさやかっこよさはなんだろうと考えた。
ある日、一冊の恋愛小説を読んだ。そこには主人公の女性の美しさや儚さ、弱さや強さなどが美しいストーリーで紡がれていた。その小説に感動した自分は男性でありながらも女性が持つ繊細な感受性に惹かれていたのだった。

「もし、目の前にこの小説のような女性がいたら、俺は彼女にどんなデザインを描こうとするだろうか。」

そんなことが頭に浮かんだ。
そうして浮かんだイメージは、後に制作する上で自分の頭の中で重要な種となり、そのイメージを浮かべながら手を動かすと自然と自分の作るアクセサリーのシルエットが心地よい物に感じられた。レディースに向けて作ってるわけじゃない、メンズに向けて作ったわけでもない。男女ともに美しいと思ってもらえるような境界線のない世界が広がって見えた。

【SURREALISTEの現実、そして非現実】

自分の描く繊細で美しい幻想の世界をイメージし続けながら作り続けてきた。そうして求め続けてきた自分の描く本当のSURREALISTEの世界を写真によって表現したいと思い、自身でシャッターを押した。


2021年、ANTIVIRAL1周年と同時開催した新作展示会。その時に発表したルック写真はSURREALISTEの世界観を高い解像度で表現できた1つの作品だ。儚さ、弱さ、美しさ、強さ、妖艶さを表現するために3スタイルで構成されたルックはSURREALISTEの描く世界そのものだった。


繊細で儚い雰囲気を描いた一枚目。ブレスレット、チョーカーネックレスの繊細な透彫のアラベスク模様が手首と首元で共鳴し合うスタイリングを組むことで、手首や首元から見せるシルバーの輝きは艶めかしさを感じさせる。現実でありながら非現実のような、まるでこの美しさは現実に存在していないかのような幻想的世界観を表現した1枚だ。

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※Model:東 真千子   Photo:長山 元太
Neck・SL-N-10(¥39,600-)
Bracelet・SL-BR-07(¥107,800-)


ワイドなサイジングで有りながらもボリューム感を抑えた主張しすぎないリング、揺れ動くような曲線美と大胆な透かしが施されたブレスレット、胸元に揺蕩うチョーカーネックレスは、キャミソールドレスのエレガントな雰囲気の中に毒気を感じる妖艶なオーラを秘めた世界を表している。美しさとは時に毒のように身体を蝕み、更なる美への欲求を駆り立てる危険な香りを漂わせる。美しさの為なら身も心も厭わないと思ってしまう程の魅力的な世界を描いた。

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※Model:東 真千子   Photo:長山 元太
Neck・SL-N-08(¥59,400-)
Ring・SL-R-26(¥41,800-)
Bracelet・SL-BR-06(¥71,500-)


美しさとは、時に絶対的な力強さを放つ存在。繊細な美しさを持つアイテムを重ね合わせることで、それぞれの存在が際立ち身に纏う者をより美しく変貌させる。それはまるで「美の革命」のような、今までの自分ではない新しく生まれ変わった自分にしてくれる。首元で一際存在感を放つ大振りのブラックフェザーは、まさに己の求めた揺るがない美を象徴しているかのようだ。透かし彫りのデザインで統一したアイテムはボリューム感がありながらも、いやらしく見えないエレガントなスタイルに昇華している。
自分の求める本当の姿を描いた1枚だ。

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※Model:東 真千子   Photo:長山 元太
Neck・SL-N-11(¥94,600-)
Ring(Right / Left)・SL-R-26 / SL-R-27(¥41,800- / ¥33,000-)
Bracelet(Right / Left)・SL-BR-07 / SL-BR-05(¥107,800- /  ¥78,100-)


こうしてSURREALISTEは新しく生まれ変わった。それはものづくりにおけるデザインや技術だけでなく、制作者の心の揺らぎや思想が大きく関係している。繊細が故にダイレクトに作られたアイテムに心情が現れる。まだまだ至らないところはたくさんある。自分が成長していくために、ブランドが成長するために、これからも自分自身と向き合いながら作り続けていくことになるだろう。
次の世界を描くために。

【溶けるSURREALISTE】

さて、そろそろ終わりが近づいてまいりました。過去のSURREALISTEのストーリーから現在に至るまでの軌跡を書いてきました。
そしてこれから生まれるSURREALISTEの世界はどうなっていくのでしょうか。それは筆者自身ですら予想することが出来ません。ただ1つ言えることは、SURREALISMが生まれた1924年の「シュルレアリスム宣言」の時ですら、誰もが見たことのない夢の世界を描こうとしていました。そうしてたくさんのシュルレアリスト達がこの世にたくさんの素晴らしい「夢」を残しました。まだ見ぬ美しい世界を。

自分はその夢に魅せられた一人です。
自分ですら想像のつかない幻想的な世界を今これをお読みの貴方と見れるかもしれません。
その日が来るのを楽しみにしています。

最後に、シュルレアリスムの創始者アンドレ・ブルトンが残した有名な言葉をここに記して終わりとさせていただきます。

愛しい想像力よ、私がお前の中でなによりも愛しているのは、お前が容赦しないということだ。(シュルレアリスム宣言より)

【終演】

皆さん、最後までお付き合いくださりありがとうございました。
いかがでしたでしょうか?ある男の滑稽で情けない姿から夢に魅せられ自分を疑いながらも信じ続け描かれた夢の世界を描くお話。ひとまずここでこの物語は終わり。
しかし、実はまだこの物語には続きがあるんです。

え?まだ終わりじゃないのかって?

まぁ落ち着いてください。
この物語の続きはまだ誰にもわからないのです。

分からないのに続きがあるって意味わかんない?何をいっているか分からない?

もう物語の続きは始まっているのですよ。
ほら、これを読んでいるそこの貴方。

これから描かれる世界の住人として物語はすでに進み始めています。

その世界を見る頃に、貴方もSURREALISTEの世界に魅せられた夢見る人になっているかもしれません。

では、またここでお会いしましょう。
ご機嫌よう。

ANTIVIRAL
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