005 代謝⑤ 有機段階の農業の物質循環

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風化した岩石の粒子や火山灰、有機物の分解残渣が年々堆積して土となりますが、その作用は地質スケールの長い時間をかけて行われてきたものでした。

人間の農業も自然のサイクルをうまく使ったものでしたが、自然が行う作用とは大きく異なる点があります。それは、育った植物を収穫によってその土地からどんどん外に持ち出してしまうことです。

植物は大気中や土の中から物質を吸い上げて固定することで体を作っていきます。植物が枯死してもその場で分解されて土に戻れば、物質の循環・蓄積は成り立ちますが、作物の少なくとも食用部分が収穫のたびに農地から持ちされていくと、やがては植物の成長に必要な物質が欠乏していくことになります。

有機物の骨格となる炭素は大気中の二酸化炭素から、窒素成分はマメ科の雑草や植物があれば、補給することができますが、リンやカリウムは、長い時間をかけて土壌中に蓄積されてきたものか、灌漑水に溶けて上流からわずかに流れてくるものに頼ることになります。農耕を行っていた人間は、次第に悪化していく収穫に直面していたものと想像します。

物資の欠乏を補う手段として、まずは刈敷客土が考えられます。山から集めてきた落ち葉等や、それを発酵させたものや灰にしたもの、あるいは山の土そのものを土に加えて、養分を補うものです。日本では青い草等を田に敷き込んでいたといいます。

その次に考えられるのは、家畜の糞尿の利用です。糞尿には摂取した食物の消化残渣と、食物を同化してつくられた体組織の老廃物等が含まれています。これを土に施すと、家畜が食べた外部の牧草や飼料の養分をもたらすことになります。

物質の循環の観点から理にかなっていたのは、魚肥人糞の利用です。

農地に限らず、陸上に降り注いだ雨水は重力によって流下し、土壌や岩石中の栄養分を溶かし込んでやがては海に流れ込んでいきます。山崩れや土地の浸食によって土砂そのものも海に流れていきます。魚等の海中の生物は、それら栄養分を摂取、濃縮・蓄積していきます。これを人間の手によって重力に逆らって陸上に施せば、重力とともに海に流れ去ってしまった栄養分を再び陸上で利用することができます。

人間はその場の農産物のほか、外部の土地の農畜産物、そして海産物も摂取します。人糞の利用は、家畜の糞と同様の効果に加え、魚肥と同様の海から陸上への物質循環の効果もあります。

このように、自然が長い時間をかけて作るサイクルに対して、人間が食用とすることから生じる農業につきもののアンバランスは、外部から自然、とくに生物由来の物質を補うことによって満たされるようになりました。農作物は引き続き生産されるものになりました。

農業の生産が安定すると、やがて新たなアンバランスを生じることになります。人口の増加です。人口の増加にともなって耕地や都市等、人間活動に供される土地が広がっていくにつれて、農地に物質を補う外部としての自然が、陸上では縮小していくことになったのです。

近世の末期には、ヨーロッパでも日本でも、薪炭用や、工業など各種経済活動によって、山林や共有地が荒廃していきました。イギリスでは家畜用の放牧地が囲い込みによって利用できなくなったりしました。

にもかかわらず、人口を養うために農業には以前にもまして必要なのは変わりはありません。食糧生産の先行きが心配されるようになり、農場に物質を補うために、「外部の自然」以外の何かが切に求められるようになってきました。

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