004 代謝④ 自然の有機物生産

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物質としての植物

植物の体は細胞で成り立っており、分子としては70%の水、2割強の糖質のほか、タンパク質と脂質、微量の無機物質から成り立っています。

糖質やタンパク質、脂質といった主に炭素からなる有機物を、動物は他の生物を食べることによって摂取しますが、植物は、と空気中の二酸化炭素を材料として体の中に取り入れて、光合成等の作用によって自分の体の中で作ります。

ほかに植物の成長に必要な物質として、窒素リンカリウムが主要三要素として挙げられます。

窒素はタンパク質等に、リンは細胞膜やATP(エネルギー貯蔵物質)、遺伝子等に、カリウムは細胞液等に使われます。

窒素、リン、カリウムは、植物の根によって土から吸収されます。根から吸収されるのは、主に、他の生物の遺骸や老廃物等の有機物が微生物によって分解され、イオンの形になったものです(アンモニウムイオン・硝酸イオン(窒素)、リン酸イオン、カリウムイオン)。

大地の歴史 植物が育つようなるまで

地球の陸は主に岩石からなっており、火山の噴火、海底の隆起等によってできます。岩石は主にケイ素(火成岩の一例で60%)やアルミ(同15%)、鉄、カルシウム(石灰岩の場合40%)等の酸化物等からなります。リンとカリウムも岩石の中に微量含まれています。

岩石は、大部分が植物をはじめとする生物にとって利用しにくい物質でできています。また、大きな固い塊なので、形態としても利用しにくいものとなっています。

岩石は、永年、風雨や流水、乾燥、温度変化などにさらされると、部分的にもろくなり、崩れてはやがて細かい粒子になっていきます。

雨水は大気中の二酸化炭素を若干溶かし込んでおり、ごくわずかに酸性になっているので、岩石の成分を溶かし込むことができます。岩石が細かい粒子になり、水に触れる表面積が増えると、岩石の成分を溶かし込む程度は大きくなります。

陸の岩石に対して、大気を見ると、その約80%を窒素が占めています。約20%を占める酸素が生物体内でエネルギーを発生させるもとになったり、約0.03%の二酸化炭素が有機物の原料になったりするのに比べて、大気中の窒素分子は植物や動物を含めた大部分の生物にとって利用しにくい物質です。

水中や地中の微生物の中には、大気中の窒素を取り込んで、アンモニアを合成するものがあります。特に大きな存在はマメ科の植物の根に寄生する根粒菌です。アンモニアや、それがさらに別の微生物に酸化されてできる硝酸が土の中でイオンになったものは、植物が根から吸収することができます。

無機的で生物にとって取り付くしまのない物質である岩石と大気から、雨水や微生物の作用によって、植物が育つ素地ができてきます。

はじめは苔のような植物が着生すると考えられます。微生物の一部や苔をはじめとする植物は光合成をして、大気中の二酸化炭素と水から有機物を固定・生産して、自分や子孫の体を成長させます。こうした植物や呼び寄せた動物の老廃物や成長した後の遺骸は、微生物によって分解されます。分解された有機物は、他の生物に利用されたり、二酸化炭素や窒素として大気中に蒸発したりしますが、残りの部分が岩石の粒子とともに次第に地面に蓄積されていきます。これがです。

土は、ただの岩石とは違って、水分や各種養分を保持する能力があり、微生物等のよい住み処や植物が根付く土台にもなります。ひとたび土ができると、気候が植物の生存に適している限り、光合成による有機物の生産・固定→老廃物や遺骸の微生物の分解→残渣の土としての堆積→植物の根付き、というサイクルを繰り返すことになります。人間の農業はこのサイクルを利用したものといえます。

この自然のサイクルは雄大な時間のスケールで行われてきました。これに比べて、人間の農業はこれをはるかに速いペースで利用するものです。自然のサイクルとの差は、農業をつづけるにあたってやがて困難となって立ち現れてくるようになります。

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に続きます。

※参考文献
土と微生物と肥料のはたらき 山根一郎著 農文協刊

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