希望の代償
「我らは敬虔なる神の信徒である。神の名のもと、侵略者どもを殺せ!」
一人の男が声高に叫ぶと、周囲の集団がそれに呼応して雄叫びを上げる。手を振り上げ、天に向けられた銃口は、さながら神に対する冒涜とも取れる、と。ただの一般人に過ぎない俺は無力な自分を恨みながらも、そう思った。
俺は今年で一六歳になり、高等教育を受けられる年齢にあるはずだった。だがこの街に存在した高等学校とやらは、すでに爆撃により灰燼と化した。
彼らは言った『我々が勝利した暁には、信徒たる諸君には安寧が訪れることを約束する!』と。
しかし、現状街を覆うのは果てしない飢餓に、死への恐怖だけだ。
そして今日も、彼らは車のエンジンを轟かせ、砂塵を舞い上げ走り去った。
それを確認した俺はボロボロのスニーカーを履き桶を抱え、彼らの言う〝侵略者〟の支配域へと水を求めて足を運ぶ。
何の嫌がらせか知らないが、どうにも今日は夏至らしい。照り付ける太陽にわずかな水分を奪われながら、数十キロの道のりを歩くのだ。水の為だけに。
そして、折り返し地点となる井戸に到着すると何時ものように彼らがいる。侵略者さんたちだ。
侵略者さんに情報を流し、僅かな食糧を受け取る。これが俺の生きるすべだ。
解放を叫ぶ彼らは、俺たちに何をくれただろう? 少なくとも俺には、彼らが何かをもたらしてくれた記憶はない。
だが目の前の侵略者と呼ばれた兵士は違う。裸足で歩く俺に、新品とはいいがたいが靴をくれた。食料をくれた。そして、水をくれた。
いくら神にすがっても、どれだけ祈っても、神はなにもしてはくれなかった。神などいないのだと、気が付いた時には父も母も死んだ。残った兄弟の為に、俺はここにいる。
彼らに知られれば間違いなく殺される。でも、どうせ死ぬにしても兄弟の為なら悪くない。
乾いた笑みで侵略者に礼をして、俺はまた長い道を歩き家に帰る。
それが、俺の生き様だ。