カボチャ男

何故、俺は吹雪の中カボチャを被り、只一人で寂しく歩いているのだろうか。肩とカボチャヘッドに積もった雪を振り落としながら、切に思う。
 折角の冬至にランタンでも作ろうと、近所のスーパーに行き刳り貫かれたカボチャを買うまでは良かった。
 ただ、帰ろうと思った途端に吹雪になるとは……。流石試された大地、極寒の北海道。
 頭に積もる雪、寒いというか痛い耳や顔はさすがに生粋の道産子でも耐えがたい物がある。そこで、さっき購入したカボチャを被ってみたが……、意外と快適なものだ。少なくとも耳は痛くなくなった。物凄くカボチャ臭いが。
 一人寂しく、レジ袋を片手に帰宅していると、ふと今自分の着ている服に目が留まった。
 暗めの黄緑色に黒のラインが入ったジャケットで黒いズボン。これ、あれじゃね?
偽マ〇ティーじゃん……。
 てかそもそもの話、吹雪の中からカボチャ被った奴が現れたらホラーじゃんか……。
 しかも夕暮れ時に買い物に出発したので、すでに薄暗くばっちりホラー的な雰囲気を醸し出している。
 ヤバイ、誰かに出会ったら通報される……。
 でもまぁ、偽マ〇ティー姿なのだし、多少の中二心を持ち合わせている俺は存分にソレをくすぐられてしまう。
「連邦政府閣僚各員に申し上げる!」
 どうせ周りには誰もいないし、この吹雪だ。誰にも聞こえないだろう。
「私は……」
「私は?」
 え? そっと後ろを振り向くと、しっかりと厚着した妹がきょとんと俺のカボチャフェイスを見つめていた。
「何やってんの?」
 しゃべるな、神経がいらだ……、ゲフンゲフン。マジで心臓に悪いからいきなり出てくんな!
「なんでいるんだよ! てか、なんでコレ被ってるのに分かったんだよ!」
 恥ずかしさから捲し立てるが、幸か不幸か赤面した顔はカボチャ君のお陰で隠れていた。
「買い物行くー、ってそのまま返事も聞かず出て行ったし、私も買い物したかったから準備して追いかけたら、変質者見つけて通報しようかと思ったら、にいだった」
「変質者いうな。で? もっかいスーパー行くか?」
「寒いし、変質者連れて行きたくないし、もういいや。帰る」
 こいつ、好き放題いいやがって。
 そんな事を思いつつカボチャヘッドにもすっかり慣れた俺は、帰宅し風呂を沸かして台所へ立った。
 寒がりの妹を先に風呂に行かせ、冬至らしくカボチャの煮物でも作るとするか。そう思い作業している時だった。
 ピンポーン、とベルが鳴り玄関に向かうが、カボチャを被っていた事を思い出し頭からソレを外して、玄関の脇に置いてドアを開ける。
 すると……。
「すみません、警察です」
 は?
「この辺りで、カボチャを被った変質者が少女を誘拐していると通報を受けまして。何か知りませんか?」
 そう言いながら、警察の視線が玄関に置いたカボチャを凝視している。
「ななな、なんの事ですか?」
 ちょっと声が上擦り、ギラギラとした鋭い視線が俺の顔面を突き刺す。
「どうしたのにい?」
 ジャストタイミングで風呂上りの妹が、バスタオル姿で顔を出してくる。
「ちょ、出てくんな!」
「ちょっとお話聞かせてもらえるかな?」
「これは違うんです!」
 今、冬至の長い長い夜が幕を開ける……。

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