読書レビュー2冊:①「悪の芽」②「パレード」
①「悪の芽」著:貫井徳郎 2024年1月初版 文庫396ページ
面白さ:★8.5 おすすめ度:★7.5 読後感:もやもや
○あらすじ
順風満帆な人生を送っていた一流企業の会社員が、無差別大量殺傷事件をきっかけに過去の「罪」と向き合うストーリー。
凶行の原点を探るために犯人の人生を辿る中で、誰の心にも宿る「悪」とそれがもたらす悲劇、現代人の心の闇に切り込む。
○レビュー
主人公の安達は、小学生の同級生が事件を起こしたこと、さらにその同級生は安達が昔つけた「渾名」が原因でいじめに遭って不登校になっていたことを知る。
償いきれない罪とどう向き合うかという安達の苦悩と、犯人の人生を辿るストーリーに惹き込まれ、すらすらと読むことができた。
今年出版された書籍だけあって、簡単に人の人生を歪めてしまうネットの誹謗中傷の危険性がリアルに描かれている。
作品で焦点になったのは「想像力」。自分と全く異なる地位・環境で過ごす人間の生活をあえて意識することはないし、想像することはできない。大小様々な諍いは想像力の欠如によってもたらされるのかもしれないとさえ思えた。
人間の想像力には限界がある。そこに絶望して全てを諦めることも仕方がないのかもしれないが、この先も人間が「進化」していくために想像力の輪を広げる必要があり、人類は大きな分岐点にあるのではないかと感じた。
同じくいじめに関与していた真壁や被害者遺族である江成の掘り下げが中途半端に終わってしまい、個人的には少しもやもや感が残ったため、おすすめ度は★7.5とした。
②「パレード」著:吉田修一 2004年4月初版 文庫309ページ
面白さ:★8.0 おすすめ度:★7.0 読後感:衝撃
○あらすじ
都内の2LDKマンションで共同生活をする若い男女4人。特殊な関係性の4人にさらにもう1人が加わり、少しずつ変化が現れ始めるストーリー。
物語は5人それぞれの視点で1部ずつ描かれる5部構成となっており、20年前の作品であるため少し現代の生活や感覚と異なる部分がある。
○レビュー
5人それぞれの視点で語られるパートがあるが、それぞれの人物がいるようでいないようなリアルな人物として描かれており、似たような年齢・性別の登場人物の書き分け、人物像の掘り下げが上手く読むのが楽しい。
基本的には大きな山がない日常パートが続くが、飽きることなく読み進めることができた。
初版から時間が経過して少し時代設定が古くなっているが、現代と比較しながら違いを楽しむこともできる作品になっている。
作品で焦点になったのは「本当の自分」と「偽りの自分」。と言っても「本当の自分を探す!」というストーリーではなく、登場人物の1人が共同生活をするために都合が良い自分を演じる中で、本当の自分というものは存在せず、その人から見た自分がいるだけだと思うシーンがある。
読後感は「衝撃」と書いたようにラストシーンに近づくにつれて驚きの展開がしれっと入り込んでくるが、そこでも何が本当で何が偽りなのかが問われる展開になっている。
やや唐突感が否めないため、おすすめ度は★7.0としているが、群像劇が好きな方、違う世界の日常ストーリーが好きな方にはおすすめしたい。