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ワインエキスパート試験合格までの道のりと今後の目標

2024年10月、J.S.A.ワインエキスパート呼称資格認定試験(以下、ワインエキスパート試験)に合格し、晴れて日本ソムリエ協会認定ワインエキスパートになることができました!

この記事では、業務の傍ら研究活動とワインエキスパート試験以外の勉強を並行し、強い時間制約の下で「めざせブドウバッジ」を合言葉にワインと向き合い、合格を勝ち取るまでの道のりを紹介します。また、学びを通じて強まったワインへの想いと、今後の目標についても書き記しておきたいと思います。

複数テーマ混ぜこぜの合格体験記ですが、個人ブログということでご容赦ください。やや極端な事例ではありますが、似た境遇のワインラバーの参考になれば嬉しいです。


受験を決めるまで

今でこそ愛してやまないワインですが、たった2年前まで、ワインは私にとって「ハマってはいけないもの」の筆頭でした。興味はあるけど、きっと凝り性の私は際限なく課金し、ワイン破産をしてしまうだろう。二十歳の頃からシャンパンと赤ワインはうっすら好きだったけど、我慢しなければならない。このように考えてしまい、ワインにのめり込まずに過ごす日々が十年以上続いていました。

ところが、転機が訪れます。いくつかの条件が整い、元々食いしん坊だったことも手伝って食事だけで一休ダイヤモンド会員資格を維持できるほど一人でフレンチを食べに行くようになりました。一人フレンチは目の前のお皿との真剣勝負で、そんな真剣勝負のお供はもちろんワインです。レストランのソムリエ/ソムリエールさんのサポートを受けつつ、料理とワインのペアリングを楽しむようになりました。

半蔵門ARGOさん(閉店)でのワインペアリング。今思えばメドック格付け4級ポイヤック村のデュアール・ミロン・ロスチャイルド

こうなったらもう止まりません。もっとお料理とワインのペアリングを味わいたい。ワインの解像度をグッと上げて、もっと楽しくワインが飲みたい。こうして無事(?)我慢ができなくなり、一冊目のワイン解説本を手に取ることとなりました。『図解ワイン一年生』は擬人化されたキャラクターでぶどう品種の特徴を掴んでいける素晴らしい書籍で、この本を読んだことでぶどう品種の理解が深まり、ワインライフがより楽しくなっていきました。ワイン沼に足を踏み入れた瞬間です。ちなみに推しキャラクターは甲州とピノ・ノワールで、この2品種はテイスティングも少し得意です。

ワインを題材にした漫画『神の雫』も全巻読みました。Kindle Unlimitedで読めてしまったのが運の尽きで、日に日にワインにのめり込んでいきました。

また、「教養」という切り口でもワインを学びました。『世界のビジネスエリートが身につける 教養としてのワイン』を読んだ経験は、ワインに対するリスペクトを深めると同時に、ツールとしてのワインの位置づけを理解するきっかけとなりました。

ほぼ同時期に、後に私が師事することになるソムリエの佐々木健太さんが出演されているYouTube動画を視聴し、あまりの話の上手さに感銘を受けるという出来事がありました。すっかり佐々木先生のファンになった私は、佐々木先生の手掛けるワインのサブスク「Homewine」を始めてみることにしました。

こうしてワインに親しんでいく中で、どんどんワインペアリングが楽しくなり、ワイン自体も好きになっていきました。この頃にはもう「ワインは知れば知るほど楽しくなる」という確信に至っており、ならばワインエキスパートを目指してみようと考えるのは自然な流れでした。そして、手越くんの合格(2023年)を機に2024年の受験を決意したのでした。めざせブドウバッジ!

一次試験

迷わず佐々木チルドレンに

作戦①:迷わずワインスクールに入会する

試験自体の詳細な説明は公式サイトや他の記事に譲りますが、ソムリエ・ワインエキスパート試験はCBT方式で知識を問われる一次試験とテイスティング能力を問われる二次試験があり、特に一次試験が難関です。しかし、冒頭の説明の通り私にはあまり時間がありません。そこで、学習効率を高めるために迷わずワインスクールに入会することを決め、最も自分に合っていると思われるヴィノテラス ワインスクールのソムリエ・ワインエキスパート一次試験対策集中コースを選ぶことにしました。決め手は以下3つです。

  1. オンライン講義で時間と場所を選ばず学習できる

  2. 講義動画を倍速で視聴できる

  3. 講師があのソムリエの佐々木健太先生である

こうして私は佐々木チルドレンとなったのでした。

受験生に絶望を与える日本ソムリエ協会の教本

講座がスタート。しかし……

ヴィノテラスの一次試験対策講座は3月にスタート。「ソムリエ/ワインエキスパート関係なく、後進のプロを育成する」と意気込む佐々木先生の熱血指導を受ける日々が始まりました。しかし日常があまりにも多忙で、試験対策に割ける時間はわずか。

作戦②:ワイン概論だけは固めておく

そこで、試験対策のすべての礎になるであろうワイン概論だけは知識を固めておいて、それ以外は割り切って先送りにすることにしました。実際、ワイン概論以外の範囲は食事の時間に講義動画を流し見するので精一杯で、ソムリエ試験対策・問題集アプリ「VINOLET」での暗記作業はほぼ手つかずの状態でした。

佐々木先生が口を酸っぱくして「皆さんはVINOLETポチポチ人間になるんです」と言ってくれていたのに、私はしばらくその教えを守れませんでした・・・本当にごめんなさい。

そんな状況だったため、一次試験の受験日を限界まで引き延ばし、8月25日と8月31日に設定することにしました。

7月26日 本番想定模擬試験 得点率30%

模試の結果。冷静に考えて非常にまずい

一次試験まで1ヶ月を切ったこの日、ヴィノテラスの本番想定模擬試験を受けました。結果は得点率30%、ワイン概論しかわからないのだから当然です。一次試験は大体四択問題なので、この結果はほぼ何も出来なかったことを意味します。8月には別件で2週間缶詰になる期間が控えており、試験対策に費やせる時間は残りわずかでした。

作戦③:暗記作業はテキストではなくVINOLET

さすがに危機感をおぼえ、リソース配分を見直し、日次のガントチャートを作成して学習を進めていきました。工夫したのは、テキストの暗記の確認作業をVINOLETでするのではなく、VINOLETで暗記を回し、解説不足をテキストで補うスタイルで学習を進めた点です。すると8月4日の総合模擬試験では得点率41%、8月中旬にはVINOLETの個別模擬試験で60%程度取れるようになりました。しかしまだまだ未習範囲はあるし、得点率も足りません。本番で確実に受かるためには、本番よりも得点の取りやすい模試では80%以上取れるようになっておく必要がありました。

8月17日 個別模擬試験 得点率51%

模試の結果。8日前でこれは絶望的

一次試験まであと8日というこの日、VINOLETの個別模擬試験で得点率51%を取ってしまいました。未習範囲があったとはいえ、受験8日前の51%は絶望的な数字です。諦めるつもりはないけれど、今回ばかりはさすがに合格に届かないかもしれない。そんな思いがよぎりました。

ラストスパート

ここから先はラストスパートです。起きている間の行動を「仕事とワインエキスパート一次試験対策」の2つに絞り込み、自身にできる最大の効率で全身全霊をかけて暗記を進めました。めざせブドウバッジ!

作戦④:メドック格付けを替え歌で覚える

試験本番まで残り1週間の時点で、私はこの試験の暗記の山場とされるメドック格付け61シャトーを覚えていませんでした。そこで、エノテカ銀座店の店員さんに教わった富田葉子先生考案の替え歌5曲を毎晩歌って頭に叩き込みました。この替え歌は最強です。2夜続けて歌ったところで、ほぼ完璧に記憶が定着しました。

  1. サン・テステフ:南の島のハメハメハ大王

  2. ポイヤック:ムーンライト伝説 / DALI

  3. サンジュリアン:CAN YOU CELEBRATE? / 安室奈美恵

  4. マルゴー:ね〜え? / 松浦亜弥

  5. オー・メドック:魔法使いサリー / スリー・グレイセス

作戦⑤:短期記憶で乗り切れるものは試験前日に回す

あまり褒められた方法ではありませんが、合格を最優先するなら試験当日だけ必要な知識があれば十分です。そこで、未修だったいくつかのマイナー産地は試験前日に全力で暗記を回して短期記憶で乗り切ると決め、出題頻度の高い産地を中心に暗記を進めていきました。すると徐々に結果が出るようになり、調子が良いと(≒未修範囲からの出題がたまたま少なければ)模試で80%ぐらいは取れるようになってきました。受かるかもしれない、やっと希望が見えてきました。

しかし、あまりにも急激に学習を進めたため、夜ベッドに入っても佐々木先生の声が再生されるようになってしまいました。ノイローゼ一歩手前です。

怒涛の追い上げ。後がない。

試験2日前の夜からは勉強するテーマをホワイトボードに書き出し、消し込みながら暗記を進めていきました。暗記してはメドック格付けの替え歌を歌い、また暗記してはメドックの格付けの替え歌を歌いました。試験前日はマイナー産地を中心に16時間ほど暗記を回し、ここでようやく試験範囲を一周。一次試験当日も朝から8時間暗記を回し、最後の最後まで悪あがきを続けて本番に挑みました。

自宅のホワイトボード

そして本番・・・合格!
叫びたくなる気持ちを抑え、両拳を小さく握りしめました。サクッと受かっているように見えるかもしれませんが、全然そんなことありません。学習量に濃淡がついていただけで、特に直前期は誰よりも勉強した自信があります。精神的につらい時期もたくさんありました。だからこそ、合格の喜びが爆発したのです。

合格!歓喜!

一次試験合格後は歓喜の涙を拭い、応援してくれていたエノテカ銀座店さんに一次試験合格のご報告をしに行きました。そして、祝杯はもちろんワイン!

シャサーニュ・モンラッシェ。最高です
これでもかという程のKRUGの旨味は、まさに進撃のシュール・リーであった
生まれて初めて飲んだアルマンド

一次試験のタイムラインと教材まとめ

ここまでのタイムラインをおさらいします。

  • 2023年7月:ワインの勉強を始める

  • 2023年10月:手越くんの合格をきっかけに受験を決意

  • 2024年3月:ヴィノテラス ワインスクール入会、試験対策開始

  • 2024年7月26日:VINOLET本番想定模擬試験 得点率30%

  • 2024年8月4日:総合模擬試験 得点率41%

  • 2024年8月中旬:VINOLET個別模擬試験で60%程度取れるように

  • 2024年8月17日:VINOLET個別模擬試験 得点率51%

  • 2024年8月22日:VINOLET個別模擬試験で初めての8割超え

  • 2024年8月25日:合格!VINOLET個別模擬試験で87%まで取れるように

おそらく本番の得点率は80%程度で※、蓋を開けてみれば危なげなく合格を勝ち取れていたということになります。直前まで不安で仕方ありませんでしたが、正しく作戦を立てて、諦めなければ直前の怒涛の追い込みで合格水準まで仕上げることができる・・・のだと思います。最後は合格を信じてくれた周囲の友人・知人が背中を押してくれました。
※試験後に思い出せた100題強のうち8割程度正解できていたことから

教材はヴィノテラス ワインスクールの講義およびテキストと、ソムリエ試験対策・問題集アプリ「VINOLET」のみを使いました。他の教材に浮気する余力がなかったというのが正直なところですが、ある意味ヴィノテラスのコンテンツ一本で合格できることを証明する形となりました。特定のコンテンツに過学習してしまうデメリットよりも、良質なコンテンツを信じて極めるメリットの方が大きかったのだと思います。

二次試験

試験対策

二次試験も作戦は「迷わずワインスクールに入会する」です。選んだのはもちろん佐々木先生。ヴィノテラス ワインスクールのソムリエ・ワインエキスパート二次試験対策コンプリートプランを契約し、佐々木メソッドで合格を目指すことにしました。

講座が始まってからは来る日も来る日もヴィノテラスから届くワインを並べて比較テイスティングです。私は「飲み込むスタイルのテイスティング」を選択したため、アルコール度数判定の精度向上と引き換えに毎晩ワインで酔っ払っていました(笑)

毎晩が6杯との真剣勝負

二次試験はよほどの大失敗をしなければ合格できると考え、敢えて浮気せずにヴィノテラスのカリキュラムについていくことを優先しました。他にやったことといえば、YouTubeチャンネル「Blind Wine Tasting」の二次試験対策動画を全部見たことと、レコール・デュ・ヴァンのその他飲料セット(富田葉子先生の解説動画つき)を購入したこと、そしてワインバーでブラインドでワインを出してもらったことぐらいです。

逆にやらなかったのは、高級ワインを飲むことです。完全に封印できていたと言ったら嘘になってしまいますが、8割ぐらいは我慢できていたはずです。。。

ちなみに、進撃のシュール・リーという名前はヴィノテラスの本番想定講座(A日程)で甲州が出題された際に私が名乗ったニックネームです。甲州のワインにはシュール・リーという醸造テクニックがよく用いられるので、それにかけて。佐々木先生に「進撃のシュール・リーは甲州を当てられたんですか!?」といじられましたが、ちゃんと正解していましたよ(笑)

テイスティング試験本番

試験当日は酸味への耐性をつけるためリースリングでうがいをし、試験会場のグランドプリンスホテル新高輪 国際館パミールへ。お世話になっているエノテカの皆様に挨拶し、いざ本番。本番は実力不足もあり品種を3つも外してしまいましたが、分析の方向性はまず間違っていないという手応え。とはいえ合格ラインに乗っている確証はなく、悶々とした日々を過ごすこととなりました。

ワインエキスパート試験、合格!
10日後の2024年10月17日17時、日本ソムリエ協会の合格発表ページで自分の受験番号を発見!喜びに打ち震えるとともに、ワインへの感謝の気持ちが止めどなく溢れてきました。こうして、晴れて日本ソムリエ協会認定ワインエキスパートになることができたのでした。

1998年のシャトー・マルゴーで祝杯!

試験を終えて。ワインへの想い

ワインエキスパートにチャレンジすると決めて、一次試験対策を開始してから合格までの数ヶ月間。濃淡はあれど、ワインと真剣に向き合い続けてきたこの期間を宝物のように感じています。

ワインエキスパート取得は趣味としてはあまりにも重いイベントですが、ワインをより広く・深く知ることで、大好きなワインをより好きになりました。この不思議なワインという飲料を私は愛してやみません!

そして、ワインの魅力はそれに留まりません。私が入会したヴィノテラス ワインスクールはオンライン専門のスクールでしたが、それでもワインという共通言語で語れるワイン仲間ができました。ワインは知れば知るほど好きになる飲料であると同時に、人と人を繋いでくれる飲料でもあったのです。これから先の人生、美味しいワインと素敵な仲間たちとのワインライフが待っていると思うとわくわくしてたまりません。そんな日常をくれたワインへの感謝の気持ちを忘れず、これから先もワインと共にある豊かな日々を送っていきたいと考えています。

二次試験後のヴィノテラスのBBQに持ち寄られたワイン。私はタルボブランを持参!お世話になった佐々木先生にも飲んでもらうことができた
一次試験で学んだ知識とあわせて味わうと2倍美味しい
ブラインドテイスティングで「ガメイ」を当てたご褒美のワイン(右)ヴィオニエも当てることができた
レアな日本ワインも会場に

今後の目標

ワインエキスパート試験が一段落したため、新たに4つの目標を立てました。

1つ目は、ワインをさらに深く・広く知ること。ワインエキスパート試験に合格したとはいえ、スタートラインに立ったばかり。知識も経験もまだまだ足りず、学ばなければならないことだらけです。今後も謙虚にワインを学び続けていきたいと考えています。時期は決めかねていますが、そう遠くない時期にWSET Level 3、5年後にはワインエキスパート・エクセレンスにチャレンジするつもりでいます。
→2024年11月からWSET Level 3のクラスに通い始めました

合格後に手にした憧れのシャトー・ラギオールは覚悟の証

2つ目は、ブラインドテイスティング能力を高めること。定期的にお邪魔しているシノワ渋谷店のソムリエさんにブラインドで提供してもらったワインを当てて以来※、ブラインドテイスティングの楽しさに目覚めてしまい、最近はYouTubeチャンネルの「Blind Wine Tasting」を観るのも大好きです。11月23日の第4回ヴィノテラスカップ予選を皮切りに、ブラインドテイスティングコンテストにもチャレンジしていきたいと考えています。
※引き出しが少ないがゆえのビギナーズラックです

バロッサシラーズ。ドンピシャで当てました
トカイアスー。これもドンピシャで当てましたが、たまたま飲んだことがあったためです

3つ目は、ワインと経済学に明るいデータサイエンティストとして、日本のワインエコノミクスに少なからず貢献すること。日本にも中央大学の原田喜美枝教授のようにワインエコノミクスに取り組まれている方は存在しますが、ワインの生産が盛んな地域と比べてまだまだ少ないのが現状です。得意なことを活かして何かできないだろうか?と考えています。

最近はBloombergを叩いて取得した Liv-ex Fine Wine 50/100 というワイン指数とマクロ経済指標のデータを用い、夜な夜なプログラムを書いて高級ワインの価格決定要因の分析をしたりしています。

そして4つ目は、今よりももっとワイン仲間を増やし、充実したワインライフを送ること。ずっと苦手だった「自分から人を誘うこと」にもチャレンジしたいと思っています。ワインと共に豊かな未来を切り開いていければ最高ですね!

合格後に会社で主催したワイン会。楽しかった!
念願のぶどうバッジ!


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