結び目理論を簡単に③
梅雨は全ネコ類にとって過ごしずらい季節です。日向ぼっこも、ぶらぶら散歩もできません。しかし、ミケはマロの家に行くまで濡れない道を知っています。今日は縁側でマロが外を眺めているのを見つけました。
「あ、ミケ。来てくれたんだ。ものすごく退屈で今にも寝るところだったよ」
「それならちょうどよかった。僕も暇をつぶしに来たんだよ。だからさ、結び目理論の続き、聞かせて!」
「もう一か月以上もたっちゃったね。確か、結び目不変量のことだったかな?」
「そう、それ! それを楽しみにしてきたんだよ!」
今回は前回の「結び目理論を簡単に②」の続きです。こちらをご覧になってから意向を読んでいただけると一層楽しめると思います。
結び目不変量
不変量とは
そもそも不変量とは、
というものであり、数や多項式などのことを言います。
また、ある2つの数学的対象が同じということと同じ不変量を持つということは同値です。
これまで挙げてきた交点数やアレクサンダー多項式、ジョーンズ多項式は結び目不変量です。
結び目不変量とは「同じ結び目ならば同じ不変量を持つ」、対偶を取ると「異なる不変量を持てば異なる結び目である」というものを言います。
つまり、結び目不変量が同じならば同じ結び目であるとまでは言えません。ゆえに結び目不変量は完全な不変量ではありません。これから挙げていく結び目不変量も不変量ではありません。
しかし、1990年代初頭にマキシム・コンツェビッチが定義したコンツェビッチ不変量は不変量だと予想されており、これからの動向が注目されています。
自分が理解出来たらこの不変量も解説しようと思います。
絡み数
絡み数とは、向きを付けた2つの結び目$${J, K}$$からなる絡み目の交点について、下記のような交点に$${+1}$$または$${-1}$$を割り当ててそれらの総和を2で割ったものです。
2つの結び目からなる絡み目の交点の個数は偶数個なので絡み数は整数になります。
例えばポップ絡み目だと、
左は絡み数1となり、右は絡み数-1となります。
棒指数
棒指数とは、結び目を折れ線状の結び目として表現するのに必要な辺の最低数のことです。
例えば、三葉結び目の棒指数は6です。
8の字結び目の棒指数は7です。
結び目解消数
$${K}$$の結び目解消数とは、ある結び目$${K}$$に対し、$${n}$$個の交点の上下を入れ替えると自明な結び目になるような射影図があり、しかも$${n}$$以下の交点の上下を入れ替えても自明な結び目になるような射影図が存在しないときの$${n}$$のことを言います。
例えば、三葉結び目の結び目解消数は1です。
8の字結び目の結び目解消数も1です。
$${5_1}$$の結び目解消数は2です。
ホンフリー多項式
ホンフリー多項式とは、次のルールによって得られる多項式であり、向きづけられた結び目に対する2変数の結び目不変量です。
ルール1
$${P_{〇}(m,l)=1}$$
ルール2
下図に書かれていない部分では同じ3つの向き付けられた絡み目を$${L_+, L_-, L_0}$$とすると、
$${lP_{L_+}(m,l)+l^{-1}P_{L_-}(m,l)+mP_{L_0}(m,l)=0}$$
下図に書かれていない部分では同じ3つの向き付けられた絡み目というのは、次のようなものです。
また、どんな絡み目でも、このルール1,2に従ってアレクサンダー多項式と同じような手順でホンフリー多項式が求まります。
三葉結び目のホンフリー多項式は、$${-m^4+m^2l^2+2m^2}$$になります。
ブラケット多項式の径間
まず、ブラケット多項式とは次のルールによって求められる多項式です。
ルール1
〈〇〉=1
ルール2
ルール3
〈$${L\cup}$$〇〉=$${(-A^2-A^{-2})}$$〈$${L}$$〉
この左辺は射影図$${L}$$と自明な結び目の分離和といい、簡単に言えば隣に並んでいるだけです。
このルールによって得られる多項式をブラケット多項式と言います。しかし、これは結び目不変量ではありません。
ブラケット多項式の径間とは、多項式の最高次数と最低次数との差のことを言います。
例えば、三葉結び目のブラケット多項式の径間12はです。
8の字結び目のブラケット多項式の径間12もです。
$${5_1}$$のブラケット多項式の径間は20です。
まとめ
今回は様々な不変量を紹介しました。他にもいくつか結び目不変量はありますが、それらは必要な時に紹介していこうと思います。
次回の内容は未定です。
最後に
「話してたら少し雨が弱くなったね」
「あ、ほんとだ。じゃあ話もきりがいいしそろそろ帰ろうかな」
梅雨はもうすぐ終わるのでしょうか。今日は半夏生です。半夏生に降る雨のことを半夏雨といい、半夏雨は大雨になりやすいといいます。雨天の地域の方々は気を付けてください。
それでは、また次の機会によろしくお願いいたします。