サプールオフ会
俺の名前はアントニー。アントニー・ンガングラ。
コンゴ出身の32歳。ワケあって今は日本で暮らしてる。
突然だが皆さんは"サプール"をご存じだろうか。
巷では"世界一お洒落な男たち"と呼ばれたりもしている。
それについて語るにはまずコンゴについて知ってもらう必要があるな。
コンゴ共和国は、世界最貧国の一つと言われ、国民の平均月給は2万5000円。
3割の人々が1日の生活費を130円以下で暮らているんだ。
今の日本人達は共感するところもあるんじゃないかな?笑
"サプール"とは、「お洒落で優雅な紳士協会」という意味のフランス語の頭文字を省略したものだ。
お察しの通りコンゴは長いことフランスの植民地だった。
1880年代にヨーロッパ列強国によるアフリカ諸国の植民地争いに巻き込まれたコンゴ人にとって、平和への想いは強く、カトリック信仰とともに平和主義者が増えていった。
当時フランスから戻ったコンゴの社会活動家アンドレ・マツワが、パリの紳士の格好をしていたことでコンゴ人たちの賞賛を浴び、パリに対する憧れが芽生えた。
自分たちの平和信仰を「ファッション」と結びつけて表現することになり、これが"サプール"の発祥につながっていったとも考えられている。
傍から見ればただの奇妙なファッションさ。俺たちだって自覚してる。
なんせ年収の平均4割を海外の高級ブランド服に使ってるって言うんだからな。
でもここも今の日本人には共感するところがあるんじゃないのか?
前置きが長くなってしまったな。ここからは俺に起きたリアルについての話だ。
当時日本に来たばかりでなんとなく寂しい思いをしながら毎日を過ごしていた俺だったが、ある日Twitterでこんな投稿を目にしたんだ。
『サプールオフ会』
いやー。心が躍ったね。
遠い日本にもサプールの精神で生きてるヤツらがいる。
肌の色も違うし息も臭い民族だけど同じ価値観を共有できる。
もちろん即座に参加の申し込みをしたさ。
申し込みをしてからの2週間はワクワクが止まらなかったね。
当日は何色のスーツにしよう。ステッキは安物ってバレちゃったら嫌だからナシでいくか。
ネクタイだけはグッチの偽物をメルカリで買っちゃおう。
そうこう考えているうちにあっという間にオフ会の当日になった。
新松戸駅や常盤線は嫌いだ。いつだって俺のことを差別しやがる。
背が低くて口が臭い民族のくせによ。腹が立つぜ。
イライラするがしかし俺は今日サプールのいで立ちだ。紳士的に振舞うしかない。
横に座ったババアに何やら話しかけられていたが聞こえていないフリをしてやり過ごした。
そこからだいたい50分程度で日暮里駅に着いた。オフ会の集合場所だ。
到着したはいいがどうもおかしい。どう見てもサプールの集団はいない。
また差別大国日本にしてやられた。俺が中央アフリカ出身だからって舐めてやがんだ。
ガッカリというか怒りというか情けないというか、何とも言えない気持ちで涙が出そうになった。
『おーい!』
うるせえなクソ日本人。お前らなんて大嫌いなんだよ。静かにしてろ。
『おーい!!』
なんだよしつけぇな。今俺はイライラしてんだ。黒人パンチを食らいてえのか?
『アントニーさーん!!』
?!
なんだ?俺の名前を呼んでんのか?
周りを見回したがアントニー顔のヤツは俺以外にはいねえ。
ぜいぜいタカシかテツヤみたいな顔のヤツばかりだ。
?「アントニーさんですよね?」
ア「はい。そうですが。」
?「遅いじゃないですかーw サプールオフ会へようこそ!」
あ「ア?!」
何だコイツら?サプールをバカにしてるのか?
チン毛をのせたクソジャップがデカデカと印刷されたTシャツに、今にもはち切れそうなスキニーパンツ。
そこに当時は高かったのであろう、でも何の価値もないジョーダン1の組み合わせ。
俺は文字通り言葉を失ったよ。コイツらサプールを舐めてやがる。
ア「すいませんワタシ帰ります」
?「えーw何言ってんすかw帰るってどこにw」
ア「・・・リカ」
?「え?」
ア「アフリカ」
?「?」
ア「コンゴに帰る!そこでお前らにサプールとは何かを見せつけてやる!!」
?「どうしちゃったんすかアントニーさんw」
ア「うるさい!口臭いから喋るな!!お前らにサプールを語る資格はない!!!!」
そこから先はよく覚えていない。ただ確かなこととしては、俺は今アフリカにはいない。
川越刑務所ってところにいる。なんてこった。
でもこれでもコンゴに住んでた時よりはマシな生活だぜ。屋根もあるしメシも出る。
今は刑務作業でTシャツを作ってんだ。出所したらここで得たスキルを使ってさ、"本物のサプール"を日本人に教えてやろうと思ってるんだ。