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 エッセイ マルメロ物語


 涼風の秋が立つと、湖畔ばたのひと群れの並木に黄金色の実を結んだ「カリン」が鈴なりになる。
 実はこれ、カリンではなく「マルメロ」という果実なのです。


「何度も言ったでしょう。あれはカリンじゃなくてマルメロ」

「どうして?皆んなカリンって言ってるよ」 富美は承知しない。

「じゃあ、教えてあげる」 麻理恵は樹下に妹の手を引き寄せた

「こうやって木の下から上を見てごらん」

 わぁ……きれい!

 富美は眩しそうな瞳で仰ぎ見ると感嘆の声を上げた。

 薄く透けた葉叢(はむら)を濾して降り注ぐ陽光に、黄金色の果皮を被う灰色がかった白い密毛が、チラチラと輝いている。

「本当のカリンは表面がツルツルしていて、素っ気ない筒みたいな形をしてるんだよ。   みて、このマルメロは新しい品種でスミルナっていうの。雫の形をした下膨れがふっくらして可愛いでしょう?」

 それから麻理恵は、少し離れた隣の木を指差してあれが本当のマルメロだと言う。
 本当のカリンだとか、本当のマルメロだとか、富美は混乱しそうになる。

 隣の木には目の前のスミルナより小ぶりの、ボールの様にまるい愛らしい果形がたわわになってぶら下がっていた。

 あれが本当のマルメロ……ね。

 本当のカリンと、本当のカリンでは無い…つまり本当のマルメロとマルメロの新種スミルナの話が、富美の頭の中でいつまでもグルグル巡っていた。
                   【エッセイの為のショートストーリー】


       






 上記の話しの通り、この地における「カリン」とは「マルメロ」の通称なのです。

 此処は八ヶ岳連峰の山麓に広がる盆地の中央に、美しい湖水をたたえた大自然豊かな土地柄で、リンゴやナシなどの栽培がさかんに行われて来ました。

「マルメロ」はこれらの果樹に先駆けて栽培されてきたかなりの古参で、寛永年間ポルトガル人によって日本に持ち込まれたと言われています。

「マルメロ」というエキゾチックな名前の由来は、ギリシャ語のメイル(和訳:密)とメロン(和訳:リンゴ)の合体らしいのですが……(ギリシャ語でメロンはりんごなんですね)
 そこでメィル・メロン→マルメロとなったわけで、なるほどです。

 この地でマルメロのことをカリンと言うようになったのはいつの頃からか定かでは無いらしく、今では通称「カリン」として堂々とまかり通り観光に一役買っているらしいのですが、湖畔を訪れる人々にこうした「マルメロ物語」を是非知って欲しいと思うのです。

 さて、十月も末となれば収穫が始まり、そろそろ黄金色の球体がお目見えです。
 完熟したマルメロは、他に類をみないほど上品な甘い芳香を放ちます。
 また鎮咳去痰の薬効はよく知られていていますが、気管支の弱い私などは冷たく乾燥した冬に備えカリン酒として毎年漬け込んでいたものです。

 毎年師走になると、リンゴと一緒に送られて来たマルメロですが、送り主が亡くなった今、すつかり疎遠の「実」となってしまいました。

 そこでこの冬、カリン(まるめろ)酒作りを復活させようと思い立っています。
 希少の果実ゆえこちらでは手に入りませんが、できれば伝手を頼らず調達しようと、ただいま現地の様子を調査中です。

 カリン酒の作り方は他の果実酒同様漬け込むだけ。至って簡単ですのでご紹介しましょう。
 先ず、果皮の表面に取り残ったうぶ毛を柔らかい布で包むようにしてこすり取り(これが大切な作業)よく洗い流した後乾燥させて1.5センチほどの輪切りにします。
 消毒した保存容器 (できれば瓶 )に果実をいれ、ホワイトリカー1.8リットルと氷砂糖 500〜1キロを投入して密閉し、6~12ヶ月の熟成期間を置いたのち実を取り出せば出来上がり。

 3ヶ月も過ぎる頃になるとどうしても待ちきれず、実をそのままにチビリチビリ味わっていましたっけ。
 水割り、お湯割り、炭酸割りにレモン一片を添えます。

 果実用ブランデーで漬け込んだものは極めて美酒だとか。レシピは色々ありますがアルコール度数が高い為、飲む時間を考慮しないと飲酒運転に繋がりかねませんので要注意です。


 六月、湖岸のおそい桜が散り終えたころ、蕾だったマルメロは花盛りを迎えます。
 脇芽から発生した新しい枝先に、一輪一輪淡いピンクの花をつけた美しさは比類なく目を奪われるそう…。

 残念なのはこの時期に限って訪れたことが無く、花盛りのマルメロ並木を見逃してしまったことです。

 ☆ マルメロの花言葉 は 幸福 魅惑
 
 ☆ ギリシャ神話に出てくる黄金のリンゴとはマルメロを指すらしい 
                        ——ウキィペディアより——

                     


☆いつもお読み下さり有難うございます。










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