【小説】逆襲のジジィ
「おい、待て! このジジィ!」
「フハハハ、若者よ、まだまだ甘いな!」
「クソッ! 逃がすかよ!」
夜の街で、逃げる老人を追っていた。こいつ、俺が歩いてるときにポケットから財布を抜き取ったのだ。
なんて卑怯な奴だと思いつつ、そのジジィを追っている。だが、信じられない速さで逃げていく。
「クソッ! 元ボクサーのこの俺が追いつけないなんてありえねぇ!」
「フハハハ、若いの、まだまだ修行が足りんのう。わしの若い頃は毎日がサバイバルだったんじゃ」「うるせぇ、ジジィ! これでも食らえ!」
「ほほう、それが若さか!」
俺は持っていたボクシンググローブを投げつけた。
「うわぁ! これじゃ逃げられん!」
「終わりだな、ジジィ!」「ヒ、ヒイィィィーーー!!!」
ジジィは足を滑らせて転倒した。
「これで終わりだ。財布を返せ!」
「フハハ、若いの、まだまだだな。わしを本気で止めるつもりか?」
「な、なにぃ!?」
ジジィが立ち上がり、走り出した。しかも、さっきよりも速い。それも信じられないほどに。
「待てぇー! 絶対に逃がさないぞ!」
「お前みたいな若造にわしが捕まるわけがないじゃろ!」
「クソッ! なんて速さだ、このジジィ!」
ボクサーとして鍛えてきた俺でも、この速さには追いつけない。こんなに速いジジィが存在するなんて信じられない。
「若さだけではどうにもならんのじゃよ。わしは何十年もこの道を極めてきた。捕まったことなんて一度もない。それがどういうことかわかるか? お前には絶対に捕まえられないってことじゃ!」
「クソッ! 本当に倒すしかないのか!?」
その瞬間だった。
「ぐわっ…!? うぐぐぐぐがぁぁぁぁ!!!」「ど、どうしたジジィ!?」
ジジィが突然苦しみ始めた。
「んあああああ!!!」「お、おい、大丈夫かよ!?」
一瞬ジジィの演技かと思ったが、どうやらそうじゃないらしい。
「クッ、とうとうわしも終わりか…。若いの、さすがじゃ…」
「ジ、ジジィ…」
「………………」
ジジィは走っている途中に倒れて息絶えた。
「まったくなんてすばしっこいジジィだ。速すぎて、あの世にまで逃げていくとはな」
短い間だったがジジィとの奇妙な因縁を感じた。奪われた財布はジジィと一緒に燃やした。