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【小説】イカれたパレード

 青空が広がる町の大通りは、どこか異様な空気に包まれていた。その日は年に一度のパレードの日。通常ならば色とりどりの衣装に身を包んだ人々が、音楽に合わせて陽気に踊り歩くはずだった。
 だが、今年のパレードは何かが違った。

 ドラムのビートが街中に響き渡ると、最初に現れたのはピエロの集団だった。赤い鼻と大きな靴を履いた彼らは、道化師のように滑稽な動きを見せながら進んでいく。
 だが、その動きにはどこか狂気じみたものが感じられた。彼らの笑顔は仮面のように固く、目の奥には異様な光が宿っていた。

 続いて現れたのは動物たちの仮装をした一団だった。彼らはまるで動物そのもののように四つん這いになり、獣の鳴き声をあげながら歩いていた。
 虎の仮装をした男が突然立ち上がり、吠えながら観客に飛びかかろうとした。その瞬間、周囲の人々は驚きの声をあげたが、すぐにそれが演技の一部であると気付き、また笑い声が広がった。

 しかし、その笑い声も次第に薄れていった。次々と現れるパレードの参加者たちが、皆一様に異様な行動を見せ始めたからだ。
 ある者は歌いながら自分の顔を叩き、またある者は突然地面に倒れ込み、もがきながら笑っていた。まるで狂気に取り憑かれたかのように。

 その異様な光景を見ていた観客たちも、次第にその狂気に引き込まれていった。ある若者が突然ステージに飛び出し、参加者たちと一緒になって踊り始めた。
 彼の動きはどこかぎこちなく、不自然だったが、次第に周囲の観客もそれに合わせて踊り始めた。

「これは一体何なんだ?」

 そう観客の一人がつぶやいたが、誰も答えられなかった。ただただ、その狂気のパレードに魅了されるかのように、踊り続けるだけだった。

 パレードの先頭には、一際目立つ大きな山車が進んでいた。山車の上には、巨大なピエロの像が乗っていた。
 その像の顔は、どこか悲しげでありながら、同時に狂気を感じさせるものであった。そのピエロの目が、まるで生きているかのように動き、観客一人一人を見つめているように感じられた。

 パレードは終わることなく続いた。夜が更けても、人々は狂ったように踊り続け、笑い声と叫び声が交錯する中、町は次第にその姿を変えていった。まるで現実の世界が夢の中に溶け込んでいくかのように。

 やがて、町全体がその狂気に染まった。家々の窓からは、狂った踊りを続ける人々の姿が見え、広場では誰かが大声で歌を歌い、また誰かが泣き叫んでいた。
 その光景は、まるで地獄絵図のようでありながら、どこか不思議な美しさも感じさせた。

 次の日の朝、町は静まり返っていた。まるであの狂気の夜が夢であったかのように。人々は静かに目を覚まし、何事もなかったかのように日常の生活に戻っていった。
 だが、あの夜の出来事は誰の記憶からも消えることはなかった。人々は心のどこかで、再びあの狂気のパレードが訪れるのではないかという恐怖を感じながらも、その魅力に取り憑かれていたのだ。

 そして、再びパレードの日が近づいてくると、町全体に再びあの異様な空気が漂い始めた。誰もが次のパレードに期待と恐怖を抱きながら、静かにその日を待っていた。
 狂気のパレードは、人々の心の中に深く根付いていた。再びその狂気が解き放たれる日を、誰もが知っていた。

 パレードの準備が進む中、ある男がその中心に立っていた。彼はかつての狂気の夜を知る一人であり、その魅力に取り憑かれた者の一人だった。
 彼の目には、再びあの狂気のパレードを見たいという欲望が宿っていた。彼は、再びその狂気の渦に巻き込まれることを望んでいたのだ。

 そして、再びパレードの日が訪れた。町は再び狂気に包まれ、人々は再び踊り始めた。狂気のパレードは、再びその姿を現した。
 狂ったように躍りながら、物真似をしながら、人々は再びその狂気に取り憑かれていった。

 完全に頭のイカれたパレードは、再び町を狂気の渦に巻き込んでいった。人々はその狂気に抗うことなく、ただただ踊り続け、笑い続けた。
 狂気のパレードは、終わることなく続いていったのだった。

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