【小説】旧校舎のカウントダウン室
「木下くん、夏場なのにジャージ着こんでガタガタ震えて寒そうだった」
「旧校舎でよっぽど怖い思いしたんだな」
「カウントダウン室でね」
旧校舎は、長年使われていないことから、独特の雰囲気を醸し出していた。廊下の壁にはひび割れが走り、教室の窓はほとんどが割れていた。
風が吹き込むたびに、埃と共に不気味な音が響き渡る。その旧校舎の中でも、特に異質な存在感を放っているのが「カウントダウン室」と呼ばれるところである。
この部屋は、かつては普通の教室だったが、ある事件をきっかけに封印されたと噂されている。
カウントダウン室とは、一体何なのか。そこでは何が行われているのか。その謎を解くために、木下くんはその部屋に足を踏み入れたというのだ。
彼がカウントダウン室に入った瞬間、古びた時計の針が「カチッ!カチッ!」と急に動き出した。時計の文字盤には、カウントダウンの数字が浮かび上がっている。
木下くんがそれに気づいた時、彼の周りの空気が一変した。冷たい風が吹き込み、肌に突き刺さるような寒さが襲ってきた。
「な、なんだよこれ…」
カウントダウンが始まった。それはまるで、何かが迫ってくる合図のようだった。木下くんは部屋の中央に立ち尽くし、息を呑んで時計を見つめた。
「ダ、ダメだ…。怖くて動けなくなっちゃた…」
「カチッ!カチッ!」
カウントダウンが進むにつれて、木下くんの心臓は激しく鼓動した。部屋の中には誰もいないはずなのに、何者かの視線を感じる。
そして、その視線は徐々に彼に近づいてきた。木下くんは恐怖で体が動かなくなり、ただひたすら時計を見つめ続けた。
「はぁ…はぁ…」
「カチッ!カチッ!カチッ!カチッ!」
カウントダウンがゼロに近づくにつれて、彼の周りの空間が歪み始めた。音も、光も、空間もすべてが不自然に揺らめき、現実感を失っていく。
そして、ゼロの瞬間、木下くんは暗闇の中に引きずり込まれた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
目が覚めた時、木下くんは旧校舎の外に倒れていたというのだ。
「ああああああああ…」
彼は震えながらも立ち上がり、ジャージをしっかりと体に巻き付けた。何が起こったのか、彼自身もよくわからなかった。
ただ一つ確かなのは、カウントダウン室がただの部屋ではないということだった。木下くんはその経験を友人たちに語ることにした。
「本当なんだよ! あれはマジでやばいところだ!」
「えー、面白そうじゃん」
「やめとけ! もうあんな怖い思いをするのは2度とごめんだ…」
彼の話を聞いた友人たちは、その部屋に対する興味と恐怖を抱くようになった。しかし彼らもまた、カウントダウン室の謎を解き明かすために、旧校舎へと足を運ぶ決心をする。
彼らが知ることになる真実は、想像を絶するものであった。
木下くんの体験を聞いた友人たち、佐藤、鈴木、そして山田は、彼の話に興味を抱き、旧校舎のカウントダウン室を探検することに決めた。
彼らは怖さと好奇心の狭間で揺れ動きながらも、真実を知るために一致団結した。
「よし、行くぞ!」
「おー!」
旧校舎に足を踏み入れた彼らは、木下くんの言っていたカウントダウン室にたどり着いた。部屋に入ると、時計の針が再び動き始め、カウントダウンが開始された。
「な、なんか急に寒くないか」
「だ、だな…」
「俺、ちょっと今になってここに来たことを後悔してるよ」
「まじか…。俺もだよ…」
カウントダウンが進むにつれて、部屋の中の温度が急激に下がり、冷たい風が吹き込んできた。彼らは互いに体を寄せ合いながら、周囲を見回した。
暗闇の中で何者かの視線を感じ、異様な気配が漂う。
「おい見ろよ! なんだよあれ!」
「おい、嘘だろ…」
その時、壁に古い文字が浮かび上がった。それは過去にこの部屋で起こった出来事の断片を示していた。
かつて、この部屋で時間の歪みを利用した実験が行われたこと、そしてその実験が失敗し、時空の狭間に閉じ込められた魂たちが存在することが明らかになった。
そして救われない魂の叫び声が聞こえる。
「カチッ!カチッ!カチッ!」
「俺達、どうなっちゃうのかな?」
「死ぬの…。か…?」
カウントダウンがゼロに近づくにつれて、彼らの周りの空間が歪み始めた。目の前に幽霊のような存在が現れる。
「出、出たーーー!!!!!」
「まぁ待て待て。そんな驚くでない」
「幽霊が喋ったー!!!!!」
「そんな驚かなくても。ちょっと悲しい」
なんやかんやあって落ち着いて幽霊に話を聞くことにしたのであった。
「ワシはたしかに幽霊だ。かつて、この部屋で実験をおこなった科学者の一人だ」
「ま、まじかよ。ちょっと信じられないぜ」
「まあそう思うのも無理はない。」
彼らに語りかけた。
「ワシは実験の失敗によってこの世界に囚われている。どうにかして魂を解放して欲しいのじゃ」
「え、そんなこと俺達に出来るのか!?」
「頼む」
幽霊は頭を下げる。
「わ、分かったよ。何をすればいいんだ?」
「カウントダウン室の針を止めるんだ。カウントダウン室の時計を止めることで、閉じ込められた魂たちを解放し、部屋の呪いを解くことができる。止めるときは物理的に素手で針を掴んで止めるんだ」
「そ、そんな簡単に言うけど、あんな得体の知れない針に触りたくないぜ」
「頼む。ワシに出来るのはこうして頭を下げて頼むことぐらいだ」
「うーん」
ここで木下くんのことを思い出していた。なぜ彼が無事に戻って来れたのか。もしかするとこの科学者の霊が守ってくれたのかもしれないと思った。
そして3人は同じことを思っていた。そして助けたかどうかなんて野暮なことは聞かずにこの科学者の魂を助けようと決意した。
「お、俺達やります!」
「そ、そうか。頼むぞ」
佐藤、鈴木、山田の3人は、お互いに顔を見合わせ、決意を固めた。彼らは時計に向かい、全力で針を止めようとした。
「止まれよ! ぐぬぬぬ」
「なんだかたいぞ!」
「クソッ! 止まれってんだ!」
針を止めようとすると冷たい風がますます強くなり、まるで彼らを拒むかのように抵抗してきた。しかし、彼らの決意は揺るがなかった。
全員で力を合わせる。
「3人で力を合わせて一気に行くぞ!」
「せーの!」
「うおぉぉぉおぉおぉぉ!!!!!」
時計の針を止めることに成功した。その瞬間、部屋が一瞬光に包まれ、周囲の冷気が消え去った。
「や、やった! やったぞ!」
「よくやってくれた若者達よ、本当にありがとう。これでやっと次の世界へ行けるのう」
幽霊は感謝の言葉を述べながら消え、部屋は再び静寂に包まれた。そしてカウントダウン室はただの空虚な箱になった。
旧校舎を後にした彼らは、木下くんと再会し、無事にカウントダウン室の呪いを解いたことを報告した。木下くんは感謝と安堵の表情を浮かべ、彼らに感謝の言葉を述べた。
その後、旧校舎は学校の手によって取り壊されることが決まった。取り壊される前に魂の救済とカウントダウン室の謎を解くことが出来て良かった。
彼らの冒険は終わったが、その経験は彼らの絆を一層強くしたのであった。