ライティング技術は所詮技術。○○が自分らしくなる瞬間って知ってた?
机に並べられた白いノート。
消えない焦り。
全く浮かばない言葉。
文章を書くという行為を、これまで避けてきた人生。国語の作文課題は最低文字数で済ませ、SNSはもっぱら見る専。そんな自分が、いきなり「記事を書く仕事を頼む」と言われたのだ。しかも相手は部活の先輩であり、この街で一番の人気インフルエンサー、叶井(かない)さん。断れるはずもなかった。
「一緒にやれば、楽しいよ」
明るく笑う叶井さんの言葉。
重くのしかかるプレッシャー。
テーマは、「日常の些細な気づき」。簡単そうに聞こえて、実は一番難しいやつだ。日常に興味なんかない自分が、何を「気づく」って言うんだろう?そんなことを考えながら、手元のキーボードに視線を落とす。
光るカーソル。
進まない文章。
静かに過ぎていく夜。
「まずは自分らしく、でいいんだよ」
昨日、叶井さんが言ってくれたその言葉が頭に浮かぶ。「自分らしく」なんて言われても、そもそも自分がどんな人間なのかすら分からない。書くべきことが見えないまま、時間だけが過ぎていく。
ぽつりと書いた一行目。
「今日、初めてコーヒーをブラックで飲んだ。」
予想以上に苦かったその味。
その一文が、思わぬきっかけを生む。次の一行を書く手が、自然に動いた。苦いコーヒーが、いつもの甘いカフェラテとは違う気分にさせたこと。ちょっとだけ大人になれたような気がしたこと。それを「書いてみよう」と思った瞬間。
動き始める文章。
思いのまま綴る心。
言葉が生み出す新しい景色。
そうして書き上げた記事は、翌朝叶井さんのもとへ送られた。感想を待つ時間の長さ。どんな評価を受けるのか、想像すらできない不安。
届いた通知音。
画面に表示される短いメッセージ。
「これ、いいね!」
誰かに伝わる言葉。
思わぬ反応に湧き上がる喜び。
初めて感じる「書く」ことの楽しさ。
SNSで記事を書くという挑戦。それは、自分自身を知るための冒険だった。まだ始まったばかりの物語。その先に何が待っているのかは、誰にも分からない。
記事が公開された翌朝。
スマホの画面に映る自分の文章。
いつもと違う、少しだけ特別な日常。
「ブラックコーヒーの苦さは、大人の入り口なのかもしれない。」
平凡すぎて、これで本当に良いのかと不安だったその一文が、SNSのタイムラインに流れていた。
反応を確認する勇気。
「いいね」の数字の変化。
初めて感じる期待と恐怖の交錯。
正直、1つでも「いいね」が付けば良い方だと思っていた。それが、たった1時間で10件の「いいね」と2件のコメント。たかが10件、されど10件。その数字が、予想以上に心を揺さぶる。
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