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ショートショート「夜と犬」

夜、広い広い平原に敷かれたアスファルトの道を、
一匹のベージュ色のワンコが歩いている。

寒い。

とワンコは思った。

彼がなぜこんな時間に、ここを歩いているのかわからない。
しかし、何か理由があるのは確かだ。
ワンコはしっかりと、道の先を見据えているからだ。

寒さは増し、地面が白く凍り始める。霜だ。

ワンコの足も凍りそうに冷たい。
痛い、とワンコは思う。
痛い、でも、歩かなくてはならない。
止まると足だけではなく、全身が凍り付いてしまうからだ。

彼はここに来る前、どこで何をしていたのだろう?
なぜそこで、温かいスープをもらって、
毛布にくるまって眠るということを、選ばなかったのだろう?
何が彼を、旅立たせたのだろう?

ワンコは迷わない。前をまっすぐに見て、歩き続ける。

やがて道の遠くかなたに、灯りが見えた。
ワンコの足が、少しだけ元気に、軽くなったようだ。

たどり着くとそこには温かい焚き火があった。
深緑色のテントがあり、茶色のローブを着た男が、
スープとパンで食事をしていた。

「よ、寒そうだな。こっちに来な」

男は鍋のスープを皿に入れ、ワンコに差し出した。
ワンコはゆっくりと歩み寄り、男の横にねそべった。

ワンコはこの場所に来たかったのだろう。
そして、これから男とワンコの旅が始まるのだろう。

夜が明けてきて、ちらちらと雪が降り始めた。
それでも、ワンコの心はあたたかだった。

(おわり)

今日も何かショートショートを書きたいな、と思い、窓から霜の降った地面を見ながら、つらつらとつづったものです。

この寒さに凍えている人や、動物たちがきっといると思います。彼らに今日も、希望ある夜明けが来ますように。


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