12「MとRの物語」第一章 10節 図書室(その2)
今までの小説にはない手法。
うまく書けるかどうかの、あたりもつけながら。
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「MとRの物語」第一章 10節 図書室(その2)
退屈な授業に、何度も居眠りしながらも、お昼休みにこぎつけた。母のお手製のお弁当をかきこむように食べて、図書室へ向かった。10台あるPCのうち、あと1台だけ空いている。あわててカードリーダーに、IDカードを通すと、PC借用の手続きをすませた。他の9人のほとんどは、下級生っぽかったが、窓際のひとつの席だけ、見覚えのある男の子が座っていて、頬杖をついて、マウスを動かしていた。
俺達の席は、あの男子の後ろか……。
うん。明るい窓際が空いてるなんて、ちょっと不思議だね。
何かルールでもあるのかなぁ。
そうだな、利用者同士の暗黙のルールか。あるかもしれないが、
まあ、今はそれほど気にする必要もないだろう。
私が窓際の、もうひとつの席に近づくと、頬杖をついていた男の子が、驚いたように私を見上げた。
「何?」私は冷たい声で言った。
「い、いや……」男子は、頬杖をやめて姿勢を正した。
なんなの? こんなに体格のいい男子まで、私のことを怖がるの?
いや、思春期の男子らしき反応だ。照れてるだけだろう。
そうなの?
ああ。90%、断言できる。
90%を断言とは言わないでしょ! でもあってるっぽいね。
男子がちらっとこっちを見た。顔が赤くなっている。
いやあね。男子なんてみんなエッチなことばっかり。
そう、それが男だからね。それより時間がない。PCの電源を。
うん。
電源を入れると、OSが立ちあがり、インターネットブラウザーが開いた。
それで、どうすればいいの?
「小説 書き方」、でぐぐってみてくれ。
ぐぐるって……。Mさん最近の言葉に詳しいのね。
もちろん、俺は何でも知ってる。神に消去されてない限りはね。
検索サイトを表示して、検索ボックスに、「小説 書き方」と入力して、実行キーを押す。大量のサイトが、ずらっと表示された。
俺のおすすめのサイトがある。上から2番目を選んでくれ。
「いちから学ぶ小説のかきかた」、だね。
私は「いちから学ぶ小説のかきかた」、という文字を、クリックした。小説の書き方なんて、調べるのは初めてで、すごく緊張する。
大丈夫だ、小説なんて大したことない。誰にでも書ける。
そう?
うん。難しいのは、ある一線を超えた小説を書く場合だけだ。
その前にまず、簡単なルールを、学ぶといい。
うん、わかった。
「いちから学ぶ小説のかきかた」は、おもに、しょうがくせいのための、しょうせつのつくりかたこうざで、かんじがすくなくてわかりやすくて、せつめいもわかりやすくて、それでいて、まったりとしていて、とってもおいしゅうございます、とおもった。
悪い、間違えた。ここじゃない。
平仮名ばかりで、頭がおかしくなりそうだ。
うん、そう思った。
私はくすっと笑った。でも、小学生の中にも、小説を書きたい人がいるんだ、という発見は、私にとって驚きだった。
それで、ホントのお勧めは、どのサイト?
今のサイトの、一つ下を開いてみてくれ。
うん。
私がそのサイトを開くと、Mさんは、「それだ」と言った。確かに、すごくわかりやすそうなサイトで、私は5分くらい、そのサイトを眺めたあと、Mさんに言った。
なんだか、もう書けちゃいそう。
なんでもそうなんだ。
難しく感じるのは、自分で壁を作っているからだ。
その壁を壊すのは、意外と簡単なんだよ。
じゃあ一つ、小説を書いてみよう。
まずテーマを決める。
うん、テーマね。テーマというのは、主題。
小説でテーマっていうと、伝えたいことや、書きたいこと。
私の書きたいこと? うーーん、なんだろう。
最初は思いつくもの、なんでもテーマにしてみるといい。
どうしても浮かばない場合は、「自分に欠けているもの」、
で考えてみるといい。
欠けているもの……。私に、欠けているものは……。
お父さん……。
私がそう考えた瞬間、Mさんの動揺が、私に伝わってきた。
Mさん、どうしたの?
いや、亡くなった父親をテーマに、というのは、
さすがに今のお前には重すぎると思ってね。
他にないかな、欠けていると思えるもの。
そうね……。私に欠けているもの、ただし、お父さん以外で。
携帯電話、新しい靴、かわいいカバン、就職先、
やさしいカレシ、なんでも話せる友人……。
考えているうちに、涙が出そうになってきた。私はなんて不幸なんだろう。欠けているものばっかりだ。本当に涙が出そうになって、あわててハンカチを取り出そうとしたその時……。
「おい、大丈夫か?」
声をかけたのは、後ろの男子だった。振り返ると、私のことを心配そうに見ていた。涙をぽろぽろとこぼしながら、私はかろうじて、「大丈夫」と答えた。
いや、大丈夫とはとても思えないな。
Mさんが、心の底からため息をついた。