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SF小説・インテグラル(再公開)・第14話~16話「ナタリー」 Natalie

前話はこちら。

第十四話「ナタリー」

僕がゴミ埋立地でのトレジャーハントをまかされたのは、ただの偶然からだ。

 爆発的に増加した犯罪者を収容するために建造された、地下建築物、そこで僕は、湿った牢獄の片隅で産声をあげたのだった。父親が誰だかわからない、なんてことは、この世界においてはごくごく普通のことなのだけど、そもそも体外受精を用いず生まれてきた僕が、なぜか処分されずに擁護施設に預けられ、普通の子供として育てられたこと自体が、偶然とは思えない何かを僕に感じさせないでもないのだが、たぶん偶然なのだろう。

僕を生んだ母親は、明りのない暗い部屋で僕を抱き、歯をむき出して看守たちを威嚇(いかく)した。彼女は数人の男たちによって押さえつけられ、僕は彼女から引き離された。それ以上彼女のことを、僕は知らない。

 規則に従い、処分されようとした僕を救ったのが、のちに僕の育ての親となる女性、ナタリーだった。彼女は医療師としての資格を取るために、巨大で薄暗い地下の監獄の一室で、肉体的あるいは精神的に病んだ受刑者たちの心を癒すという、とてつもない忍耐を要する業務に、三年間の契約で従事していた。彼女が僕を抱き上げたのは、その三年のうちの二年目のことだ。
 
「この子はどうなるんですか?」彼女は言った。

「あなたによる検査を受けたあとで、処分されます」看守の一人が言った。
 
「処分? 処分ですって?」

 ナタリーは僕を、研究用の実験体として引き取った。その行為が、ただの科学者としての好奇心だけによるものではなかったことを、今の僕は知っているし、また僕以外の誰もが認めるところだ。それは違法行為ではないが、あまり褒められた行為であるとは言えない。もし看守が彼女のその提案を拒んだとしても、彼女にはそれ以上主張する権利はなかった。

看守の一人が言った。「わかりました。あなたの研究に役立つのなら、この子にも生まれてきた意味があるというものです。よろしくお願いします」僕はこうして、ナタリーが任期を終える間、何不自由ない生活を、擁護施設で過ごすことになったのである。

第十五話「再会?」

 こうして、僕は養護施設に入れられた。養護施設も地下にあることには違いはなかったが、その居心地は監獄とは大違いだ。僕は十数人の子供たちと一緒に、パステル色で統一された、やわらかな雰囲気の施設で、おだやかに、そしてすくすくと育った。

幼い頃の僕は、自分の出生の秘密も知らず、他の子供たちと、ただ夢中で遊ぶばかりだった。

 二歳になったとき、僕はビデオルームに入ることを許された。マウスでパソコンを操作し、自分の好きなアニメや教育番組を見ることが出来るようになったため、僕は夢中でありったけの映像をむさぼった。

「普通に再生してたのではすべての映像を観るのに、何年かかるかわかりゃしない」、そう考えた僕は、2倍速、4倍速と再生のスピードをあげていき、やがて32倍速で再生される映像と音声を認識することが可能となった。4歳になったとき、僕はライブラリにあるすべての子供向け番組を見尽くしていた。

 ある日僕は、園長先生の部屋に呼ばれた。

「あなた、許されているすべての映像を観たそうね。どうだった?」
「どうって? 何が?」
「あなたの探しているものは、見つかった?」

 幼かった僕には、園長先生が何を聞きたがっているのかわからなかった。もちろん今ではわかる。彼女は僕が無意識のうちに、自分の出生の秘密を探ろうとしていることに気づいていたのだ。そしてそんな自分自身の心に、その頃の僕は気づいてなかった。

「何のこと?」僕は言った。
 
園長先生は僕の前にしゃがみ、僕をゆっくりと抱きしめた。
 
「ごめんね。いつ言い出そうかと思ってたんだけど……。あなたは他の子たちとは違う。私はそのことを知ってる。そして、私はあなたの心の中にあるものを、もっとよく知りたいの」

 彼女がナタリーだった。僕はアランという名をつけられ、彼女に引き取られた。彼女がそれまで僕に何をし、そして僕を引き取って何をしようとしていたのかを知ることになるのは、ずっと後のことだ。

第十六話 「地下のタクシー」

 僕はナタリーに連れられ施設を出、地下通路を歩いた。しばらく歩くと、僕らはタクシー乗り場についた。オレンジ色の照明だけに照らされたトンネルの脇に、数台のタクシーが停まっていた。

そのうちの先頭の一台に、ナタリーと僕は乗った。彼女はIDカードを取り出しタクシーのスロットに挿すと、「空港へ」、と言った。

「空港? なんで地下に空港があるの?」 ライブラリで見た、ジャンボジェットやヘリコプターやセスナの映像を思い出しながら、僕はナタリーに尋ねた。彼女は、運転席の前面にあるタッチパネルを、あわただしく操作しながら言った。

「地上に出るためよ。私の住むアパートは、地上にあるの」

地上?

「って言っても、あなたが想像する地上とは、ちょっと違ってるけど。草は生えてないし、それを食べるシマウマやキリンや象もいない。もちろん、ライオンやトラも」

「……。知ってるよ。みんな死んじゃったんでしょ?」


タッチパネルを操作するナタリーの指が、一瞬止まった。しばらくその姿勢のまま彼女は凍り付いていたが、やがて、ふう、とため息をついて僕の方を見た。

「やっぱりね。あなただったのね、子供たちにはアクセスできないはずの映像に、こっそりアクセスしてたのは……。他の子に出来るわけないと思ってた」

「……、うん。ごめんなさい……」

ナタリーは軽く微笑んで、再びタッチパネルを操作し始めた。

「いいのよ。だから私はあなたを引き取る決心をしたんだから。あなたには色々見てもらいたいものがあるの。もし私とあなたが、私のアパートまで生きてたどり着けたら、だけどね」

ナタリーがタッチパネルの脇のボタンを押した。

「空港まで、あと一分です」、とナビゲーションの声が告げた。

(続く)


解説(ネタばれあり):

 今回は、3話をまとめての公開です。前回の、「ゴミ埋立地で働くアランを体験できるチュートリアル」の、続きですね。

 結構ボリュームを割いて語られる、アランの生活と回想ですけれども、実はすべて「インテグラル・ムービーメーカー バージョン4」のために、創作されたお話です。

 一体何のためにそんなことを、という点については、前回も述べさせていただいたように、①地球資源を好き勝手に扱う人類への皮肉、②レジスタンスの情報収集をかく乱するため、などが考えられるのですが、もう一つ、③さらにレジスタンスをおびき出すためのおとり捜査、もあるかも知れませんね。おとり捜査は、第四話でインテグラルというキャラが、行っていますね。

 残念でした! あなたはオトリ捜査にひっかかってしまいました。
 これから私は、あなたのもとにむかいます。
 何をやっても無駄ですので、手荒な真似はしないようお願いします。
              あなたのインテグラルよりw

最後の挿絵で、アランの左眼が赤く光っていますね。ネタバレしてしまうと、本物のアランがロボットであり左眼が光るように作られていて、それをチュートリアル開発者が、遊び心でちょっぴりネタバレしてるんでしょうね。なんのためにそんなことをしたのかは、さっぱりわかりませんが(汗。

で、チュートリアルについての語りはここまでで、次回はついにあの、「魅惑のアマガエル、インテグラル」が再登場します。お楽しみにー(笑。

次回はこちら。

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