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2021年に読んだ本を総括するnote

はじめに

年々、読書量が減ってきている。それは冊数にも顕著に表れていて、2019年が75冊、2020年が73冊、今年が59冊だ。
もちろん、ただ漫然と多くの本を読めばいいというわけではないし、何よりも今年は良作、傑作を多く読めたので、大満足である。

毎年、1年の読書記録はnoteに残しているので、昨年のものも載せておく。
昨年はどうしてこんなにもめんどくさい趣向にしたのでしょうね。
思いついたらやりたくなる性分なのでしょう。

読書量が減っている原因についても触れておくことにする。
それは僕がここ数年で映画を数多く観るようになったからだ。過去の名作から劇場公開作品までありとあらゆる作品を観まくっている。だから、どうしても読書に割く時間は減ってしまうのは仕方ないのかなとも感じている。
「読書で得られる楽しい時間」を「映画で得られる楽しい時間」に変換しているだけで、全体の幸福度は減少していないので、特に気にすることもないだろう。エネルギーも変わっていない。

年間ベストについてはツイッターの#2021年の本ベスト約10冊というハッシュタグで公開している。

ちなみにベスト10を選出するにあたって候補作は下記の通りとなる。

浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』
乾くるみ『リピート』
西澤保彦『七回死んだ男』
綾辻行人『時計館の殺人』
宇佐美りん『推し、燃ゆ』
貫井徳郎『プリズム』
上田岳弘『ニムロッド』
相場英雄『震える牛』
太田光『芸人人語』
凪良ゆう『滅びの前のシャングリラ』
朝井リョウ『正欲』
佐藤究『Ank:a mirroring ape』
野崎まど『タイタン』
カツセマサヒコ『明け方の若者たち』
秋吉理香子『聖母』
五十嵐律人『法廷遊戯』
まさきとしか『あの日、君は何をした』
武田綾乃『愛されなくても別に』
宮部みゆき『火車』
森博嗣『諦めの価値』

さて、年間ベスト10冊の中から5冊ピックアップして総括していこうと思う。

1冊目 朝井リョウ『正欲』

まずは朝井リョウさんの『正欲』。

この作品については上記のnoteで感想をかなり詳しく書いているので、さらっと触れることにする。

朝井リョウさんの作品は何冊か読んだことがある。初めて読んだ作品は『桐島、部活やめるってよ』で、この作品の印象はとても良くなかった。地の文と会話文がごちゃ混ぜで読みづらい。それから作者の作品に対して何となく苦手意識を感じるようになってしまったのだが、『何者』を読んだときに大きく印象が変わった。上から目線のようで恐縮ではあるが、文章がめちゃくちゃ上手くなっていた。僕の大好きなどんでん返しもあり、めちゃくちゃ好きな作品となった。そして満を持して『正欲』である。『何者』のときに感じた「面白い!」という感慨から遥か先を行ってしまった感覚だった。これ以上の作品を書けるのかと逆に不安になってしまう。それくらいの傑作である。

2冊目 浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』

僕がいつも言っている近所の本屋さんには朝倉秋成さんの専用棚ができているほどの注目の作家だ。

『六人の嘘つきな大学生』のあらすじは、急成長のIT企業「スピラリンクス」の最終選考に残った6人の大学生がグループディスカッションの最中に6人それぞれの罪を告発した封筒が発見されるというもの。しかも全員クズという刺激つき。

6人の罪を告発した封筒を用意したのは誰か、そして6人が抱える罪や秘密とは何かという謎と二転三転していくストーリーがとてつもなく面白い。

就活を題材とした作品では朝井リョウさんの『何者』が近い。『何者』では就活生が抱える苦悩、葛藤、秘密、そして人間の闇が描かれ、そこにストリー上のどんでん返しが用意される傑作であったが、『六人の嘘つきな大学生』ではそれらに加えて就活という制度が抱える矛盾や不合理などにも言及されていて素晴らしいと感じた。

3冊目 乾くるみ『リピート』

乾くるみさんの『リピート』は今年最初に読んだ本だ。
下記に感想文を残しているので、詳しくはそちらを参考に。

読んだのがちょうど1年前なので、記憶は朧気なんだけれど、それにしてもタイムリープもののSF設定と『そして誰もいなくなった』を融合させるなんて発想が素晴らしい。しかもばっちりとその設定がハマっていて、それに呼応するようなオチになっている。上記の感想文でも「拍手を送りたくなった」と書いているが、もっと正しく言うならば、あまりに華麗で、あまりに見事で、僕は最後の一文を読んだときに爆笑した。

本作は、タイムリープもののSF作品(映画でも可)、『そして誰もいなくなった』を予習した上で読むことをおすすめする。そうすれば、僕が爆笑した意味がわかるかもしれない(わからない可能性もある。単純に頭がおかしい奴に思われる可能性もあり)。

4冊目 佐藤究『Ank:a mirroring ape』

4作目は佐藤究さんの作品。
人類史を紐解くような壮大なスケールの作品だった。
あらすじはこんな感じ。

2026年、京都で人種国籍を問わず人間同士が殺戮し合う暴動が起きる。それは感染爆発、革命やデモ、戦争によって引き起こされたものではない。京都暴動と呼称されたそれは1頭のチンパンジーによるものだった。

人間同士の殺戮はなぜ起きたのか、そして、それを引き起こしたチンパンジーにはどんな原因があったのかという謎は、人類の進化の歴史によって解き明かすことができる。そのスケール感は見事だった。作中でも「2001年宇宙の旅」への言及がある通り、それと同様のスケール感と美しさがある作品だった。

また、物語の構成は、暴動が起きる数年前、数ヶ月から5日前、暴動発生3日後のモノローグなどが交互に挟み込まれる形になっていて、それもめちゃくちゃ好きだった。

5冊目 野崎まど『タイタン』

こちらも先ほどの『Ank:a mirroring ape』と同様のスケール感の大きい作品だ。
『Ank:a mirroring ape』が人類史を紐解くような作品であるのに対して、野崎まどさんの『タイタン』は人類の遥か先の未来を描いた作品だ。

あらすじはこんな感じ。

タイタンというAIによって人類は仕事から解放され、安定した生活を送るようになった近未来。ある日、心理学者の内匠成果は機能不全になったタイタンのカウンセリングをすることになる。

まず綿密に練られた設定が素晴らしい。
Aが人類を豊かにした未来の姿をとても細かく表現している。登場人物たちから見た歴史的な価値観(=僕たちが生きる現代の価値観)と比較しながら、人間の生活、仕事、結婚観、死生観が表現されているのが面白い。

心理学者(作中では基本的には仕事に従事している人がほとんどいないので、心理学を趣味とするという表現になっている)とAIとの対話と聞くと地味な作品に思えてしまうが、本作は決してそうではない。詳しくは読んで欲しいのだが、タイタンと内匠成果の壮大な旅には考えさせられるものが多い。タイタンと内匠成果が旅によって感じたこと、得たものは、現代の僕たちが大切にしているものや失いかけているものであったりする。本当に些細なことが自分たちを形作っているのだなあと感じられる。

タイタンと内匠成果の邂逅も美しい。

私達は向かい合う。
人間とAIとして。
一人と一人として。
P128

私は人間として生まれ、彼はAIとして生まれた。そして私達は今、同じ《人間性》を感じている。それだけで繋がっている。だからありのままの私で、ありのままの彼と向き合おうと決めた。それが二人にとって一番美しいと思った。
P169

互いの大きさは関係ない。互いの能力も関係ない。上下などはなく、性差の別もなく、人とタイタンであることすら無関係だ。
私達は。
友人だから。
P366

人間であるか否かという些末な障壁を超えて対話している姿は、とても暖かい。

本作は仕事が大きなテーマとなっている。
人間はなぜ仕事をするのか?
内匠成果とタイタンそれぞれが考え、結論を導いていく様もとても考えさせられる。

仕事をしているとどうして日々の業務に追い立てられ、誰かのためにという当たり前のスタンスを忘れてしまいがちである。

本作で初めて仕事というものに触れる内匠成果とタイタンの目線からとても純粋に仕事というものをとらえることができる。

内匠成果は思考の過程でこのような着想にたどり着く。

「もしかすると仕事は」
私は答えにまだ程遠い、思考の通過点をそのまま口にした。
「一人ですることじゃないのかもしれない」
P241

一人で完結しただけでは仕事ではない。
仕事とは、影響を与えること。

本当に面倒。本当に厄介。自我があるというだけで、あれほどシンプルで美しかった《仕事》が途端に難しく複雑なものになってしまう。
仕事をするだけじゃ駄目なのだ。
仕事をした、と思いたいのだ。
自分がした仕事の結果を知りたがる。仕事をしてどんな影響があったのかを知りたがる。成功したのか失敗したのか答えを知りたがる。結果のフィードバックを受けて、私達は初めて仕事を完結したと思える。
P357

とてもシンプルな仕事という概念にはどうしても人間の複雑性が介在してしまう。

ここ最近、仕事を終わらせるということに終始してしまっていた僕にとってはこの感覚を大事にしたいと思った。

自分一人で完結するものではなく、誰かに影響を与える。そして、そのフィードバックがあることで仕事は完結する。

最後に僕が本作で最も感銘を受けた箇所を引用して終わりにする。

何かに影響を与えることが仕事なら。
私達は、互いが存在する限り、相手に働きかけることができる。仕事を続けることができる。
だから私は今日も生きる。明日も生きる。生きられる限り生き続ける。
彼が働きかけられるように。
彼の“生き甲斐”であれるように。
P373

「彼」という部分を、仕事をする上で大切な誰かに置き換えて考えればもう少しだけ頑張れるのではないのだろうか。

さいごに

今年読んだ本の中から5冊ピックアップして総括してみた。どれも紛れもない傑作だと思う。どれもおすすめできる。

来年の読書のスタンスとしては、読書量は減らしてもいいからとにかく面白い本を読むという感じでいこうかと思う。

死活問題としては本を置くスペースである。
2つある本棚がとうとうすべて埋まってしまい、今は読み終わった本を本棚の上に積んでいっている状態である。いつ崩れてもおかしくない砂上の楼閣といった具合だ。
ずっと導入しようか迷っていた電子書籍の出番かもしれない。どの端末にしようか色々調べているくらいだ。

とにもかくにも来年はどんな本を読めるのか楽しみである。

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