豪雨の夜

コンコン

ドアがノックされてる。

心臓が飛び出しそう。
全身にドクンドクンと心臓の音が響く。

さとしなのかな。

怖い。
嬉しい。
怖い。。

視界がスローモーションになっていく。

鍵を開けると

あちらからドアノブが回った。



「なんだよ。その顔。幽霊がきたとでも思ったのか?」



森本だった。



ガッカリしたんだか
安心したんだか
分からないけど
まだ心臓はドキドキしていた。


「これ、先輩がお前にって。あとちゃんと食べたかチェックするぞ。入れろ」

ああ、何も喋ってないのに森本はズカズカ入ってきた。

今からさとしに会いに行くから
出てって。

そう言いたかった。

でも、それであってるのか、
今の私の判断力じゃ
わからなかった。


「森本、ちょっと私電話しなきゃいけなくて。少し外してもらえる?」

「あ?ああ。楽しくなさそうな電話だな。そんな顔して。外にいるわ。」


深呼吸して。

メールを打つ。

「電話だったらできるよ」

すぐに既読がついた。

プルルル

ケータイが鳴ってる。

登録は消したけど見覚えのある番号だ。

ゴクン。「もしもし」


「もしもし?悪いな。急に。今大丈夫?」

久しぶりのさとしの声は
まるで違う人の声に聞こえた。


「うん。大丈夫。どうしたの?」


「いや、元気かなって。」



元気じゃないよ。もうボロボロだよ。
涙が勝手に出てくる。
今喋ったら泣いてることバレるだろうな。

「…」

「ごめん。勝手なことして。もう、切るわ。」


切らないで。戻りたいって言って。

やり直したいって言って。



「うん」

これ以外の返事が


今の私には出来なかった。



ツーツーツー。


しばらく経ってまたドアをノックする音が聞こえた。

「おーい。つまんない電話終わったか?」

森本だ。

今会いたくないな。合わせる顔ないな。



「終わったよ。暑かったでしょ。ごめんね。」

なるべく平気な顔してドアを開けた。

ガチャ。

「泣いただろ。」



殺されるのかな。
森本の殺意のある視線が怖くて



目を逸らした。

「怖いよ。」


森本は目を逸らして言った。

「女好きの俺からしたら泣いてる女はどんなやつだろうと泣かせたやつに腹が立つ。お前みたいなデカい女だろうが泣いてたら泣かせたやつに腹が立つ。なんで泣いてんだよ。」

またまっすぐ私を見る。

それにしてもでかい女って。。。
168の私のコンプレックスを
ズカズカ踏み潰してくるなんて
本当、デリカシーが無い男。


「森本には言わない。今日はありがとう。明日のバイト、行くから。森本も明日出勤でしょ?」



「なんで泣いてたか聞いてるんだよ。」


「電話、したから、泣いた。」

言いたく無い私の気持ちを察したのか、

森本はそれ以上聞いてこなかった。

あっそ。と言って帰っていった。


その夜はゲリラ豪雨が降った。
窓を叩く激しい雨の音が
私の心を静かにしてくれた。


さとしはなんで連絡してきたんだろう。

落ち着いたらふと疑問に思った。

ケータイの画面には

8月31日23:59

私の誕生日だった。

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