1人の夜

「もう、迎えにこなくていいよ。私、幽体離脱やめたから。ありがとね。」


森本が迎えにきてくれるようになって2週間。

先輩に目撃されてなんだか先輩も満更じゃないみたい。

「ねえ!あんた最近森本のバイクの後ろ乗ってない?こないだ見かけたんだけど!なーに!できてんのぉ?」

先輩の目の奥に

「私に懐いてる森本に手出さないでよ」

が見えた気がして

「足として使ってるだけですよ。」

「えーひっど!!あんた彼氏と別れてから血も涙もない女になっちゃったの?笑森本可哀想に。今度慰めてやるか!!」

「あはは」

こんなことがあったから

もう森本の後ろに乗るのは
なにかがめんどくさくなる気がして。

「あっそ。でも俺、もうこの道気に入っちゃったんだよね。お前がいてもいなくても通るから」

それは,好きにしてください。

正直誰も傷付かなきゃそれでいい。

「最近先輩がなんか優しいんだよ。やたらボディタッチしてくれるし。もしかして俺になびいてきてくれたのかな?」

「そうじゃん?」

森本の後ろに乗る、最後の日か。
お世話になったなぁ。

バイト休もうと思う日でも
森本が来るから休めなかったよ。

料理すると
さとしとの日々がよぎって泣いて。
コンビニに行っても
どこに行っても過去の私たちが幸せそうにそこにいる。

本当は引きこもりたかったんだよ。




バイクから降りてお店まで歩く。

交差点で

「なぁ、そろそろさとしってやつのこと忘れた?」

「…」

「だよな。」

「うるさいんだが」

信号が変わった。

森本が歩き出して

私も歩く。

さとしのことが頭から離れなくて
前から歩いてくる人がたまに
さとしに見えて
鼓動が早くなって
気が遠くなる。


「キャー!!!」

「おい!大丈夫か?!」

さとし?


手が痺れる。

全然食べてなかったからかな。

森本が倒れる私を支えてくれて
ただでさえ悪い頭を打たずにすんだ。

いっそのこと、頭を打ってしまいたかった。

私はそのまま森本に家に送ってもらってバイトを休んだ。

「ちゃんと食べろよ。お前最近ガリガリだぞ。そんなんじゃモテないだろ?元からか。これ、買ってきたから食べて寝てろ。」

気付いたらテーブルに置き手紙があった。


ピロン

ケータイが鳴った。

メールだ。

「大丈夫?貧血でも起こしたの?生理?なんか買ってこうか?」

先輩からだった。

なんて返信しよう。



もう一件きてる。




「会える?」




さとしから連絡が来ていた。

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