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思いがけないこと
文化の日。天気があまりに良いので、外に出かけたくなった私は、
デパートの北海道の物産展に行こうと家を出た。お昼はおいしい
駅弁か何かを買って帰るつもりで…。
予想通り、前日の大雨が上がったデパートは、とても人が多かった。
数日前、イベントホールでバラ展が開かれているとわかったので、
わたしはまず北海道展の前に展示を見に行くことにした。
バラ展は最終日を迎えていた。そのため生けてある花の中には、
最盛期を少し過ぎたものを見受けられたが、それでも充分
美しかった。見たことがないとても小さなバラもあって、
ガラス瓶の中で宝石のように輝いていた。
小さな会場なので、ひとあたり眺め、『もうそろそろ出て行こう』と
したときに係りの人からアンケートをもらった。それに協力を
すると、ガラポンが一回できるそう。
「まだ金賞が出ていないので、ぜひ引いていってください」と
係りの人が言う。そこで私はその呼びかけに応じて久しぶりに
ガラポンをした。
すると、生まれて初めて金賞が出て、薔薇の苗木をいただいた。
担当の人も
『まだ金賞が出ていない』と言った途端に私がそれを
引き当てたので、とても驚かれていた。
私は今までにくじ運がなく、当たったのはこれまで掃除当番
ぐらいだったので、とてもびっくりした。熊本で作られた
品種で黄色の花が咲くということだった。
* * * * * *
帰って調べてみると、いただいたバラは『セントコルベ』
アンネのバラの姉妹バラにあたるそうだ。
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* * * * * *
この時点でごった返している北海道展に行くのは、無理になった。
苗をよく見ると細い茎に蕾が付いている。そしてビニール袋から
飛び出ている枝には、かなり鋭い棘がついていたからだ。
今日は、文化の日なので、街中の書店巡りとバラ展を見て、少し
文化の香りに触れた後、おいしいものを買って帰る予定だったのに、
計画を変更した。
いつも友達と訪れているお気に入りのケーキ屋さんから見える
ところに、レモンのイラストの付いたレストランがある。私は前から
そこに興味を持っていたが、ランチメニューが『赤牛ステーキ』と
『赤牛メンチカツ』の2択しかない。
勝手にメニューを見て、がっつり系だと思い込んでいた。
でも、やっぱりその店が気になって、思い切って入ってみた。
中はオープンキッチンになっていて、座席数も少ない。せっかく
だから赤牛ステーキを頼んだ。
まず初めにオニオンスープと大根が主体のサラダが出てきた。
スープがとてもおいしい。じっくりだしをとっていることがわかる。
私はスープの中でも透き通ったコンソメ系が大好きだ。
大根サラダもおいしかった。隣の人が
「大根どうやって切ってるんですか?」
と、尋ねたら
「まず、桂むきをして、それを細かく切っています」と言う答え。
和食でもないのにかかわらず、スライサーなどを使わないで
丁寧に下ごしらえをしているのに驚いた。だから、ドレッシングが
よく絡んでとてもおいしいのだろう。
次にメインが来た。メニューの写真では、お肉がレア状態で写って
いたので心配したが、ミディアムレアでカットしてあるため
とても食べやすかった。
ちょうどいい厚みだったので、よく肉の風味が味わえた。また添えて
ある野菜もとても美味しく、野菜の食感や旨味が充分味わえた。
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はじめての店で、ご飯を残すともったいないので減らして
もらったが、減らさなくてもちょうどよかったかもしれない。
あまりにおいしかったので、後で別の店で飲む予定だったコーヒーを
頼もうとしたら、メニューに【自家製つぶつぶレモネード】がある。
目の前にはワインボックスに山積みされた国産レモンの山。
コーヒーはどこでも飲めるからレモネードにしたが、
これがすっきりして酸味も強く、とてもおいしかった。
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店の前で、メニューを見るだけでスルーしなくてよかった。
お肉の好きな友達にも早速伝えよう。飲み物も入れて、2000円で
お釣りが少し来るのはとてもリーズナブルだ。こんなラッキーな日は
すぐに家に戻らないと決めて本当によかった。
この話には続きがある。『いいこともこれで終わり』と思って
バス停から家まで歩いているときに、自転車で横を通りかかった
おじいさんがニッコリ笑ってこちらを向き、
「きれいな色の服だね〜」と声をかけたのだ。
身も知らない人から、そんな言葉をかけられるとは驚きだ。
おしゃれに関心のあるおばあさんなら、つゆ知らず…
びっくりした私は思わず「ありがとうございます」
と答えるのが精一杯だった。
イケメンだったらもっと嬉しかったけれど。(笑)
こちらの方言で言うと、往年の(よかおとこ)にほめてもらって
私はラッキーだ。
よく考えたら、今日の服は初おろしだ。1ヵ月前に店員さんから
「こういったものがお似合いですよ」と言われ、買ったもの。
自分では着る季節が限られるため、目にも留まらなかった。
すると『セーターとの重ね着をしたら』とアドバイスをもらい
お勧めで買ったものだ。
自分で決めた枠内のものでないからこそ、よかったの
かもしれない。見る角度によっては玉虫のように光って見える
ハリのある生地のワンピース。これが幸運の服なのかもしれない。