ゆかりさんとバトラー #1 出会い
はじめに
パトラーをお願いする場合は、執事協会に登録されている名簿の中から
依頼主の要望にあった人が、まず候補者になります。そして依頼者との面談を
経て、担当のバトラーが決まるのが一般的です。
この話の中では、まるでマッチングアプリのように軽い感じで
2人の出会いが描かれてますが、実際にそういうことはあり得ません。
非現実のエンターテイメントとして楽しんでいただければ嬉しいです。
期待はずれの出会い
50歳をいくつか過ぎたゆかりは、もともと親の家だった大きな家に1人で
住んでいる。結婚して、いちど家を離れたが、10年足らずで離婚してまた
生家に戻ってきた。
両親は、いい人とのご縁があれば一生幸せだと考えていた。
ゆかりは、大学卒業後ほとんど仕事をしたことがない。お茶や、お花、洋裁など
昔、花嫁修行と言われたものはほとんどやった。資格もいっぱい持って
いるがそれを活かして、働いたこともない。
結婚した人は温厚で、ほとんど家事のできないゆかりに対しても寛容であった。
お手伝いさんも雇ってくれて、ゆかりは家事をすることもなく、気ままに小説を書いたり、趣味に明け暮れたりしていた。そんな中、夫の会社が倒産し、彼が
苦境に立たされたとき、彼女は身勝手で何の心の支えにもなれなかった。
二人に子どももいなかったので、夫は見切りをつけて離婚を切り出した。
ゆかりが離婚すると聞いた時、両親は困って顔を見合わせた。だが、
自分たちもだんだん歳をとって心細くなる時期だったので、娘を受け入れた。
それからは、両親のことを見ながら、ゆかりは相変わらず外にも働きに出ず、
家で過ごす毎日だった。数年前、両親を見送っていくばくかの遺産を受け取る
ことになった。
「私の人生はつまらない。このお金で旅行に行っても楽しめないだろう」
「おいしいものを食べるといっても限りがある」
そこでゆかりは今までに使ったことのないことにお金を出そうと決めた。
それでは一体何に使おうか。
今後、介護のスタッフにお世話になるかもしれない。でも、その前に
小さい頃夢だった執事に「ゆかり様」と呼ばれて大切に接してもらいたい。
もともとは単なる思いつきだったのに、それがどんどん膨らんでいく。
一体いくらお金がかかるのだろう。調べていくと1日8時間勤務で月20日来てもらうと約60万円いうことがわかった。びっくりする額だが、半年間限定なら出せなくもない。もう洋服もいらないし、買いたいものもなくなったから。
これからは、形あるものにお金をかけるのではなく、人が聞いたら一番無駄と
思われるサービスにお金をかけてみたい。
そう思ってゆかりはバトラーの得意分野と写真をみた。するとアーモンドの
ような目をしたジェームスの写真に行き着いた。
この人にお願いをしてみたい。瞬間的にそう考えて登録をした。
自分の20年前の写真と依頼内容を書いて…
翌日、ドアベルが鳴って、一人の正装をした男性がやってきた。
でも、その人は、写真とは似てもつかないふっくらとした体型。
おまけにベストのボタンはせり出したお腹の先頭にしがみつくように
ついている。ゆかりは一瞬「誰?」と思ったが、そこにはアーモンドの
目があり、その柔和な笑顔にジェームスだとわかった。
ジェームスの方も一瞬、ゆかりがわからなかったようだ。
ただ、そこはプロ。「ゆかり様でいらっしゃいますか?
それとも面差しがよく似ていらっしゃるので、ご親戚の方で
いらっしゃいますか?写真だとお顔の印象がよくわからないもので…。」
と言った。
ジェームズばかりを責められない。だって私も20年前の写真だから。
この当時は奥様と言われ、何不自由なく暮らしていたから、印象が全く違う
だろう。今は何をするにでも「つまらない。どうせ何をやったって変わらない」
が口癖なので、表情も暗くなっているだろう。
でも、イケメンのかっこいいバトラーに「ゆかり様」と
言ってもらう夢は見事に砕け散った。
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