夢の街
「いくら夢と言っても、これはあまりにも現実離れしてませんか」
担当者は、僕のコンセプトと設計プランを眺め、『まったく何も分かっていないんだから』という表情を浮かべた。
「それは、そうだ」
予想どおりの反応が返ってきて、僕は内心『やった』と思った。
〜そのコンセプトとは〜
もともとある自然を活かし、いろいろな年齢層、バックグラウンドをもつ人々が
楽しく暮らす街。
現在見る住宅の多くは、機能的だが、無機質な傾向にある。
好みの問題もあるが、温かみのある美しものとは言えない。
そして住環境が私たちの意識にも影響を及ぼす。プライベートの空間は、
大切だが、今のつくりでは、他の人々との関係が希薄になり、個に引きこもることが増えそうだ。
「このガウディのような自然物とも思われる曲線を生かした建築。
理想的だが、いったいいくらかかると思っていますか」
担当者は明らかにイライラしていた。僕は
「今までの設計プランは、現実を見て中身を擦り合わせてきたから、どれも中途半端でつまらないものになりました。だから今回は妥協をせず、プランニングをしたのです」
と答えた。
「まあ、いいでしょう。それで資金はどこから調達するおつもりですか」
「街のコンセプトに賛同する人の寄付が中心です。僕には密かに狙っているターゲット層があるんです」
「実現不可能と思われる夢の街」そうプランに名前をつけて、創業者である富豪に手紙を書いて趣旨に賛同してもらうのです。直筆の手紙がポイントです。最近は翻訳機能が利用できるので。
必ず彼らや彼女らは、キャッチコピーの実現不可能に関心がいくのではないでしょうか。特にパイオニアの方には共感してもらえるでしょう。その方たちも、奇想天外だ。無理だとさんざん言われたと思うから。
巨万の富を築いてプライベートも充実している方もいますが、お金はあっても人が去り、『人生とは何だったのだろう』と考えている人は、この街づくりに魅力を感じるかもしれません。なぜって、人のぬくもりや愛情は決してお金で買えませんから。
「さっきから気になっていましたが、ここにある簡素な建物はいったい何ですか」
「ああ、それですか?そこは巨額の寄付をした方々が泊まれるゲストハウスです」
「えっ?お金持ちの方が、泊まるにはあまりにも質素ですけど」
「それがいいのです。贅沢に慣れた方も多いと思うので。アトラクション的に楽しんでいただけると思いますよ。中には、ご自分の若い頃を思い出し、希望が出てくる方がいるかもしれません。そして、何より幸せな人々の生活が垣間見れること。これが一番のお礼だと思うのです」
担当の山口は、実現不可能な理想論と思っていたが、話を聞くうちに自分の価値観だけで限界を作っていた事にも気づいた。
そして、ただ熱意だけをもち、自分の懐にはいってきた者を人は案外歓迎するかもしれないとも感じた。