Full Funnelに移行するタイミングとは?
Bottom Funnelの限界点が見えてからでは遅い!
今回から具体的にFull Funnel Marketingの実施方法について議論していきたいと思いますが、初回の今回はBottom Funnel特化型の企業がFull Funnelに移行すべきタイミングについて考えます。伝統的なマーケティングを行ってきたプロフェッショナルは、マーケティングのスタート時点からというと思います。しかし、現実的に考えると、私は最初はBottom Funnelから小規模にスタートして、徐々にFull Funnelに移行するという方法でよいと考えています。では、徐々にとは言っても、いつからFull Funnelのマーケティングを始めればよいのでしょうか?
Full Funnelが必要な理由は、Bottom Funnelだけでは成長の限界があるためですと前回述べましたが、その限界が具体的に見えてきた時に始めるというのは良い考えではありません。なぜなら、Full Funnelの正しい施策を見つけるには時間がかかるため、限界点が見え始めた時に始めたのでは、必要なスピード感でFull Funnelの効果を実現することが困難であるケースが多くなります。また、限界点が見え始めているということはすでにBottom Funnelの効効率が悪化し、マーケティング部門のKPI達成が難しくなっていることが多くなります。その状況ではROIが明確でないFull Funnel施策に予算を割り当てることが難しくなり、実施のハードルが上がる可能性が高いこともこのアイディアの問題です。
まずはBottom Funnelの運用クオリティを改善する
では、早ければ早い方が良いのかという質問が出ると思います。その質問に対する答えは次のようになります。それは、「自社のBottom Funnelの広告運用クオリティが、最もレベルの高い競合他社と比較して同等以上に高いレベルになったと判断出来たタイミング」です。この基準がなぜ必要かについて、以下の3点を理由として挙げてたいと思います。まず、自社の運用クオリティが競合内でトップクラスになっていない場合、Full Funnelの話をする前にそちらを改善することにリソースとスキルアップの努力を集中すべきだと考えています。次に、競合で最高水準の運用が出来ていないと、自社の直面している状況が市場の需給バランスで起こっているのか、自社の運用の失敗で起こっているのかの判別がつかないため、限界点がどのあたりなのかが判別できません。最後に、Full Funnelのデジタル広告は高いマーケティングのスキルを要求するため、Bottom Funnelの運用がハイレベルでできないようなスキルレベルの人材にやらせた場合、成功しない可能性が高く、投資コストの無駄遣いになることが懸念されます。
伝統的マーケティングのプロフェッショナルからは、Full Funnel全体の状況を理解しないままではBottom Funnelを適切に行うことは難しいという意見が出るでしょう。しかし、私はそうは考えていません。なぜなら、パフォーマンスマーケティングのPDCA高速回転モデルを使えば、広告運用のPDCAを高速回転させながら、市場の理解を深めることができるからです。ターゲティングのユーザーやクリエイティブへの反応など、PDCAのプロセスで丁寧に観察することで、市場全体のマップが徐々に明確になっていくと考えています。逆に、その視点でBottom Funnelの運用ができていない場合、担当者のマーケティングスキルレベルが不十分であり、マーケティング基礎体力を養成する期間であると考えるべきだと思います。
したがって、私のお勧めのタイミングは、「Bottom Funnelの運用を業界最高水準で実施できると判断したら、なるべく早く余裕があるうちに」です。
Full Funnelを実施するタイミングのもう一つの正解とは?
私の経験や他社の事例を見てきた中で、実は別の視点で正しいタイミングを提示することもできると考えています。これは前回話した楽天のプロ野球参入の事例と似た考え方です。「社内にFull Funnel Marketingのスキルを持った人材がおり、資金的にも余裕があり、リスクを追っても成長スピードを上げたいと思っているのであればその時に」というものです。デジタル時代のFull Funnel Marketingの実践方法はまだ確立していない分野だと考えています。そのため、時間とコストをかけてもはっきりとした正解にたどり着けるかは、スキルの高いマーケターでも難しいことがあります。
一方で、費用対効果が試算しがたいものの、楽天がプロ野球に参入したときのように認知度が一気に上がり、世の中の人がそのサービスを広く認知・理解する状況が生まれると、マーケティングの様々な施策の効果が改善し、成長スピードが加速したり、パフォーマンスの効率が良くなるケースが存在します。問題は、結果が良いとしても、それが投資対効果として適切かどうかが不明な点です。
このような状況下では、既存のBottom Funnelの予算を削減してUpper&Middle Funnelに投入することは非常に難しいです。なぜなら、Bottom Funnelを減らした分がROIとして返ってくるかが予測できないからです。しかし、資金に余裕があり、成功するかどうか不透明でも、〇億円の予算をリスクを冒してでも投じる覚悟があるのであれば、私はそれに挑戦する価値があると考えています。私のようなCMOの立場では、このような提案を積極的にすることはロジカルに説明しづらいですが、例えばオーナー経営者との信頼関係があるとか、またはゲームのヒットが想定以上で資金的余裕がある場合、単純に業績が好調である場合、あるいはIPOで資金調達をした場合など、様々なタイミングが考えられます。
私は、この意思決定の手法を「アホなCMOのふりをしてやっちゃう法」と呼んでいます。ただし、会社の重要な資金を使うのであれば、可能な限りしっかりとした戦略と実行プランが必要ですし、そのためには社内にその能力を持った人材が不可欠です。ただし必ずしも部下にスキルのある人間が必須なわけでなく、CMO自身に十分なスキルがあり、コミットするのであれば問題ありません。ただし、CMO自身にそのスキルがない場合は、Full Funnel Marketingを行うリスクが高すぎるため、避けるべきです。また、このタイミングで実行を引き受ける際の条件は、リターンが最悪ゼロでも文句を言わないことを経営メンバー内で理解してもらっておくことです。これが、「リスクを追っても」と記載した理由であり、「アホなCMOのふり」と言っている理由でもあります。私の経験でも、結果として、費用対効果がポジティブで成功した案件もありますが、逆に1円もリターンが得られなかったとおしか思えなかったような案件も経験しています。
Full Funnel Marketingは、真剣にBottom Funnelを取り組めば取り組むほど、困難度が増す施策であり、その関係は反比例のようです。このため、社内の経営陣からの懸念や、これまでBottom Funnelに真剣に取り組んできたデジタルネイティブのマーケター自身が違和感を感じるケースもあります。
しかし、施策と費用対効果の連動性がはっきり見えなくても、長期的な認知度と事業利益の連動性や、指名検索数の広告費比率とリスティング広告のパフォーマンスの改善など、自社のマーケティングの効率を改善させられる可能性は多くの場合あるはずだと考えています。問題は、一つ一つの施策の効果が、大成功を除いてあまり明確でないということです。
成功するためには、運がよくない限り時間がかかることを覚悟しなければなりません。そのため、条件さえ揃えば、少しずつでも早めに始めることが重要だと思います。
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