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新規事業開発の体制とメンバー
新規事業立ち上げの組織を考える
新規事業の立ち上げにおける体制構築に関して、私が注意しているポイントを2つ紹介します:
1. 小さく産んで大きく育てる
最初から大規模に始めず、小規模からスタートし、事業の成長に応じて拡大するアプローチが重要です。
2. 対象事業経験者の採用は慎重に
対象事業の経験者を採用する際には、その人の経験が新しい事業に適応できるか慎重に見極める必要があります。
小さく産んで大きく育てる
新規事業の開発において重要なのは、可能な限り少数精鋭のメンバーから開始することです。特に、中途半端な状態でオペレーションメンバーを増やすことは避けるべきです。以下の3点がその理由です。
1. 人件費の下方硬直性
2. Strategy&Executionへの集中
3. 業務効率の維持
1. 人件費の下方硬直性
新規事業の開発において、採用した人材をチームから外すことは、さまざまなネガティブな側面を伴うため慎重に扱うべきです。特に、日本では一度加えたメンバーの固定費が中期的に計上されることを前提に考える必要があります。海外の労働環境のようにたとえ法律が許可していても、実際に人員削減を行うとチームの士気やモチベーションに悪影響を及ぼす可能性が高いため、気軽に実行するべきではありません。
一方で、新規事業のコストコントロールは非常に重要です。事業の売上が計画通りにいかないリスクや、事業の立ち上げが不明確な状況では、コスト面での柔軟性を確保することが求められます。そのため、初動段階では必要なリソースをギリギリに設定し、固定費をできるだけ抑えることが望ましいです。これにより、予期しない事業の遅延や売上不振のリスクを管理しやすくなります。特定のケース、例えば自社リソースでのシステム開発などはサービス開発の工数管理が正しく行われればその限りではありませんが、一般的にはコストの柔軟性を維持することが成功に繋がると考えられます。
不確実性が高い新規事業の推進はワークライフバランスの多少の犠牲はしょうがない?
新規事業の立ち上げにおいて、チームメンバーには労働法制の範囲内での残業や高い業務スタンスを求めることが必要だと考えています。新規事業は未確定要素が多く、計画通りに業務を進めることが難しいため、業務を時間通りに進める前提で働くのは無理があります。そのため、ワークライフバランスを徹底的に確保したいという人材中心で新規事業を立ち上げるのは難しいと思います。もしそのようなコーポレートカルチャーで新規事業を立ち上げたい場合は、人件費に余裕を持たせた初期計画や、オペレーションに通常よりも長い時間を確保するなどの対策が必要です。私の経験では、そのような事業計画を通す企業に出会ったことはないため、現実的には柔軟な業務アプローチが求められる場面が多いと思います。
2. Strategy&Execution人材への集中
新規事業開発は、Strategy、Execution、Operationの三段階で進行します。最終段階であるOperationは、Execution段階で確立された成功法則や成功スキームを拡大再生産するフェーズです。私の見解では、事業の成否を分ける最大のポイントは、Executionフェーズをいかにやり切れるかにあります。
Executionフェーズで重要なのは、Strategyで設定した仮説を実証実験しながら、仮説通りにいかない点や問題点を明らかにし、その解決策を自ら考えて実行することです。このプロセスを自発的に行える人材は非常に限られています。たとえ完全な自走が難しくても、少なくとも簡単なガイドやディレクションを与えるだけで自ら動き続ける能力を持ったメンバーがExecutionに関わることが理想です。
Execution Phaseの人材確保の注意点
新規事業のExecution Phaseにおいては、以下の二つの問題に直面することが多いです。一つ目は、Execution能力のあるメンバーだけを集めることが難しく、十分な人員が確保できないこと。二つ目は、十分な人材を確保できないために、多少妥協したメンバーを加えることで、Execution能力の高い人材がそのサポートにリソースを割かざるを得ない状況になることです。
私の経験上、Execution Phaseに必要なメンバーを十分に確保できるという環境には遭遇したことがありません。現実的には、これらの問題はほぼ同時に発生します。つまり、Execution能力の高い人材が不足し、妥協した人選により、能力の高い人材がサポートに回ることになります。この状況は望ましくありません。
この問題を解決する方法としては、Execution能力の高い人がチームマネジメントに優れており、他のメンバーのリソースを効果的に活用してチーム全体のExecution力を高めることが考えられます。しかし、Execution能力が高い人が必ずしも優れたマネジメント能力を持つわけではなく、個人で能力を発揮するタイプの人も多いのが現実です。
このため、Execution Phaseでは少数精鋭のチームが効果的である理由は、どのような組織構造がExecution業務を最大化できるかを考えると理解できると思います。少数精鋭のチームでは、メンバー全員が重要な役割を担い、無駄なリソースを省くことで最大のパフォーマンスを引き出すことが可能です。
3. 業務効率の維持
新規事業における人員増加のタイミングは、Execution PhaseからOperation Phaseに移行する時期であると考えます。Execution Phaseでは成功法則の確立が主な役割ですが、Operation Phaseではその成功法則の拡大再生産が求められます。一般的には、オペレーションが労働集約的なものであるほど、Operationに移行する際に人員数を拡大する必要があり、それができないと事業が拡大しないという状況になります。
例えば、私が直近で勤務していた人材紹介ビジネスは、典型的な労働集約型のビジネスです。このビジネスでは、一人一人の求職者に対応するキャリアアドバイザーが必要であり、売上を増加させるには以下の2つの方法が考えられます。一つは、キャリアアドバイザーの人員数を単純に増やす方法です。これにより、対応できる求職者数が増えるため、売上も増加します。もう一つの方法は、キャリアアドバイザー一人当たりの対応求職者数を増やすことです。この方法が実現すれば、追加の人員を増やすことなく、売上と利益率の改善が可能となります。
この人材紹介ビジネスの例を使って説明する理由は、人員拡大に際して注意すべき重要な前提条件が含まれているからです。人員を増やしてオペレーションを拡大する場合、「一人当たりで対応できる求職者数が一定である」という前提条件があります。キャリアアドバイザーの対応求職者数を増やす場合には、「業務効率化の余地が残されている」という前提条件が重要です。
いずれの場合においても、オペレーションの拡大には成功法則が把握され、標準化されていることが重要です。前者の場合では、業務が標準化されており、人員数の増加によって業務効率が低下しないことが必要です。後者の場合では、標準化されたオペレーションが理解され、それを改善するためのソリューションが現場に浸透し、効率化の計画が立てられていることが求められます。
業務オペレーションが確立していない段階での人員増は効率悪化の原因
この視点を逆説的に捉えると、Execution段階で成功法則が発見され、オペレーションとして標準化される前に人員を増やすと、事業の業務効率が悪化するリスクが高くなると言えます。成功法則が確立され、標準化が進んでいない段階での人員増加は、業務の混乱や効率低下を招く可能性が大きいため、基本的にはこの段階ではプロジェクトチームの人員数を増やすべきではないというのが私のスタンスです。
確かに、労働集約型のビジネス、例えば人材紹介業などでは、人員数の増加を計画よりも遅らせると、事業の拡大ペースがスローダウンすることは避けられません。しかし、業務効率が悪化した状態で無理に拡大するよりは、利益面でより健全な状態を保つことが可能です。利益を健全に維持できる状況であれば、オペレーションの準備が整い次第、ビハインドしていた分もキャッチアップするために人員増のペースを上げることができます。事前にその準備をしておくことで、事業の拡大に伴うリスクを最小限に抑えることができます。
対象事業経験者の採用は慎重に
個人的には、外資系企業において新規事業を立ち上げる際に、既存の競合からノウハウを持つ人材を引き抜くという考え方がよく見受けられます。特に新規性の低いビジネスや周辺事業展開型の新規事業では、その業界特有の知識や経験が重要視されるため、経験者を引き抜けば成功するという短絡的なアプローチが存在します。
確かに、その業界特有の商慣習や事業特性を理解することは、新規事業の立ち上げにおいて有用な情報となることがあります。こうした知識を持つ人材がチームに加わることには明確なメリットがあります。しかし、私自身は「知識」を得るための唯一の解決策が人材採用であるとは考えていません。競合からの人材引き抜きに拙速に依存するのではなく、知識の獲得には他の方法やリソースも活用すべきだと考えています。例えば、業界の専門家とのネットワーキング、業界動向の調査、パートナーシップの形成など、さまざまなアプローチがあります。
要するに、人材引き抜きは確かに一つの手段ではありますが、他の手段と組み合わせて総合的に考えるべきであり、必ずしもそれだけで成功が保証されるわけではないという点を認識することが重要です。
対象事業経験者採用の注意点3点
新規事業の立ち上げにおいて、競合からの経験者の採用が必ずしも最善の選択でない理由は以下の三点に集約されます。
第1の理由は、業務の立ち上げとオペレーションには異なるスキルが必要であるからです。 同じ業種であっても、既存事業を運営するスキルと、新規事業を立ち上げるための戦略を策定し、それを実行するスキルは大きく異なります。特に、Executionスキルを持つ人材は非常に希少であり、競合事業の経験者が必ずしもこのスキルを備えているとは限りません。したがって、単にオペレーションタイプの人材を集めるだけでは、新規事業の成功には繋がらない可能性があります。
第2の理由は、同じ事業でも先行者と後発者では戦略やオペレーションに大きな違いがあるためです。 同一業界での経験があっても、先行企業と後発企業のアプローチや成功のロジックには違いがあります。例えば、業界のリーダー企業で成功した経験がある場合でも、後発で同じビジネスを立ち上げる際には、その成功の要因や市場の状況が異なるため、必ずしも同じ成功を再現できるわけではありません。したがって、後発での立ち上げに転職してくるような人材は、スクリーニングを慎重に行わなければリスクが高いと考えられます。
第3の理由は、既存競合の経験者が入社した場合、その意見が組織全体に過度に影響を与える可能性があるからです。 経験者が有用な知識やノウハウを持っている場合でも、その意見が過度に優先されることで、組織全体のバランスが崩れることがあります。特に、その人物が必ずしもチームのリーダーシップやマネジメントに適していない場合、組織運営において問題が生じることがあります。したがって、そのようなリスクを避けるためにも、経験者の採用にあたっては十分なスクリーニングが必要です。
以上の理由から、私は新規事業のExecution Phaseにおいては、業界知識やナレッジよりもExecutionスキルに基づく人材の選定が重要だと考えています。特定の業界知識については、コンサルタントや業務委託などの一時的な支援を利用することで、中長期的なリスクをコントロールする方が効果的です。
Execution効率最大化を実現する組織作りを!
新規事業開発において、組織作りは既存事業からの人材引き抜きが鍵となることが多いですが、現実的には直近の売上利益と将来の不確実性の高い売上利益との相対比較で新規事業側が不利になることが多いです。そのため、人数を優先して体制を作ると、人数は揃っていてもメンバーのサポートにリソースが取られ、パフォーマンスが低下することがよくあります。結果として、コストと推進力のバランスが崩れ、PL(損益計算書)を痛めるリスクが高くなります。
このような状況を避けるためには、自分や信頼できるNo.2的な立場の人間でサポートできる範囲の少数精鋭のメンバーで進めることをお勧めします。Execution(実行段階)とOperation(運用段階)は異なるものであり、適切なプロジェクト推進体制を構築することが、新規事業成功への近道であると考えています。
【この文章は以下の文章のライトバージョンです。より詳細な議論はこちらでご確認ください】