見出し画像

知識とスキルの違い

優秀な若者が抱える悩み

最近、非常に優れた若者と話をした際の出来事が印象的だったので、少しその話を共有したいと思います。彼は、特定の業界向けにマーケティングサービスを提供し、大きな成果を上げた実績を持っており、私も以前パートナー企業としてその業務を見てきたので、彼の能力には非常に感心しており、今でも定期的に交流を続けています。しかし、彼はあるプロジェクトで私と仕事をしている時に「自分には力不足を感じ、非常に悔しかった」と語っていたのです。

その告白には驚きました。彼と仕事をしていて、そのような劣等感を抱いているとはまったく想像していなかったからです。話を詳しく聞いてみると、彼が感じていた背景が見えてきました。彼は、これまでの経験で関わってきた業界では、さまざまなアイデアや解決策が次々に浮かんでくるのに、異なる業界になると私の提案に感心するばかりで、自分のアイデアやスピードが追いつかないと感じていたのです。

普段から、彼の発想力や問題解決力、デジタルマーケティングの理解には非常に優れたものがあると感じていたので、彼がそんな悩みを抱えていたことに驚きを隠せませんでした。

彼の悩みを聞きながら、なぜ私が「非常に能力が高い」と評価している彼が、そんな葛藤に直面しているのかを考えるようになりました。その過程で見えてきた整理方法は、もしかすると他の人にも役立つのではないかと思い、ここでその点を掘り下げてみます。

仕事の能力を2つの要素に分解する

業務パフォーマンスにおいて、個人が特定のタスクを実行できるかどうかを決定する要素は、大きく分けて2つに分解できると考えます。

1つ目は、マーケティングで言えば「基礎的なスキル」です。私が「マーケティングの基礎体力」と呼んでいるものに該当する、特定のファンクションを実行するために必要なスキルです。もう1つは、業界特有の知識や、ツールの使い方といった情報です。

私は幸運にも、楽天在籍時にさまざまな業種やサービスのマーケティングに携わる機会があり、この2つの要素を若い頃から認識できました。そのため、無意識に使い分けることができるようになっていました。しかし、今回の彼の話を聞いて、優秀な人でもこの2つの要素を適切に区別できていないことがあるのだと気づかされました。

スキルと知識の違いを理解する

もう少し具体的に説明しましょう。例えば、ある大手広告代理店のトップストラテジープランナーがいるとしましょう。彼は多様な業界のクライアントに対して成功したキャンペーンを数々実施してきた実績があります。そこで疑問です。彼はそれぞれの業界について、クライアントのマーケティング担当者以上の専門知識を持っていたのでしょうか?

私の答えは「いいえ」です。もし彼が全ての業界においてクライアント以上の知識を持っていたとすれば、驚異的な知識力を持っていることになります。しかし、実際にはそうではありません。このプランナーが成果を出せた理由は、業界の知識量ではなく、クライアントの課題を深く理解し、リサーチとデータ分析を駆使して、課題の本質を見抜き、解決策を導き出すプロセスを他よりも上手にこなしていたからです。

ここで重要なのは、必要なのは業界の知識よりも、収集した情報をもとに問題を解決するスキルであるという点です。業界知識はリサーチやプロジェクトを通じて得られるため、事前に持っている必要はありません。

知識とスキルを分離する

ここで、冒頭の若者の悩みに戻ります。彼は特定の業界における独創的なマーケティング手法を生み出し、成果を上げましたが、他の業界に挑む際に、そのスキルをうまく転用できないと感じていました。彼はその業界特有の知識と自分のマーケティングスキルを一緒にストックしてしまっていたのです。

知識とスキルをどう分離すればいいのか?その答えは「訓練の量」です。自分のストックしている情報が、特定の業界に限られた知識なのか、汎用的なスキルなのかを整理する訓練を重ねることが大事です。

実践的な方法

最後に、知識とスキルの分離を意識的に行うための方法を紹介します。自分が普段接している業界以外にも目を向け、日常生活で見聞きする広告やマーケティング活動について考える習慣を持つことが有効です。たとえば、SNSのタイムラインを眺める代わりに、最近目にした広告で印象に残ったものについて、その効果を分析してみるのも良いでしょう。

また、過度にパーソナライズされた情報ばかりに触れず、意図的に新しい刺激を取り入れることも重要です。新しい環境で情報をアウトプットする機会を増やすことで、知識とスキルをより明確に区別できるようになるでしょう。

優れた能力を持っていても、このような訓練が不足していると、悩みに直面することがあります。今回紹介した方法を参考に、知識とスキルを整理する訓練を実践してみてください。意外なところで問題解決のヒントが見つかるかもしれません。

【この文章は以下の文章のライトバージョンです。より詳細な議論はこちらでご確認ください】


いいなと思ったら応援しよう!