第3期 絵本探求ゼミ②~コールデコット賞~
第2回絵本探求ゼミ
時代を追ってコールデコット賞受賞作品を探る
コールデコット賞:アメリカ図書館協会が毎年最も優れた絵本を製作した画家に贈る賞。
1938年創設。イギリスの絵本作家ランドルフ・コールデコットの名を冠したアメリカの絵本の最高賞。
コールデコット賞を受賞した作品が日本語に訳されロングセラー絵本として今もなお長く読み継がれている。我が家でも何度も子どもと読んできた絵本だが、初期に受賞されている絵本をとりあげて、絵本の背景を調べてみた。
アメリカの絵本黄金時代
1940年代 アメリカの絵本黄金時代の到来となった。
第2次世界大戦を機に飛躍的な高度成長を遂げるアメリカでは、30年代に基礎がつくられた絵本が大きく花開き、黄金時代を迎えた。イギリスに遅れをとっていたアメリカの絵本は、1940年代に飛躍的に進歩した。
1940年代が絵本の黄金時代となった理由・要因
・低価格での大量カラー印刷を可能にした印刷技術の進歩
・ヨーロッパからの画家の流入
・グラフィックデザインといわゆる芸術絵画の融合
・児童文学評論の定着
・戦後のベビーブーム
・子どもの生活を優先する核家族
・高学歴の親
・質の高い絵本を与えたいという親の意識変化
(参考:『はじめて学ぶ英米絵本史』桂宥子/編著 ミネルヴァ書房2011年)
1942年受賞
『Make Way for Ducklings』
Robert McCloskey (Viking 1941)
『かもさん おとおり』
ロバート・マックロスキー/作・絵
わたなべしげお/訳 福音館書店 1950
インタビュー記事から、精密なデッサンでかもが目の前にいるようにも感じるられることに納得できた。かもの視点で見るボストンの街風景は大胆な構図で描かれ鳥になって空を飛んでいる気持ちになる。ブラウン一色で描かれていて温かみを感じる絵。ストーリーは、かもの巣作りの場所探しから卵を産み育てる様子。街中でヒナを育てる母がもの姿にたくましさを感じ応援したくなる。
我が家の近くの川や池では,毎年春に、かもの子育ての様子を見られる。その度に家族でマックロスキーの『かもさんおとおり』のページを開いている。*かもが空を飛ぶ羽音や水にもぐる音、自転車や自動車にびっくりする音、はしゃぐ声が生命の輝きに満ちて、画面から聞こえてくる(引用)そんな気持ちになる。
絵本の賞が知れ渡っていない中で皆に愛されて、読む人に安心感をもたらした『かもさんおとおり』は、コルデコット賞の意味、価値を十分に世に知らせることになっていったのだと感じた。
2回目のコルデコット賞
ロバート・マックロスキーは、1957年に、大自然の中での時の流れ、娘たちの成長を描いた『すばらしいとき』で、2回目のコルデコット賞を受賞した。
1958年受賞
『Time of wonder』 Robert McCloskey (Viking 1957)
『すばらしいとき』
ロバート・マックロスキー/絵・文
渡辺茂雄/訳 福音館書店1978
この絵本は、大自然の神秘性とともに、自然の流れの中で自然に育まれて成長する娘たちの姿が情緒豊かに描かれ、深い感動を与えてくれる。自然を愛し、家族を愛したマックロスキーだからこそ描けた世界といえます。コルデコット賞の授賞式の際に「私たちは、人類が住むのに適さない環境を作りつつある。機械の機会による機械のための環境をもとめつつある。環境を考慮せずに自然をデザインしている」と痛烈に批判した彼のメッセージが強く伝わってくる。
1943年受賞
『The Little House』 Virginia Lee Burton (Houghton 1942)
『ちいさいおうち』
バージニア・リー・バートン/文・絵
石井桃子/訳
岩波書店 1942
バートンは、ボストンで有名であった彫刻家ジョージ・デメトリオスの下で絵の勉強をした後、1931年に彼と結婚した。バートンの絵の明確さはこの師でもあるデメトリオスの指導を受け続けたことから来ていると言われている。
『ちいさいおうち』でコールデコット賞を受賞した際に、バートンは子どもたちから3つのことを学んだと語った。
①子どもを“見下して”は書いてはいけない。
子どもの観察力の鋭さには一目を置いていて、どんな些細な点もおろそかにしないように誠実に描いた。
②文と絵は完全に関連しあっていなければならない。
バートンの絵本では、文字までがページの中で、絵と対等に存在を主張している。
3子どもは貪欲な知識欲を持っている。楽しい方法であれば学びたくなる。
ミッキー先生の講義から
バートンは、目に見えない時間を目に見えるように絵で表した。
『ちいさいおうち』の見返しは乗り物の歴史を描いている。直線的に時代を表す。
春夏秋冬・生命の循環を曲線で表し、時間を直線で表す、丸と直線を使い分けている。
『せいめいのれきし』では、らせん状の線で命を表す。
らせんのリズムをとってページをめくっていくように読み進めることができる。
日本で出版された
『ちいさいおうち』の版型について
アメリカで出版されたものと大きさが違う理由。同じ版型にすれば、求めやすいと岩波書店から出たシリーズの1冊。
子どもたちのランドセルに入る大きさである。持ち帰ってみんなに読んでもらいたいという思い。紙の無駄が出ない判型。
バートンが目に見えない時代、時間を表現した絵本を、大人になって再び読みかえすことで、時の流れと移り行く風景、自然とともに暮らすことの幸せをあらためて感じることができた。
1954年 受賞
『Madeline’s Rescue』 Ludwig Bemelmans (Viking 1953)
『マドレーヌといぬ』
ルドウィヒ・ベーメルマンス/作・絵 瀬田貞二/訳 福音館書店1973
この絵本の冒頭はこんなふうに始まる。
They leht the house
at half past nine
in rain or shine
the smallest one was Madeline
パリの つたの からんだ
ある ふるい やしきに、
12にんの おんなのこが、くらしていました。
この文の始まりに、娘は、この始まりがすごく好きとよく言っていた。
今日も何かが起こりそうな予感がしてワクワクしていたのだと思う。
オーストリアからアメリカに渡って帰化したベーメルメンスは性差(gender)の見直しを迫るような活発な少女を主人公とする『げんきなマドレーヌ』を1939年に発表する。人気を得てシリーズ化され6冊が発行された。そのうちの2冊目の『マドレーヌといぬ』がコールデコット賞を受賞した。
パリの街路を風景に、寄宿舎に住むマドレーヌと11人の女の子たちと修道女のミス・クラベルが話の主要人物として登場する。
マドレーヌの絵本誕生の最初の芽は、ペールメンスの母が修道院育ちだったこと自身が寮生活での体験が元になっている。『マドレーヌといぬ』では知人の娘さんから聞いたことがヒントになって作ったストーリー。現実の中からマドレーヌたちの姿を見出す力は、ペールメンスの想像力の豊かさから来るのであろう。
チーム3紹介で上がった絵本
1965年に受賞
『Always room for one more』
日本では翻訳されていないが、絵が素敵で出合った。線画でシンプルな絵本。スコットランドの民謡が絵本となっている。
1962年受賞
『Once a mouse』 マーシャ・ブラウン
邦訳が出版社、訳者違いで3冊出ている。
安定して出版し続けることができないかったことが原因で3社からの出版になったのではないか。良い絵本は日本でも読んでもらいたいという意図がある。
1952年受賞
『おおきくなりすぎたくま』リンド・ワード
セピア色一色の濃淡で描かれていて画面全体にあたたかさと親近感を覚える。
2008年受賞
『おとうさんのちず』 ユリ・シュルヴィッツ
実話が元になっている絵本。
コールデコット賞の作品と背景を知って。
私の子どもの頃の本棚にあった本、『ちいさいおうち』 縦書きの絵本だった。
子どもの時、おうちの鮮やかな場面から暗い場面になり、再び緑の丘におうちが建ち鮮やかな場面になり
良かったと思っていた記憶が懐かしい。
絵本題材が家族との生活を大事にしている中で生まれたのであるからこそ、今も長く絵本が生き残り読み継がれているのだと思う。世の中が不安定な中でもささやかな喜びを見出し、幸せな時間になる。今の暮らしにも私たちが必要な心がけであり、そして、絵本がそばにあることで心豊かな暮らしに繋がると思う。
コールデコット賞を受賞した絵本でまだみていない本、原書も読み比べてみたいと思った。