祖母の桐タンス
口が重くて愛想がなくて、遊びに行くと『ひとり花札』をしている背中があった。
家事一切を、お嫁さんである叔母に任せて、自由に暮らしている感じだったから、私たち姉弟をもてなしてくれたのは叔父夫婦だった。
そんな風でも『おばあちゃん』ってだけで何だか好きだった。それが伝わったのか、ときどき、パチンコ景品のチョコレートをもらった。
結婚前はお嬢様で末っ子の一人娘だったそうで、お嫁入り道具に和タンスと整理タンスのセットで桐のタンスがあった。今からだと90年くらい前のことになる。
祖母は、お店を切り盛りして家計を支えたそうだ。祖父は呑気な人だったらしい。
その整理タンスの方を、母の嫁入りの時に持たせてくれた。
ずっと使い続けて実家の和室にあったから、私にとっても思い出の家具になっている。
祖母は私が高校生の頃に亡くなった。
今から数年前に、実家を建て替えた。
父は認知度が進んで施設に入り、店舗兼住まいの建物は古くなり、ところどころ雨漏りがあったり、廃業したお店に場所を取られている住まいを何とかしたかったから。
それと結婚後、一般時な"住居"に暮らしたことがない母に、その暮らしを味わって欲しかったからもある。
私の勝手な思いで、桐のタンスを削り直しに出して新築した実家に置いた。
母の実家の屋根裏にあった和タンスを叔母が譲ってくれ、新築祝いにと削り直し代金も出してくれた。整理タンスの削り出し代金は私のボーナスから。
ここに揃っている桐タンスは、60年ぶりに隣に並んだことになる。
そして私は、黙って座っているだけで存在感があった祖母に、守られている気分でいる。