絵になる美しい街並みを創造する為の粉本/はじめに
(トップページの写真は何れも、いわゆる住宅団地。
浸透している従来のイメージとは大きく異なる街並みが形成されている。)
はじめに
我が国の戦後に構築された街並みは「絵になる」とか、「美しい」とか言える箇所は少ない。それは、街並みを形成する要素である個々の構築物がある意味、極端に画一的だったり、バラバラだったりで、地域や周辺の特性、例えば歴史や風土、景観、色彩、材料、それに重要な構図、等々に配慮無く、言い出せば切りが無いほど無頓着に形成されているからである。
ではどうしたら、絵になる美しい街並みが形成できるのか?
それには温故知新、実際現存する絵になる美しい街並みから学び活かすことに尽きる。
江戸時代の絵師達も画業の修行として、もっぱら師の家に伝来する絵の手本、粉本(ふんぼん)を貸してもらい、それを写す練習を長い年月繰り返し、清書したその摸本の集積を我が物にして、免許皆伝になったらしい。
そんな粉本で有名なのは江戸時代、九州筑前国、狩野派の絵師、林守篤(はやしもりあつ)が18世紀の初めに出版した「画筌(がせん)1721年(1712年自序)」だ。小林宏光著「近世画譜と中国絵画 (上智大学出版、2018)」によれば、この粉本は秘伝の踏襲によって画壇の全国支配を完結していた狩野派にとっては許し難い内部からの暴露本となったが、絵を独学しようとする者には、理論と実技の解説、図様の実例などが懇切に用意された便利なハウ・ツー本として、大いに歓迎され、版を重ねたと紹介されている。
今回、noteに順次掲載する「絵になる美しい街並みを創造する為の粉本」は筆者自身の専門域である集住体に於ける空間デザインの技量向上を図る為に林守篤の「画筌(がせん)」に倣い作成したもの。これまでに尋ね歩き描いた絵になる美しい街並みのスケッチとその街並みの成り立ちを纏めており、その制作プロセスに於いて習熟した成果は奈良市文化賞景観賞、グッドペインティングカラー賞優秀賞を頂いた「奈良紀寺」や土木学デザイン賞を頂いた「キャナルタウンウエスト」等の形成に繋がっている。
なお、この投稿の多くは、雑誌「ニューライフ」や新聞「まど」に掲載して頂いた表題「街並み景観ギャラリー」のスケッチや文章の改編版。当時の掲載誌はモノクロームで、意図が十分伝わらなかったと思われること、また現在は状況が一変、電子書籍での出版も可能になったこと、更には定期的な個別発信であったこと等から、カラー版の粉本として出版を目途に纏め直し中のもの。編集方針とは関係無くアトランダムに掲載している。
読んで会得する景観形成の技法に関わるバイブル的図書としては「都市の景観 (G・カレン著 北原理雄役 鹿島出版会SD選書)」が役立つが、これまでの経験からすれば、実際に現存する絵になる美しい街並を繰り返し描き体得するのが、最も有効だと思える。
この粉本は筆者が実践している構築物をインフィル、スケルトン、アーバンティッシュに分けてデザインし、景観はアーベインティッシュの観点からデザインすると言う考え方によるもの。
一見何の技法も示していない画集のように見えるが、個々の構築物を設計するデザイナーがこの粉本を見て、これから、どうデザインすれば良いのか⁉️を考えるのに役立てば幸いである。
写真:左 奈良・紀寺(奈良市文化賞景観賞、グッドペインティングカラー優秀賞)、右 キャナルタウンウエスト(土木学会デザイン賞優秀賞)