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御相伴衆~Escorts 第三章 Ending  第145話 良きものを知らしめよ ~ 慈朗・柚葉編 エンディング

 気が付くと、僕は、ベッドの上にいた。

「あ、ここは・・・」

    確か、・・・あの時、スメラギの皇宮から、カノトの皇輝号に乗って、逃げ出したんだっけ・・・?

 その後の事は、・・・朧気で、あんまり、覚えていない。

 ここは、どこだろう?
 ・・・皇宮すめらみやではないな・・・
 でも、それより綺麗で、立派な作りの建物のように見える。

「目を覚ましましたか?」

 女官みたいな・・・召使のような人だ。
 ちょっと、聞き取りにくい、訛った話し声だ。
 他の人に何か、伝えている。
 その後、コツコツと、軍靴の音が近づいてきた。

「そうか・・・、きっと、尋問されるんだ」

 国の混乱で生き残った者の中から、反逆者の残党探しなのかもしれない・・・ドアの向こうで、聞き慣れない言葉だ・・・ここは?

「私、スメラギの言葉、少ししか、できません。これから、国王様が来られます」
「あ、待って、ここは、どこ・・・?」

 その召使は、すぐ、ドアを閉めて、出ていってしまった。

 確かに、あの時、スメラギを捨てるように、皇子たちと戦禍の中、逃げ出した。

 素国に侵略され、国毎、則られそうになったその時、僕は、皇子と、辛と協力して、皇宮に火を放った。

「こんな国、と、思ったけど・・・でも、素国に取られるくらいなら、焼き尽くしてしまおう」

 皇子が、そう言ったのだ。

 何か月も前から、仕えていた者に、それぞれ、暇を出した。
 多くの者は、女の人は、例の黒墨の病気になって、辞めていって、その頃はもういなかったので、身の周りをする者を、数名、残した。
 後は、僕たちで、必要なことは、まかなっていた。




 長い歴史の中で、続く悪習が蔓延はびこりつづけた結果、スメラギ皇国では、非道な独裁体制、国民を顧みず、搾取を続ける、上層部の為のヒエラルキーの存在、その中での、国を超えての人身の拉致、中でも、皇宮において、他国の子どもを浚い、慰みものにしていたなど、国際的にも批判を受け続けていた。

 ・・・というのは、大昔の歴史ではなく、ここ、最近までの話だった。

 混乱の中、皇宮に対する不満分子による、内乱となり、国そのものが焼け落ちても、仕方がないと、周囲の国々は受け止めていた。・・・その実、それは、素国の侵攻だった。

 焼け出され、残された各層の国民は、ランサムや、南洋諸島のアユラス、キャンティの難民キャンプに避難していた。




 あれから、どうなったんだろう。
 確か、怪我をしていた筈。
 身体には、殆ど、傷もなく、・・・それより、皇子と、辛は?
 他の部屋に、僕の様にいるのだろうか?

 ドアの外で、話し声がする。
 ノックもなく、慌てたように、誰かが入ってきた。

「失礼します。慈朗シロウ、目を覚ましたのか・・・わかるか?ああ、良かった・・・」

 あ、・・・やっぱり、僕は生きていたんだ。

「あ、・・・辛、無事だったんだね。皇子は?」
「皇子も無事だ、お前が一番、重症だった。国賓室で、丁重な扱いを受けているから、大丈夫だ」

 そうか、さっきの足早な軍靴は、辛のものだった。
 スメラギの空軍大尉の。

「良かった・・・」
「素国も内乱もあり、戦禍に巻きこまれ、王室の方々も、亡くなられた方が多かったそうだ。新国王様が・・・」
「え?・・・ここって、もしかして・・・?」

 辛は、ゆっくりと頷いた。

「戦機の燃料がなくなり、海上に不時着し、その後、素国の掃海艇に助けられた。皇子が、スメラギ皇帝一族だと判明したら、きっと、殺されてしまうだろうと、俺たちは、覚悟していたんだが・・・。覚えてるか・・・?」

 あ・・・、そうだったかもしれない・・・。

「・・・あの時、なんとなく、覚えてる・・・確か、船に引き上げられて・・・」
「不時着の時の怪我で、お前は重症だったから、掃海艇の中で、緊急の手術が施された。あの時、すぐ、手術をして貰えなかったら、お前は、歩けなくなっているか、酷い場合は、脚が腐って死んでいたそうだ。たまたま、掃海艇の中に、腕の良い軍医が乗り合わせていて、お前を援けた」
「そうだったんだ・・・、起きれるかな?・・・よいしょ」
「手を貸す」
「ありがとう、辛、・・ずっと、眠ってたんだね、僕、・・・ああ、フラフラで、立つのは無理だね・・・だけど、痛くもないし、・・・あ、なんか、足、動かしにくい・・・」

 その時、ノックの音ともに、誰かが入ってきた。

「慈朗・・・目を覚ましたんだな。良かった・・・」

 ああ・・・、良かった。ご無事で・・・。

「皇子・・・、耀アカル皇子・・・良かった・・・」
「・・・本当に、目覚めて、良かった、慈朗。お前は、あれから、ひと月以上、眠ったままだったんだ。出血が酷くて、手術の後も、予断が許されない状況だった。まずは、素国の病院の集中治療室に入れられていた。しばらくは、面会謝絶だったから、会えなくて。命の危機を脱した頃、新国王様のご厚情によって、俺を含めて、国賓扱いということで、王宮のゲストルームに、俺たち三人を住まわせてくれることになった。もう、スメラギは実質上、その領土は焼き尽くされた。・・・俺たちは行く所がなくなったから・・・ごめん、お前の顔を見て、ホッとして、色々と喋りまくって・・・」
「よく解った。ここは、素国・・・なんだね?」

 耀皇子と辛は、顔を見合わせ、それぞれ頷いた。

「待ってたんだ。皇子と。お前が目を覚ますのを」

 すると、白衣を着た女性が、部屋に入ってきた。その女性は、耀に、深々と頭を下げた。

「すみません。患者様が、目を覚まされたと聞いてまいりました、診察させてください。皆様は、そちらにかけて、お待ちくださいね」
「あ・・・」
「よく、ここまで、回復されました。良かったですね。私が、貴女の執刀をしました、主治医の彩香サイコウというものです。ご自分のお名前を言ってください。わかりますか?」

 この人・・・そうだ。少し、齢を取ったけど、あの時の・・・。

「慈朗です。苗字は、ありません」
「もう、いいんだよ。家の名前を名乗って、慈朗。皇宮の呪縛は、とっくに、解けてるだろう?それは、僕が、まだ、北にいた頃の悪習の証だから・・・」
「・・・皇子、・・・慈朗には、何か、意図があるようです」
「・・・そうなのか」
「少し、控えておりましょう」

 すると、その女性は、小さな声で、僕に話しかけた。

「そう・・・でしたね。よくぞ、ご無事で。・・・大人になられましたね」

 初めて、皇宮に連れて来られた日に、最初にすがりついた人だった。
 つい、手を伸ばしてしまった。彼女は、僕を抱き留めてくれた。
 ああ、やっぱり、そうだ、この感触・・・

「・・・維羅イラ、なんですね?」

 その時、皇子と辛が、静かに、退室したのを見た。何か、察してくれたのだろう。

「・・・ずっと、会いたかったんです。第二皇妃様のクーデターの時も、避難所に貴女がいなかったから、粛清の対象になってしまったのだと諦めていたんです」
「・・・」

 その時、また、ノックの音がした。皇子たちが戻ってきたのかな・・・。

彩香、患者が目を覚ましたと聞いて、急ぎ・・・
国王様、こちらです。・・・ご回復なされて・・・

 そこには、素国の王族の正装をした、懐かしい所作の・・・その人が立っていた。

「こちらは、素国15代国王 紫颯ズーサ陛下です。国を焼け出された、スメラギ皇族の耀様と側近の貴方たちを、国賓として、保護してくださったのですよ」
「・・・柚葉?・・・柚葉なんだね・・・」

 彼は、慈朗に近づき、頷いた。

「あ・・・そうだった。ずっと、昔、新聞で読んだ。あの時、初めて、柚葉が、素国の王子だったことを知ったんだ」
「・・・『いつか、どこかでまた』と、僕が言ったのを、憶えてますか?慈朗」
「会えた、・・・会えました」

 嬉しかった。大好きな柚葉、大人になって、もっとカッコよくなった。
 僕の方ときたら、あああ、また、こんな感じだったんだな・・・

「貴方に再会した時、また、怪我ばかりではなく、とんでもない状態でしたから、回復に伴って、紫颯陛下の命で、綺麗だった頃の貴方の髪型に戻しました。また、同じように、貴方の身体を洗ったんですよ、ふふふ」
「・・・嬉しそうだな、彩香」
「この患者様の、予後は良好です。国王陛下。なので、私は失礼します」
「あ、・・・維羅」
「あ、それは、あの頃だけの名前ですから、今後は、彩香ツァイシャンとお呼びくださいね。では」

 彩香は、唇に人差し指を立てながら、退室していった。

「・・・じゃあ、柚葉もダメ、だよね。国王様なんだね、すごいね・・・」
「・・・いや、柚葉でいい。・・・慈朗、触れてもいいか?」

 反射的に、身体がビクッと震えた。
 綺麗な彼の指先が、僕の肩に触れて、ベッドに座っていた僕の横に座った。一息ついて、抱き寄せてくれた。

 ずっと、ずっと、欲しかった感覚。震えが止まらない。
 彼は、ゆっくり、僕を抱き締めてくれた。
 しばらく、そうしていたら、身体の震えは、自然と止まっていた。

「懐かしいね。柚葉・・・あれから、一度だけ、スメラギに会いに来てくれたよね。でも、その後は、もう絶対、会えないと思ってたから。クーデターの後、数年で、皇后様が亡くなると、素国の侵攻があって、スメラギは素国の支配下に置かれて、・・・本当に、悲しくなった。柚葉の国が、こんな・・・」
「・・・許してくれるか?もう、俺の国がスメラギに何をしたか、お前には判っている筈だ」
「なんで、じゃあ、皇子と僕たちを援けたの?」

 柚葉は、穏やかに、ゆっくりと微笑んで言った。

「・・・お前がいたから」
「・・・?!・・・」
「お前が、この中にいなかったら、まずは、先代王の手で、スメラギ皇統は絶たれていた筈だ。御付の者が、お前でなかったら、耀皇子も、あの軍族も、もうこの世にはいなかった筈だ」

 僕がいたからって・・・?

「・・・それに、タイミングが良かったんだ。我が国も、混乱の中、先代の王、紫鋼様は、暗殺された。天変地異による、日照り続きの中、農民からの租税を引き上げ、多くの者が、飢えに苦しみ、亡くなった。このことを皮切りに、その他の悪政が露呈し、かねてより、王のやり方に不満を持っていた軍が、民衆の背を押され、王の粛清に動いたんだ。俺は、その実、王室の末端で、王位など、生きている間に回っては来ないと思っていたが。もう、こんなのまっぴらだ、と思っていた矢先、新勢力が、・・・紫統シトウ様が、俺を新王にと、担ぎ出した。それで、こうなった」
「すごい、やっぱり、柚葉は、そうなるべき人だったんだよ」

 柚葉は、一度、驚いた顔になり、それから、首を捻った。

「さあ・・・でも、ならば、好きなようにさせて貰おうと思った。だから、皇子には悪いが、親友がいたから、その子と、その友達を援けた、だけなんだけどね・・・」
「いずれにしても、理由がどうであれ、敵国の皇子と、兵士を、・・・僕の親友を助けてくれて、ありがとうございます。そして、僕はまた、維羅に助けてもらって、それで、柚葉に会えたから。柚葉とも親友、・・・なのかもしれないけど、今では、耀皇子と、辛は大切な親友だから」
「・・・だから、あの時、何度も、素国に来ないか、と誘ったのに・・・そしたら、こんな苦労せずに、過ごせただろうに・・・」

 なんだろう、柚葉。やっぱり、王様になると、そうなのかな?

「・・・うーん、でも、なんか、親友、っていうのが、引っかかるんだけどな・・・」
「あの後の動乱の中、また、お前はおとしめられて、められて、・・・本当に悪かった。お前を、そうさせたのは、俺だ。俺の為に、お前は、耀皇子を、一度は、裏切ったのだからな」

 そんなことより・・・。

「ねえ、柚葉、僕は、ただの親友なの?」
「・・・慈朗?・・・お前は、俺を責めないのか?」
「終わった事を、ずっと、言ってるなんて、柚葉らしくないよ」
「・・・慈朗、お前、変わらないな」
「うん、だから、聞いてんの・・・僕にとって、柚葉は、あの愉しかった頃のままだから」
「・・・」
「多分、この後、柚葉は、僕にまた、『素国に残らないか』と言うんでしょう?」
「・・・参ったな・・・」
「なんで、その前に、僕の質問に、応えないの?」

 その言葉を受けて、柚葉は、僕を抱き締めてくれた。昔みたいに。
 大好きな柚葉の全てに、酔いそうになるのを堪えながら、僕は、伝えた。

「スメラギに帰って、皇子を支えて、辛と一緒に、新しい国を作ります。その時には、素国王様、どうか、お力添えを」
「そうか・・・」
「だから、遊びに来ても、いいですか?」

 柚葉は、ホッとした表情で、慈朗を見つめた。

「ああ、いいよ、勿論・・・お前、随分、強くなったな」
「仕方ないよ。僕が、耀皇子を守らないとダメだから」
「じゃあ、お前が護り切れなかったら、俺がお前たちを護る」
「学校の時と一緒だね・・・」
「そうだな。・・・随分経ったけど、お前、本当に、昔のまま・・・会いたかった」
「・・・本当に、変わんないね、柚葉も・・・あ、・・・ん」

 何年ぶりかの、最愛の人とのキス。

「・・・はい、お終い。続きは、復興を頑張ってからのご褒美にしようと思ってるの」
「解った・・・、それなら、時期が早まるように、素国王は、新しい皇宮と、スメラギ新政府に協力する・・・クスクス」

 なんか、嘘みたいに、そのまんま・・・。

「王様の癖に、柚葉は変わらない。また、動機が自分勝手だ」
「いいだろう。・・・結果、皆が幸せになれば、いいのですから」
「あ、敬語の柚葉だ・・・」
「では、今後のことについては、いつでも、相談に来てほしいと、耀皇子と、軍人の彼にも伝えてくれ」
「ありがとう」

 一度、立ち去ろうとした柚葉は、踵を返して、僕に素早く近づき、耳打ちした。

「・・・ただ、の親友のわけないだろう。・・・馬鹿だなあ」
「うん、何も変わってないの、さっきので、わかった」

 その後、柚葉は、僕の頬を少し抓んで、頭をポンと軽く小突いた。
 そして、最後に、素の国王、紫颯様は、僕に最敬礼して、部屋を出て行かれた。


「これからは、僕らの時代だ。手伝ってくれるな、慈朗?」

 入れ替わりに、耀皇子と、辛が入ってきた。

「うん、勿論」

 見られてたのかな?ドア、閉まった音、しなかった気がして、気になるけど。

 耀皇子と、辛が、目配せしてる。バレたかな?・・・まあ、いいや。




 第7代スメラギ皇帝 耀帝 が、新しく皇宮を立て、新スメラギ皇国を立国するのは、この約三年後の話となる。

 隣国の大国である素国と、西のランサム王国、そして、かつては、国交を断絶していた東国とも交流を復活し、それらの国の協力を得て、復興と、新国家樹立は進められた。

 その後、新皇帝が、皇后を東国の民間から迎え、世界を驚かせることとなるが、それはまた、別の話となる。

 その後、各国、新時代を迎え、若き王たちの治める、この、スメラギ皇国、素国、ランサム王国と、東国の、4つの国の間には、平和協定が結ばれ、各国の人権を尊重し、人種差別なく、戦争のない世界を築いた。

 それぞれの国の国民同志も、互いに尊重しあい、協調し、交流できるようになり、国際社会の手本と言ってもいいような、時代を迎えつつあった。

 そして、世界は、厄災クライシスをも、回避することができたのである。

 この後、第15代素国王である紫颯王は、素国の古い慣習と圧政を見直し、新しい時代の国へとすべく、刷新に邁進する。

 かつて、その祖父が名を残したように、ナバリ慈朗は、スメラギを代表する画家となり、写真家となった。一方で、皇帝を助け、世界中の、全ての子どもたちが、平等に教育を受ける機会が与えられるようにと、沢山の学校の設立に寄与したという。


御相伴衆「良きものを知らしめよ」
 慈朗・柚葉 エンディング 完



 御相伴衆~Escorts 第三章 Ending  
    第145話 良きものを知らしめよ ~ 慈朗・柚葉 エンディング

 お読み頂きまして、ありがとうございます。
 エンディングの1番目は、慈朗と柚葉のお話でした。

 ナレーションで、全てが整ったように見えますが、この間も、それぞれのキャラクターたちは、相当、大変な事だったと思います。

 次回のエンディングは、その三年後の時点でのお話となる予定です。
 さて、誰のエンディングとなりますか、お楽しみになさってください。
 

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