御相伴衆~Escorts 第一章 第九十四話特別編「隣国の王女~白百合を摘みに⑥」
⚔🎀 ※「太文字」は異国の言葉で話しています。
東屋は、本当に大切な時のものであって・・・でも、まあ、ここを乗り切る為には、致し方ないだろうな・・・。桐藤は、紫杏姫の手を引き、そこまで、やってきた。
「わあ、綺麗、素国の王宮の御庭は、もっと大きいのだけれど、可愛くて素敵ですね」
「そうですか。気に入って頂ければ、嬉しいです」
「座っても、よろしいの?」
「はい、どうぞ」
桐藤は、ちょっと、考えた。何故、この時期に、皇宮に来られたのかを、この際、ぶっちゃけて、聞いてみてはどうか、とも思っていた。
「紫杏姫様、ランサムの王太子とは、何度もお会いになられたのですか?」
「んー、何回か、・・・お見かけして、一度、お声がけして頂いたの、うふふ」
なんだ、やはり、その程度か。
「そうでしたか。お元気でしたか?王太子は?」
「ご面識があるの?桐藤も」
「ええ、遊びに来て頂いて、お会いしておりますから」
「へえ・・・いいなあ。そうなのね」
なんとなく、態度が軟化したな。その、変な意味ではなくて、素直な年相応の、三の姫みたいな感じだが・・・
「それで、この時期に、突然、こちらに来られたのは、何か、意味があるのでしょうか?」
「・・・うーん、私、お兄様が心配なの、同じ風に、伯母様から言われてきて」
「何をですか?」
「信じたくないけど・・・お兄様は、男の人が好きだからって」
「え・・・あ・・・」
え?柚葉、お前、本国にバレバレなのか・・・っていうか、まあ、紫統大佐の存在で、そうなのだろうけど・・・
「恋人探しをしてきてって」
「・・・本当ですか?だったら、ご安心ください。二の姫様が恋人ですからね」
「本当に?桐藤は違うの?綺麗な男の人だから、アーギュ王太子みたいに」
「違いますよ・・・綺麗とか、言われたことはないですし」
「でも、恋人がいないのね、桐藤は」
「ああ、まあ、・・・お役目一番で、そういうことは、もっと、先かも、しれませんね」
そんなことを言っていた、皇宮の職員がいたな、彼の真似をしよう。
「アーギュ王子が、女美架姫様のものだったら、紫杏は、桐藤がいいな」
「そんな、とんでもございません。身分が違います」
「御内相にはなれますね」
「え?」
ああ、それって、こっちでいう所の「ご指南役」つまりは、三の姫の数馬みたいなことか。
「御内相は、結婚までの練習で、恋人にもなれるからって」
ああ、そうだったのか。まだだったんだ。はあ・・・良かった。
・・・って、さっき、アーギュ王子と、三の姫のこと、あっさり、決めつけてるな。情報って、どうなってるんだろうか?
でも、その心算の方がいいかもしれない。ここにいる間に、三の姫が苛まれないようにしないと・・・。今日は、こんな感じで、明日は、数馬が、芸を見せてくれる。気が紛れてくれるかもしれない。
「桐藤は、誰に仕えているの?」
「あ、私は、誰と言うよりかは、なんというか、皆様の勉強とか、学校の付き添いとか、そのようなお役でございますから・・・」
「じゃあ、皇妃様にお願いしたら、素国に来て貰えるかしら?」
「え?それは、ちょっと・・・」
「来て頂いたら、一回分の高官接待は、なくていいのではないかしら?そちらの言い値で石油の価格を決めて頂いても、紫統の伯父様にも、御願いするわ。私」
え、・・・ということは・・・、多分、柚葉が、ここに来たのと同じ条件付けだ。
というか、素国というのは、なんて国なんだろうか。
・・・こんな三の姫ぐらいの歳の姫までが、そのような価値づけを持っているとは・・・とんでもない国だ、やはり・・・。
アーギュ王子と三の姫の噂は、ある程度、決定の方向に向かわせている為もあって、非公式でも、噂は流れていくものでもあるのだろうが・・・。
ある意味、外交としては、この流れ、良い感じではない。
マイナスのパブリシティといった感じになるのではないか?
「いえ、それは、第二皇妃様がお許しにならないと思いますが、大変、申し訳ございません。私は、皇宮全体の仕事で、全ての方と関わっておりますから、抜けるわけには参りません」
「素国は、お兄様を、お貸ししてるのに?」
「そんな言い方をなさっては、柚葉殿に失礼です。そのように思ったことはございません。柚葉殿とは、そう、幼い頃から、立場が似ていて、一緒に、姫様と遊んだり、学んだりはしてきました。同時に、素国からの大切なゲストと思っておりますから。物のように、貸し借りだなんて・・・」
「そのように聞いてきたわ。だから、伯母様が嘆いて、しかも、男の恋人がいるかもしれないって、不安になられてるのよ。国に還っても、お妃も迎えずに、王統がどうなってしまうのか、って、ご心配されてらして・・・」
「そのようなことで、こちらにいらしたのですね?今回は・・・」
「まあ、桐藤だから、お話しますけど、・・・そうなんです」
「それなら、大丈夫でしょう。ご覧になりましたよね?第二皇女美加璃様と、あのように仲良くしていらっしゃいますから」
「うーん・・・」
「解りました。何か、証になるようなことが解れば、よろしいのですね」
「うん、・・・本当はね、私、お兄様に憧れてて、だから、スメラギに行ってしまうの、嫌だったの。エレメンタルの時に、急に決まってしまって。今回、お会いしたら、素敵な方がお二人と思って、やっぱり、一人は大きくなられたお兄様で、一人は桐藤、貴方だったわ。もう一人は、とても可愛くて、私にしてみると、彼と三の姫様は、ライバルなの」
「彼」とは、慈朗のことか。・・・成程。
だから、何となく、空港から、慈朗と三の姫様に冷たかったのは・・・。
慈朗と三の姫は、空港から同じような扱いに・・・ん?・・・ライバルって。・・・なかなか、鋭いのかもしれないな・・・本当に、慈朗を外しておいてよかったのかもしれない・・・。
桐藤は、紫杏姫の話から、色々と思い巡らす。
この姫は、そう悪巧みをするタイプでなく、やはり、姫独特の我儘な性格なだけなのかもしれない。解り易さは、二の姫で、感覚の幼さは、やはり、三の姫と同じようなレベルなのかもしれない。
「あの男の子は、きっと、モテるから、どっかで見た天使の絵みたいだったから・・・」
「そうみえるんですね?姫には」
「そう、あの子みたいな感じが本気出したら、お兄様、危ないと思う」
あー、もう、充分そうなんだけど・・・。
まあ、俺には、よく解らないが、良い勘してるということなのだろうな、本当に、慈朗に隠れていて貰って良かった。
「でも、柚葉殿には、二の姫様ですから、ご心配なさらないでください」
紫杏姫は、しばらく、下を向いている。
「違うの、だから、アーギュ王子だって、桐藤だって、いいんだけど」
あ、泣き出した。結局、この子は、柚葉が好きなんだ。
会いに来て、事実を、目の当たりにしたということなんだろうな。
「ハンカチをどうぞ、お使いください」
「ありがとう。やっぱり、桐藤、優しい。お兄様の代わりに、素国に来て」
「ああ、それは本当に、申し訳ございませんが、難しいですね」
「・・・嫌いなの」
「え?」
「決められた方が嫌なの」
「御内相の方?」
「うん、・・・お兄様の真実を聞いて来たら、伯母様が考えて、お口添えして下さる、って言って下さって・・・」
「・・・そうですか。でも、柚葉殿の真実は、二の姫様なのですから、それをご報告なさったら、いいのではないでしょうか?このお話は、私から、柚葉殿にしてもいいですか?なんなら、彼から、素国王室側に掛け合ってもらえば、とも思いますが、動いて頂けると思いますよ。彼なら、紫統様にお願いすることもできるかしもしれませんし」
「・・・んー」
そういうことか。
嫌いな人が嫌なのは、誰でもそうだからな。
まずは、柚葉がその痛みはよく解ってる筈だし・・・その点、俺は、恵まれてるんだ。
上手くいく所ばかりではないというのは、常だからな、こういうことは。
恐らく、素国は、王族の人数も多く、御内相が兼務という話も、密かに聞く。とんでもない話だが、有りがちな話だ。
それこそ、数馬のような立場となるのだな。
時期を開けずとして、皇妃と皇女の相手をするなんて、ざらな話なのだろうから。
いずれにしても、柚葉とこの姫は、血縁でも近く、できない間柄だから、仕方ないとして・・・。
桐藤は、紫杏姫を宥めながら、そのようなことを、思い巡らしていた。そして、本当に、柚葉にプッシュしてもらえば、何とかなりそうだ、と思い始めていた。
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維羅も、この辺りの素国王室の内情は掴んでいて、紫杏姫の意図も読めていた。まあ、慈朗が、柚葉の恋人だと素国側にバレたとしても、その実、なんてことはない。よくある話だからだ。紫統を始め、なんなら、帰国時に、妻の二の姫と、愛妾の慈朗を連れ帰っても良しとするぐらいだ。そのように、王統を紡ぐ責任を負う条件を、整えてさえいればいいのだから。
しかし、柚葉の母の紫音妃や、紫杏姫の思惑と別の所で、皇宮内が掻き回される可能性は、維羅も感じていた。
そう、バレたらまずいのは、当局側、二の姫の耳に入ることだった。
なのに、皇妃から、他のメンバーは皆、そのことを知っている。一の姫を覗いては。
あの三の姫まで、知っていて、黙らせているのだ。
女官の暁、月までが、二人のことを暗黙の了解として、外に漏らしてもいない。ある意味、柚葉の存在が大切にされてる、ということも言える。
妙な形だが、スメラギ皇宮では、柚葉は上手いことやっている、という評価になるのだろう・・・そう、維羅は思っていた。
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「では、後程、お部屋に、ご案内致します。女官の方と、ごゆっくりしてください。お疲れでしょう?気が張ってらしたように、お見受けします」
「ありがとう。桐藤は、本当に優しいのね。皇子だったら、お隣の国だから、お嫁に来たかったわ。それにお兄様もいるから」
「・・・私は、皇子ではないのですし、柚葉殿もお身内で・・・でも、他の国の王子とのお話が、素国にもきっと、たくさんありましょうし」
「お姉様達が先ですから。お姉様達、順番に、アーギュ王子にお会いしてるんだけど、皆、お断りされてしまって・・・沢山、褒めてくださって、愉しいデートなんだけど、結果は、皆、そうなってしまうみたい・・・」
あー、成程・・・。
競争率の高い中で、三の姫はよくやったものだ・・・、流石、スメラギの姫は違う。・・・しかしながら、一の姫がご病弱で良かった・・・
そう、ついぞ、桐藤は思ってしまう。
・・・姫達の顔を思い浮かべながら、そこに紫杏姫を並べる。
なんてことはない。皆、同じ一国の姫であり、幸せになる権利はある。
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その夜は、小さな食事会が開かれ、紫杏姫は、桐藤と並び、二の姫と柚葉と、対面で食事をした。リクエストで、ランサムのコース料理となった。桐藤は、柚葉に二の姫と、普通にこれまで通り、仲良く振る舞うように指示をして、会話は自分がリードするようにし、事無きを得て、その場を収めた。
この時、三の姫は、少し体調を崩したという理由で、同席はしなかった。
片や、その裏では、慈朗が、一の姫の部屋で、夕食を共にしていた。
不思議な組み合わせな感じだったが、一の姫にとっても、桐藤以外の御相伴衆と、良い意味での交流ができたようである。
実は、そこに、遅ればせながら、紫杏姫との席を遠慮した、三の姫が加わった。
三の姫は、数馬がそこにいないか、少し期待していたが、不在だったのに、ホッとしたような、残念な複雑な気持ちになった。しかし、一の姫と慈朗がいることで、優しい二人と楽しい時間を過ごすことができた。
そうだったわ。一のお姉様は、今日の事をご存知ないから、ご心配をおかけしてはいけないから・・・。
そうして、三の姫も、笑顔で、その席で過ごすことができた。
その晩、御相伴衆は、一同、柚葉の部屋に、集まることとなった。
~隣国の王女⑦につづく
御相伴衆~Escorts 第一章 第九十四話 隣国の王女~白百合を摘みに⑥
お読み頂きまして、ありがとうございます。
桐藤の機転というか、冷静な判断で、紫杏姫の本音を聞き出すことができました。
これにて、この日は事なきを得ましたが・・・。
このお話も、後半に入ります。
どうなりますやら、お楽しみに。
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