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御相伴衆~Escorts 第一章 第105話 暗躍の行方10~仮初の花嫁③

 4日目は、ゆっくりと、市井での買い物で過ごし、5日目は、ラウラタウンにて、観劇をする、アーギュ王子と女美架メミカ姫だった。

 5日目の観劇は、東国で流行りの月城歌劇団(ルナキャッスル)の公演「伽産物語monogamy第一章」だった。畸神譚きしんたん太祖神の物語を見る。

   一人の巫女姫 波が、日女族の長、陽向ヒナタと、月鬼ゲッキ族の首魁 凪との間で心を揺らす。陽向との結婚式を控えながら、偶然、月見が池で出会ってしまった、凪と結ばれてしまう。結果、惟月島の均衡が崩れ、終末が訪れる。生き残った三人が、新しい国を産む役割を担う。その為の双子の子を、波は宿すことになる。一日にして、二人と婚った波の二人の子は、陽向の子のフジマキと、凪の子のミズキの二人となり、未来に飛び、先々での、伽産を支える元となる。

「惟月島畸神譚のあらまし」
羽奈賀萩著より

 不思議に、女美架姫は、この話の内容に、不安を覚えていた。
 正直に、アーギュ王子に、それを伝えた。
 気にしないようにと、王子は姫に声を掛けた。

「子どもができたら、とても、嬉しいですね」

 女美架姫は、アーギュ王子に微笑んで、頷いた。


🏰

 夜半、いつものように、睦み合う二人の寝所の隣の部屋に、一報が齎される。例の携帯に連絡が入ったのだ。

 アカツキが電話を取り、尋ねる。手の震えが止まらない。

「ロイヤルベリーは?」
在庫切れにつき、ワイルドベリーで対処します
「・・・はい」

 ジェイスが、急ぎ、携帯電話を変わり、廊下に出る。

 そして、ジェイスは、連絡役の言葉を聴いた。

皇帝陛下が、毒殺されました
「身の安全を確保して、そのまま待機、混乱の中ではあるが、保身の上、人々を援けよ」

 走り出すジェイス。まずは、アーギュ王子の所へ。

 この時、ほぼ同時に、その場に居合わせたカノトに、命令の電話が鳴っていた。

皇帝暗殺のクーデターが発生した。直ちに、第三皇女女美架様を、ランサムより奪還し、北の古宮へお連れしろ
「・・・暗殺?どういうことですか?」
ハナブサ少尉、命令だ。質問は許さん。首謀者は、イグル派の一派だ。君のお父上も捉えられている

 辛が、隣の部屋に駆け付けると、暁が、震えている。

「姉上、皇帝陛下が暗殺されました。イグル派が首謀者だと・・・」
「辛、あああ」
「お姉様、しっかりしてください。たった今、私の所にも、三の姫様の奪還命令が出ました」
「・・・奪還?どうして、・・・?」
「解りませんが、首謀者が、イグル派と言われ、お父上も囚われています」
「そんな・・・」

 ジェイスは、携帯電話で、アーギュ王子を廊下に呼び出す。
 その頃には、廊下の向こうの方から、国務大臣など、政府関係者が、取り急ぎ、集まってきた。

「何やら、騒がしいようですね・・・女美架、念の為、ガウンを着て、暁殿の所へいらしてください」
「・・・はい」

 予測はしていたが、ついに、その時が来たのか・・・

 王子は、ガウンを着て、ジェイスのいる廊下に出る。 

 この段階で、何故か、全ての動きが、一度に発生し、動き出していることが、アーギュ王子には理解できた。

「アーギュ王子、スメラギ第三皇女様を、直ちに、国にお返し頂きたい。正式に『奪還』という言葉で、スメラギから、要求されています」
「王子、報道陣が、押し寄せています」

 驚く程に、物事の発端から、情報が周囲に流れるのが、早かった。

 ドアの向こうの廊下で、何人かの者たちの大きな声が響いていた。
 ランサム語で、言葉は解らなかったが、ただならぬ様子に、女美架姫は、アーギュ王子の指示通り、急いで、ガウンを着て、隣の暁の部屋に行く。

「姫様・・・落ち着いて聞いてください。お父上が、・・・皇帝陛下が、暗殺されました」
「・・・どうして?・・・誰が、そんなこと・・・」
「まずは、お着替え致しましょう。人前に出られるお姿に」

 その時、気遣い、部屋を出ようとした、辛の携帯がなる。

「30分以内に、姫とお付の者を伴って、出国させろ。さもなくば、君のお父上、英中将の立場、いや、命はどうなるか、わからない。首謀者の一角と目されている以上、ここで逆らったら、どうなるか、わかるな」
「・・・わかりました。準備に時間がかかるかもしれませんが」
「即刻だ」

 辛は、女美架と暁に、それを告げた。神妙な表情だった。

「上からの命令で、姫の奪還が、指示されています」
「奪還?」
「・・・父上が・・・それと、流美和ルビワが・・・」
「辛・・・」

 アーギュ王子は、廊下で、あっという間に、側近や政府関係者に囲まれてしまっていた。

「一先ず、準備をする。ジェイス」
「はい」
「王子、姫を出国させ、会見を開かれるしか、道はありません」
「このような状態のスメラギとの婚姻を、成立させるわけには参りません」「方々、少し、お待ちください。王子に身支度をして頂きますので」

 ジェイスは、王子を政府関係者から、逃す。

「・・・やられましたね。これだけ、事前情報を掴んでいたのに・・・。物事を起こすと同時に、世界に情報を発信したんです。恐らく、バックは素国。スメラギは・・・、とにかく、身支度をなさってください」 

 廊下から自室へ、アーギュ王子は急ぐ。
 その時、既に、その隣の部屋で、女美架姫は、荷造りを始めていた。

「女美架・・・」
「王子、私、スメラギに、戻ります」
「しかし」
「さっき、辛の婚約者の方が、拉致されたんです」
「・・・どういうことだ?」
「細かいことを話していられません。暁のお父様と、それに、辛は婚約者を人質にされています。女美架が帰れば、済むんです」
「待て、これは・・・」
「国の人たちが困っているのに、女美架だけ、ランサムで過ごすわけには、まいりません」

 辛の先程の電話には、続きがあった。
 既に拉致されていた、辛の婚約者の流美和が、苛まれている音声が流されてきていた。

「・・・しかし・・・」
「辛・・・」

 はなぶさ姉弟は、判断に迷う。
 自分たちの為に、女美架を混乱のスメラギに帰すことが、正しいとは思えない。

「帰ります。暁、準備を、辛も、飛行機の準備をしてください」

 その時、廊下で、部屋のドア前にいる、ジェイスが叫ぶ声が響いた。

「報道が入ってきます。政府関係者が止めている所でありますが、王子の会見を求めています」

 その声を聴いて、アーギュ王子は急ぎ、身支度を整えた。
 その時、丁度、国王と、王妃が、慌ただしい様子で、部屋に現れた。

国王「一先ず、姫は国にお返しする」
妃「いいですか。アルゴス、今は無理です。この為に、恐らく、女美架様の財産を、こちらに預ける算段になっていたのでしょう。これは、ランサムで責任を持って、お預かり致しますから、姫様方、早く、行ってください」
王子「・・・女美架、必ず、迎えに行く」
姫「はい、姫なら、大丈夫。国にかえるのですから」
ジェイス「暁様、携帯電話が通じる間だけでも、ご連絡ください。恐らく、送られる場所は、多分・・・」
辛「北の古宮と・・・」
ジェイス「なんと・・・やはり・・・あの場所は・・・環境は、解っています。電波が通じないのですよね。必ず、王子とお迎えに上がりますから、・・・辛殿、何をぼさっとされている?早く、戦機の準備を」
辛「はい、・・・姫様、姉上、参りましょう」
暁「急いで、荷造りを完了させます」
姫「北なら、雪がある所だわ。寒い所ですから、姫のコートあげますから、暁に。行きましょう。あ・・・、箱、写真と絵の」
暁「持ちましたよ」
辛「では、参ります」

 一行は走り出した。彼らのいた部屋のドアを出た廊下は、人払いをされていた。辛の誘導で、急ぎ、施設の空港に出る。

 上空には、何故か、既に、ヘリコプターが数台飛んでいる。気づいた市井の人々が夜半ながら、王宮前広場に集まり始めた。

 きっと、スメラギと素国の首謀者たちは、テレビに見入っているのだろう。ライブの映像で、戦機の出立が流される。

 10分の間に、準備をし、姫と暁は、辛の操縦する戦機で、ランサムを出国することとなった。

 当局側は、出国の確認に、公のメディアを使っているのだ。
 恐らく、辛の婚約者の流美和の側で、暁の父の英中将の側で。

 報道陣が城内の廊下に堰を切ったようになだれ込んできた。
 憤りを隠せないアーギュの表情を、カメラは捉える。
 それに足止めを喰らい、女美架たちを見送ることができない。
 国王の一声にて、その場での囲みの会見が始まった。

「この度のスメラギ皇国のクーデターにより、我が国の第一王子アーギュ・アルゴス・ランサムと、スメラギ皇国、第三皇女女美架様のご縁組みのお話は、一旦、見送りという形となりました」
「詳細が不明な為、お伝えできる事は、ここまでとなります」

 カメラとマイクは、アーギュ王子を追いかけてくる。
 この為、女美架姫の出国の瞬間を見送ることもできなかった。

「後程、きちんとした場で、皆様にお伝え致します。今は、国王陛下のご発言の通りです。失礼します」
「申し訳ございません。こちらと致しましても、まだ、はっきりした情報が解りません。ひとまず、緊急の対応とさせて頂きます。また、会見の場を開きますので、本日は、これでご容赦頂きたいと存じます」

 王子の背を押し、ジェイスが、私室に押し込み、部屋を施錠した。
 しばらく、激しいノックの音が続いていたが、小一時間もした所で、一度引き上げるように、政府からの抑止がかけられ、報道陣は、一度、引き返していった。どうやら、これにも、手引きをした者がいたようだ。

 アーギュは、これまで、味わったことのない屈辱と、自分の無力さを感じていた。

「王子・・・」
「連絡と、報道が何故、同時なんだ?」
「・・・それと、辛殿への奪還命令も、ほぼ同時でした」
「かなり、仕組まれていたということだな・・・出来たことと言えば、女美架の財産を守り、預かったことぐらいだ・・・」

 その時、ジェイスの携帯がなる。

「あ、はい、手を回したのに?もう、もぬけの殻と・・・そんな・・・」
「・・・どうした?」
「オーギュストで、合宿中の第二皇女美加璃様も、既に、スメラギの手の者に連れ去られた後だそうです・・・」
「なんて事だ、・・・何一つ守れず、何が、王子だ・・・」

 ジェイスは、アーギュ王子の背に手を添え、まずは、椅子に掛けるように勧めた。

「とにかく、落ち着きましょう。まず、最善の手を打ったと思ってください。いいですか?貴方は、ランサムの王太子です。まず、国のことを、お考え下さい」
「亡命でも、何でも、女美架と、美加璃様を、国で保護することは、できなかったのか?」
「女美架様が、何故、お帰りになられたか、解らないのですか?女美架様も、スメラギの皇女として、苛まれている国民を守って、お帰りになられたのです」
「・・・」
「ましてや、クーデターです。お父様が暗殺されたことは解っておられて、姫ご自身が、北の古宮へ幽閉ということは、第二皇妃擁立のイグル派が首謀だという意味です。これを護って、通したら、ランサムは、国際社会から、どのように思われるでしょうか?」
「父皇帝が殺されたのに?母の所為だというのか?女美架だって、どんな目に遭わされるか、わからない・・・」
「今は、わかりません。でも、今は、最小限に、騒ぎを広めることなく、まずは、ランサムができる、最善を尽くさなければなりません。その為には、今は、堪えなければなりません。できない堪忍をするしかないのです。国際社会で、発言できる立場を保たなければ、姫様たちをお救いすることもできないのですよ」
「・・・何が、王子だ。何一つできずに、姫一人も守れずに・・・」




 この未明、スメラギ皇国第六代皇帝 不羅仁フラジンが、暗殺された。毒殺だった。第二皇妃の派閥である、イグル派のトップが、この暗殺の首謀者と発覚した。第一皇女柳羅リュウラとの婚姻より、子どもの頃から、第二皇妃に育てられた桐藤キリトを擁立し、次期皇帝の座を狙ったものであったとされる。

 第二皇妃の娘にあたる、第二皇女 美加璃ミカリ、第三皇女 女美架に関しては、父皇帝の血を継ぐ、正当な血筋の皇女であり、今回の件とは、無関係であることも判明した為、北の古宮に幽閉されることとなった。第一皇女 柳羅も、桐藤との関係はあったにせよ、策略に加担していないとのことで、皇統を鑑み、同様に北の古宮に幽閉という扱いとなった。

 ちなみに、この時、第二皇女 美加璃は、ランサム大学に留学中、第三皇女 女美架は、ランサム王太子である、アーギュ・アルゴスとの婚約に向けてのお忍びの来藍中のことだった。

 ランサム国王、及び、アルゴス王太子は、亡命という形で、姫たちを庇護しようとしたが、世論がそれを許さなかった。また、素国と東国からも、今回、第二皇妃の命での各国の子どもたちの拉致などの蛮行が、発覚したことに対する、遺憾の声明が出され、第二皇女、第三皇女だけを、そのように庇護するのは、国際的にも、相応しくないとされ、二人の姫は、スメラギに戻されるのは当然、との認識が持たれた。

・・・

 アーギュは、女美架とのことを諦めていなかった。
 ひと月も経たない内に、お付のジェイスと共に、ランサム王国を出奔した。公人の立場を捨て、女美架たちを北の古宮に助けに行こうと考えての行動だった。


~次回、皇帝暗殺編につづく


御相伴衆~Escorts 第一章 第105話 暗躍の行方10~仮初の花嫁③

 お読み頂きましてありがとうございます。

 「僕らは大きな嘘をつく

 このお話をスタートさせた時のキャッチフレーズでした。
 それぞれが、その心に嘘を積み重ねてきました。
 与えられた場で生きていくことは、
 自分を騙して、胡麻化していかなければ、生きていけなかったと。

 第一章のクライマックスが、次回より展開していきます。
 さて、今後、このままnoteが読める状態だといいなと思います。
 色々なことを含めて、お楽しみになさってください。
 

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