御相伴衆~Escorts 第一章 隣国の王子編 第七十話 姫の告白
「姫・・・!」
「姫、大丈夫?!」
飛行機が見えなくなった途端に、三の姫女美架は、立ち眩み、しゃがみ込んでしまった。柚葉と慈朗が、慌てて、傍に駆け寄った。
「だいぶ、緊張されたのですね。強行軍でしたしね」
「クッキー、頑張ったから、あんまり、寝てないね」
「大丈夫、やっぱし、緊張して、疲れたみたいだから」
「帰ったら、ゆっくり、お休みください」
「そうだね。さあ、車に乗って・・・えーと」
その時、三の姫は立ち止まった。
「我儘、言ってもいい?」
「どうぞ」
「後ろに、慈朗と乗りたい」
柚葉と慈朗は、顔を見合わせ、その後、納得した表情で、柚葉が頷き、後部座席のドアを開けた。
三の姫が乗り込むと、慌てて、慈朗が続いて乗り込んだ。
何故か、柚葉が、それを負ってきた。確認の為らしい。
「わかりました。ついでに、シャッター、要りますか?」
「シャッター?」
「ここね、閉まるんだよ」
「ああ、そうみたい・・・女美架は、やったことないけど・・・」
「はいはい、わかりました・・・僕は、前ですね。いいですよ・・・もし、泣いたら、上手く慰めてやってよ、慈朗」
柚葉は、そのように、慈朗に耳打ちすると、一度、車を降り、助手席に乗り込み、運転士の渦に目配せをした。
「ああ、柚葉坊ちゃん、もういいですから。サービスですよ」
すると、シャッターが下り、三の姫と慈朗は二人きりとなった。
車が動き出した。
🎨🍓
しばらく、三の姫は、黙ったままでいた。窓側に、顔が向いているので、眠ってしまったのかな、と、慈朗は思った。しかし、窓硝子に映った姿で、三の姫が起きているのが解った。
「三の姫様、お疲れ様でした。クッキー、すごい、美味しくて、僕の分、籠いっぱい頂いて、ありがとう。ずっと、食べられるね。あれだったら」「・・・」
「あの、僕のラッピング、おかしくなかったかな?」
「・・・あ、うん、王子が褒めてたよ。慈朗のこと、芸術家って、そんな風なこと、言ってたよ」
「ああ、よかったあ」
顔の向きは、外を見たままだった。声は、明るい感じだけど、三の姫が、少し、無理をしているように、慈朗には見えた。
「・・・三の姫様?」
・・・やっぱり、泣いてる。
数馬が、見送りに出てなかったからかな。
朝食会の時も、声掛けられる位置に、お互い、いなかったしな。
でも、数馬のこと、今までみたいに、言っちゃいけないの、なんとなく、皆の動きでも解ったから。三の姫様周りの話題は、もう『ご指南役』の数馬とのことじゃなくて、アーギュ王子の件で、持ち切りで、自然と、数馬のことが、タブーになってるのも、よく解る。
皆、数日前までは、数馬とのこと、心から、応援していたのに、なんか、嘘つきみたいに、・・・あ、そう、数馬の言ってた『手のひらを返す』ってやつだ。皇宮は、こういうことが多いみたい。だから、柚葉みたいに、大嘘つきになって、自分を守らなきゃいけなかったり、数馬みたいに、正直で、良い人が、辛いんだ。でも、板挟みの姫は、もっと辛い。辛くても、ニコニコしなきゃいけないの、きっと、皆のこと、考えて、頑張ってしまうんだろうからな。
「もしも、姫が、ランサムに行くんだったら、僕、護衛には頼りなくて、なれないけど、一緒に、絵を見ましょうか?」
「慈朗・・・いいの?」
「え?」
「姫は、もうダメなの。慈朗の・・・」
「・・・姫?・・・大丈夫ですか?」
「姫、簡単なの、ダメなの。こんなに、自分がダメだと思わなかった」
あああ、なんか、あったんだ。アーギュ王子に・・・そうなのか。
「姫は、おかしい子なの。男の人に触られたら・・・もう、ダメなの・・・」
なんとなく、柚葉じゃなくて、僕と座りたい、って、言った意味が、解った気がする。
「ねえ、もう、言わなくていいよ。姫。・・・なんとなく、言いたいこと、わかった。僕も、姫と似てるのかもしれないし・・・」
そう、それに、柚葉は、ちょっと、雰囲気、王子に、似てるもんね。
「・・・もう、頭の中だけで、理解できないことって、あるんだと思うから、そういう時は、それでいいの。いっぱい泣いて、いいんだよ」
「恥ずかしい・・・どうして、あんなに、なっちゃったんだろう・・・」
なっちゃった・・・のか。なっちゃったんだ。
数馬とのことも、聞いたことなかったから、きっと、これは、ヤバい告白なんだろうな。シャッター、正解だったね。
「僕ね、柚葉のことが、好きなんだ」
「え?」
「姫がね、今、なっちゃったって、言いたくないはずのことなのに、言ってくれたから。僕も、内緒を教えてる。だから、お互いに内緒ね」
「だって、男の子同志、聞いたことはあるけど、本当なの?」
「うん。思い出して。お勉強してた時のこと」
「あ、『あーんして』してた」
「そうそう、それ。ついでにね、僕も、柚葉好きだけど、柚葉から、僕のこと好きだって、告白してきたんだよ」
「えっ?・・・うそー」
「うん、嘘みたいだけど、嘘じゃないよ。僕も、びっくりしたけどね、あんなに頭良くて、カッコよくて、何でもできる柚葉が、なんで、僕、なんだろうって」
「・・・それって」
「うん、大変なことでしょ」
「ダメなやつ」
「うん、姫の言い方だとそうなるのかな」
「・・・」
「ダメなんだけど、好きだから、仕方ないの。だから、内緒のね、恋人なの」
「・・・なんか、びっくりする・・・」
「そうでしょ。言わないけど、皆、色々あると思うよ」
「でも、柚葉は、二のお姉様がいて・・・両方、好きなの?」
多分、これ、良い質問だと思うよ。今の姫様には。
「うーん、難しい問題になってくるよね。柚葉が、素国に還るタイミングで、二の姫様が、お嫁さんで行くことになってるらしいからね」
「慈朗は、どうするの?」
「うーん、わかんない」
「えーっ・・・?」
「柚葉が、一番良いと思う選択をしてほしいと、僕は思うよ」
「・・・慈朗、偉いね」
「・・・あんまり、引っかからないんだね。男同士だとか、そういうの」
「うん、なんか、わかるよ。だって、仲良しだもん。数馬と慈朗との仲良しとは、違って、もっと、仲良しなんだな、って思ったことが、何回かある。こそこそしたりして」
「あああ、ほらあ。バレてた。もう、後で、柚葉、詰っとく」
「でも、姫にバラしたの、柚葉に言っちゃダメじゃないの?」
「それは、多分、大丈夫。姫が他にバラさなければね」
「数馬は知ってるの?」
「うん、これがねぇ、・・・まあ、知ってるんだなあ」
「えーっ?」
「姫、泣き止んだね。良かった。ああ、特に、二の姫様には、これね」
慈朗は、口をチャックする仕草をしてみせた。
「うん、わかった。バレたら、大変なことになりそうだよね」
「でしょ」
「うん、大丈夫。もう、姫も大丈夫。姫ね、もっと、お勉強することにしたの。お作法とか、学校のお勉強もさぼらないで」
「わあ、すごいじゃん」
「そしたらね、そしたら、子どもっぽくなくなって・・・」
あ、また、来そう・・・
「慈朗、数馬のお友達として、姫を怒らないでね」
そういうことか、簡単だって、言ったのは・・・
「姫は、スメラギの姫だから、数馬のこと、どんなに、好きになっても、お嫁さんにはなれないのが解ったから。一のお姉様と桐藤みたいには。二のお姉様と柚葉もそうなんだ、と思ってたけど、・・・色々、ありそうなんだね?・・・姫だけじゃないんだね」
「うーん、僕の立場から、そんなこと言うの、本当に、ダメな話なんだけどね」
「ううん、好きな人を好きって、思っちゃうのは止められないから・・・でもね、姫は、やっぱり、おかしいの・・・」
「うーん、どういうことかな?」
「今の姫は、とても我儘で、数馬がいいのに、・・・」
「うん?」
「王子のこと、頭ん中、王子のことで、いっぱいになってて、もうダメな感じで。玄関を車が出る時、数馬が、姫のお部屋から、お荷物、持って来たの、丁度見えて」
「そうだね。引き上げて、戻ってくるって、言ってたからね」
「ごめんなさい、って、数馬に、何回も思ってた」
「・・・そうかあ。数馬とのことが成ってから、王子が来るまで、とても短かったから、こんなのは、誰でも、変になるって。一度に、好きな人が、いっぱいになってるみたいなんじゃないかな?」
「うん、これは、ダメなことだと思うから」
「それはさ、ゆっくり、時間を掛けるしかないよね。しばらく、辛いかもしれないけど」
「いいのかな?」
「いいも何も。うーんと、楽にして、というのは、無理かもしれないけど、姫は今、モテモテなんだよ。そんなのしたくて、してないでしょ。数馬も好きって、言ってくれていて、多分、これは、内緒の方がいいね、王子からも・・・だよね?っていうってことは」
「うん、内緒だから、保留なの」
「えっと・・・それは、どういう・・・?」
「あ、ダメ、内緒なの、王子とのお約束」
「あー、わかった。それは、聞かないでおくね」
何か、微妙に、国際問題になりかねないのかも・・・まあ、つまりは、姫は気に入られたってことだよね。可愛いもの。今の姫。なんか、自分で言うのもなんだけど、多分、同じ属性でね、周りが勝手に上がって、振り回されるんだ。・・・ああ、姫の方がもっと、純粋で、今は、数馬が好きなはずなのに、いい感じになって、王子のことも好きになりかけてる、ってとこなんだろうなあ。姫も、イチゴ頬張ってるだけじゃなくなってきたんだね。
簡単だ、って、そうだよ。皆、弱いんだよ。そういうとこ、弄られると墜ちちゃうんだ。大人は、特に狡いから。すごーく、姫の気持が解るよ。特にね、あの王子、上手みたいだから、手練手管っていうやつ。柚葉の先輩だって聞いたから、もう、仕方ないよね。
「ねえ、何かあったら、僕に相談して。聞くだけしか、できないけど」
「うん、ありがとう」
「いい?姫はおかしくないから。普通なの。皆、良くしてもらったら、その人のこと、気になっちゃうし、王子だって、中途半端な気持でしてないと思う。本当に、女美架姫様が好きになったんだよ。国も離れていて、あんまり、会えないから、急に、アクション起こしちゃったのかもしれないね。女美架姫様のこと、可愛くて、仕方なかったんだよ。たぶんね、これは僕の推測で、独り言だから、勝手な妄想だからね。アーギュ王子は、女美架姫様が大好きなんだけど、数馬とのことに気づいて、今、姫が数馬のことが好きだから『保留』っていうのにしたんだと思う。これは、僕の独り言だから、すまして、聞いてて。姫に憂いなく来てほしいから、そしたら、初めて『婚約』になるって」
「・・・慈朗、すごい、どうして、解るの?」
「ちがうよ。これは、僕の独り言だから。本当のことは、知らないんだからね。だから、誰にも言わないよ」
「・・・わぁ、ありがとう。慈朗」
あ、抱きついてきちゃったよ。ややこしくならないようにしようね。これ以上。
うん、そうだったんだね。
涙目だけど、ホッとしてるのが、解った。ちょっと、時間がかかるから、大変だろうけど、姫自身、多分、流れに乗っていくしかないんだろうね。姫が落ち着いたら、僕は、数馬の方が心配なんだ。そっちのフォローをしてあげたいんだ。流れのままに行けば、姫には、アーギュ王子がいるけど、数馬はね、そういうことでしょ。だってね。
~次のお話につづく~
みとぎやのメンバーシップ特典 第七十話「姫の告白」~隣国の王子編
御相伴衆~Escorts 第一章
お読み頂きまして、ありがとうございます🍀✨
慈朗と三の姫女美架の会話です💖✨
毒の無い二人のやり取り、いかがでしたでしょうか?
慈朗は、本当に優しいのですよね😊
辛い思いをして、乗り越えてきている子は優しいのかなと思いつつ・・・。
ちなみに扉絵は、青い目が三の姫、白い子が慈朗です。
イラストも試みていたのですが、今一つで・・・、案だけを置いておく形にしました。
次回、来月からは、新しいお話に入ります。
お楽しみになさってくださいね😊✨
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