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御相伴衆~Escorts 第三章 Ending  第147話 帰還 ~ アーギュ・女美架編 エンディング

 重なる大きな水の塊が、幾重にも、幾重にも、私達の上に、覆い被さって来た。

   ・・・ああ、そうだった。
 今は、北の古宮からの戻り、メイル川を下っている所だ。
 難所を越えたが、最後の川から、海に出る河口の所が危ない・・・大きく揺さぶられ、滝のような水を被り続けて、意識が遠のきそうになる。

 水の轟音と共に、スピードが上がる。つんのめり、この舵を離したら、私が海の藻屑になるだけではない。方向を失った小舟もろとも、大切な者たちも、共に海に沈めることになる。そんなことはさせない・・・。

「いいか、皆、絶対、手を放すんじゃない。支柱から、離れるんじゃないぞ!!」

「女美架様、私に、捕まってください」
「・・・」
「大丈夫よ! あと一息、頑張るから」
「皆様、後少しの辛抱です。河口に出る時、大きく揺れますが、耐えてください」

 一瞬、振り向くと、アカツキが、女美架メミカを支え、支柱に縋りついているのが見えた。その隣で、身体にクォーレを括りつけ抱いている、美加璃ミカリ様が、同様にしがみついていた。クォーレは、しっかりと、目を瞑ったままでいる。

 前を向いた瞬間、大きな波のような水の塊が、覆い被さって来た。
 その後、激しく船は、前傾したかと思うと、急激に舳先を空に向けた。
 水の中を抜け出し、船は宙を飛んだ。

 ドドーンッ・・・

 だめだったのではないのか・・・?

「王子、王子・・・!!」

 ジェイスの声に、一瞬で、意識を引き戻された。まだ、船が揺れている。

「河口に出ました。どなたも落ちることなく、ここまで、来られました・・・」

 振り向くと、先程、見たのと同様に、全員が、船の支柱にしがみ付いていた。ハッとした表情の暁が、眼鏡のないジェイスに、声を掛ける。

「ジェイス・・・、ああ、眼鏡はここに・・・」
「ああ、なんという、奇跡・・・貴女の所にあったとは・・・」

 互いの声が、それぞれに、聞こえているようだ。
 それぞれが、身体を動かし、言葉を交わし始めた。

 本当に、無事で良かった・・・。

「・・・よく、頑張ったね。泣かないで、偉かったよ、クォーレ、無事、海に出たみたいよ。本当に、偉かったねえ。きちんと、捕まってたねえ」

 クォーレが、美加璃様の手で、顔を拭って貰っていた。びっくりした顔をして、周りをキョロキョロ見ている。
 本当に、泣かずに、よく頑張ってくれたものだ。

「王子、申し訳ございませんが、私と代わって頂けませんか」
「・・・」

 青白い顔をした女美架が、暁に抱かれていた。

「解りました。では、そちらに参りますので・・・」

 暁から引き継ぎ、女美架をようやく、抱き締めた。
 身体は冷え切っていて、震えていた。

「女美架、解りますか?難所は超えて、もう我が国の領海に入りました。皆も、よく頑張ってくれました。ここまで来れば、大丈夫です。ほら、ご覧ください」

 大陸が見えてきた。その時、ヘリコプターの音がした。

「多分、迎えです。・・・さあ、女美架、寄りかかって。ああ、辛い思いをさせました。でも、もう大丈夫、クォーレも、美加璃様も、暁も、ジェイスも無事です」
「ごめんなさい。いつ、落ちるかと思って・・・怖くて、気持ち悪くて・・・でも、わかりました。もう、大丈夫なんですね・・・ありがとうございます。王子」
「・・・ああ、良かった。あああ、それは、キスというわけにはいきませんね・・・」
「ごめんなさい・・・クォーレは?」
「無事よ、女美架、大丈夫よ」
「ああ、よかった」

 クォーレは、まだ、離れてはいけないと思っていたのか、そのまま、美加璃様に抱かれたまま、私と女美架に、手を振った。

「クォーレ、本当に、強い子、良い子でしたね・・・本当に良かった。助かったのね」
「そうですよ。女美架、やっと、やっと、貴女を連れて帰れる。四年もかかりました。そして、クォーレも・・・」

 そういうと、女美架は、スッと意識を失うように、私の腕の中で、眠り始めた。

 間もなく、ヘリが上空を旋回し、先導し始めると、大きなランサム海軍の掃海艇がこちらに近づいてきた。

「やりました。あの掃海艇に乗り移れば、安心です。後少しですよ。皆様」

 ジェイスが、こちらに、声を掛けている。
 その隣では、暁が、舵を取る、ジェイスを支えている。

「私達のランサムに、いよいよ、帰ってまいりました。大切な方々をお連れして」
「ジェイス・・・ありがとうございます」

 ジェイスは、暁の肩を少し抱いた。名残惜しそうに見つめ合い、二人は舵取りの役目に戻った。


「お迎えに上がりました。アルゴス王子、ジェイス殿、そして、姫様方ですね。おや・・・?」
「私の息子です。クォーレ王子です」
「なんと、・・・王太子様にお世継ぎが・・・」

 キャプテンが出迎え、一同が歓声を上げた。
 その中、慌ただしく、皆が、掃海艇に、無事、乗り移った。

「あ、奥方は、こちらです。私ではないの」
「これは失礼致しました。美加璃様でしたね。存じ上げておりますよ。貴女様は、スメラギの雪の妖精、メダリストの方でしたね」

 海軍の兵士や尉官たちは、口々に、クォーレの髪色と、目の色を褒め讃え、間違えなく、クォーレが、私と女美架の子である、と言い合っていた。

 皆、一先ず、身体をタオルで拭き、毛布にくるまった。
 私と女美架は、少し、船室で休むことにした。

「クォーレは、私と暁で見ていますから、大丈夫ね」

 美加璃様が、そう言ってくれた。
 
 ジェイスは、キャプテンと話をしている。
 恐らく、着いてからの動き方、まだ、国民の目には触れない形で、王宮まで行く算段を始めている。

 眼鏡を無くさなくて、よかったな。
 濁流の中、暁が、彼の眼鏡を捕まえていてくれたとは、よくできた話だ。


「女美架、目覚めましたか?」
「ああ、アーギュ・・・良かった・・・本当に良かった」

 女美架は、やっと、落ち着いたのか、声を上げて泣いた。
 出会った頃の少女の感じのまま・・・なんですね。

「やっと、叶う・・・、まあ、北でも致しましたが・・・はぅ・・・」
「・・・んっ・・・さっきは、ごめんなさい」

 抱き締めて、ようやく、口づける。

「あの日の続き、でしょうかね?」
「うふふ・・・」
「顔色も良くなりましたね。よく、乗り越えてくださいました」
「はい・・・」

 女美架は、また、首に、縋りついてきた。

「間もなく、ランサム本土に、船が接岸して、上陸できます。これからは、誰にも、貴女をさらわせません。クォーレも・・・絶対に護りますから」


 新スメラギ皇国が立国した。私達が、本国に戻って、約7年後のことだった。あの虹彩異色の皇子と言われた、耀皇子が、第七代スメラギ皇帝、耀帝として、即位した。

 その同日、私達の結婚は許され、その翌月には、法律が制定され、スメラギ人の外国人との婚姻、つまり、国際結婚が認められることとなった。これにより、この度、私達は、正式に婚姻という形が認められ、同時に、私は、父王から、世代交代することとなった。

 私は、アーギュ・アルゴス・ランサムⅤ世として、国王となり、女美架は王妃になった。そして、息子のアーギュ・クォーレは、12歳となり、ようやく、王太子として、正式に認められた。ここまで、ランサム国内だけで、内々の事としていたが、国際社会にも、この立場を示すことができた。


 女美架、貴女とお約束していた、5年保留の倍、かかってしまいましたね。色々とありましたが、やっと、ご夫婦になれました。さて、国王というお役も頂きました。これから、更に、忙しくなります。でも、貴女が隣にいてくれたら、私には、百人力というか、何でも、乗り越えていけそうだと思っています。もう、立派な世継ぎも、私達の間には、おりますからね。

 この約10年間で、四大大国は、それぞれ、世代交替しました。
 私達、統治者は、昔の因習から離れ、国際的に協調し、平和を目指そうという約束を、互いに交わしました。
 これからは、私達の世代です。まだまだ、色々と問題もありますが、話し合いながら、乗り切っていこうと、耀アカルや、紫颯ズーサたちと、日々、語り合っています。



帰還 ~ アーギュ・女美架編 
エンディング


 御相伴衆~Escorts 第三章 Ending  
       第147話 帰還 ~ アーギュ・女美架編 エンディング


 お読み頂きまして、ありがとうございます。
 北の古宮から脱出することになり、実際の、その後の話でした。
 無事に、アーギュと女美架たちは、ランサムに戻り、その立場を取り戻しました。

 まさに、王子様とお姫様は結ばれて、幸せになりました、と王道ですね。

 この様子に、亡くなった皇帝一族たちも、喜んでいるのではないかと、ついぞ、思いを馳せます。

 さて、次回は、その後の王宮でのお話という形のエンディングです。
 お楽しみになさってください。

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