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天は我々を。

 涼しくなってきましたね。
そろそろエアコンも冬まで一休みかな。
そんな朝方に思い出したお話をひとつ。

 その日はお盆は過ぎたがまだまだ暑く、バイクだとじっとり汗が浮かび上がるような日だった。
涼しい所が恋しくなりフラフラと東北方面にハンドルを切り、のんびりと走る。
お盆は仕事が忙しくロクに休みが取れなかったから振り替え休日の3日間があったので特に急ぐ事もなく下道で行くことに。
これがのちの悲劇?に繋がることになるがこの時は知る由もない。

 午前中はどこに行こうかとウロウロしたてのが祟って宮城に入る頃には夜に。
少し涼しいけど、それ程変わらない外気温。
ここまで来たらついでだから青森に行こうと更に走る内に漫画で出て来た十和田湖が見たくなり、そちらの方から青森入りする事に。
この時点で既に深夜。
少し山を登り始めると今までとは段違いの涼しい風が体の熱を奪う。
慌てて持って来た風避け兼小雨用のウインドブレーカーを羽織り山道を進む。
地理理解してる人はああ、バカだねぇ、と思うかも知れない。
八甲田山、それが山の名前。
そろそろ日が昇る頃、道路標識が外気温6度を示してる。
いや、まだ残暑残る秋の入り口だぞ?なんだこの気温。
涼しいのを望んでたんであって、寒いのはまだ要らない。
少し明るくなって来たが朝霧が体に纏わりついて一気に体温を奪う。
そろそろ限界、って時に峠の茶屋が見えた。
助かった、自販機であったかいコーヒーでも飲もう。

 大きめの駐車場に入るとバイクがズラリと並んでた。
ライダーはみんな肩を抱いて寒そうにしてる。
そんな一団を横目に自販機に。
ない、あたかい飲み物が一つもない。
いくつかある自販機見たがどれも売り切れ。
周りのライダーもあれば買ってるわと言いたげな視線。
天は我々を見放したぁ・・・
例の映画のワンシーンを脳内で再生してとりあえず店の方に。
すると店の前で蒸した饅頭が売ってる。
掛けそばでも良いかなと思ったが饅頭もいいかとその前まで行くとお婆ちゃんが
「饅頭2個買ってくれたら熱いお茶飲み放題だよ」
何という商売上手!饅頭も美味しそうだし値段も悪くない。
「じゃ、2個ください」
捨てる神あれば拾う神あり、ただし有料。
お婆ちゃんが饅頭2個皿に乗せて店の中に、ほら、おいで、と言われて後を追う。
座敷に皿を置いて、他のおばさんにお茶出して、とか指示出してる。
お茶はすぐに来て熱々のお茶を一口飲んでやっと肩から力が抜けた。
お茶は急須も付いて来て言葉通り何杯でも良いよとアピールしてる。
饅頭食べつつお茶を飲んでるとライダーの一団が私を見て、私が持ってる湯気の出てるお茶を見て
「あの、それどうやって?」
声掛けてきたお兄さんの後に居るお兄さんも羨ましそうに見てる。
「外の饅頭2個買うとお茶くれるって言うから」
言うか言わないかお兄さん達が外にダッシュ。
店内に居た温かいもの探してたお兄さんも慌てて外に。
これは良い宣伝になってるな、と更なる一手を打ってたお婆ちゃんに慄きつつ茶を啜る。

 ようやく体温が上がり外に出るとあれだけ山積みだった饅頭は大きなザルの底面から一段か二段か位を残して売れてた。
二合目から先が売れてた感じ。
紙コップにお茶入れて饅頭パクつくお兄さんお姉さん。
多分ライダーほぼ全員くらいの勢いで買ってたと思う。
「にいちゃんのお陰でよく売れたわ、ありがとね」
策士お婆さん、満面の笑みである。
「商売上手ですね」
尊敬の意を表して言うと
「そりゃそうだよ、ここで何十年やってると思ってるの」
そう言い放ちカラカラと笑う。
この、天然の仕込みとでも言うか、これが出来る店は繁盛する。
他にも上手く宣伝に使われた事がいくつかあるが、それはまたの機会に。

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