おかっぱ頭の初恋とギター
まだ、春といえども肌寒い朝。14歳の私は、ギターを手に持ち中学校までの道のりを歩いていた。手が、腕が、今にも引きちぎれんとばかりに悲鳴をあげている。
私はドジさ加減も、おばあちゃん育ちの昭和な感じも、日曜日の18:00に登場する、おかっぱ頭の永遠の3年生のようだった。周りからもそう呼ばれることも多かったが、結構ロマンティックな乙女だったことを思い出す。
中学時代、部活動の他に1年単位でクラブ活動に入ることができた。2年生になると渋谷系音楽好きの友達と別のクラブに入ることにした。見学に行ったのはフォークギタークラブ。実はそのクラブには1学年上の好きな男の先輩が所属していた。次回のクラブからギターを持ってくるよう担当の先生に言われた。
私は先輩と同じモーリスのギターが欲しかった。母に「中学生に新品なんてもったいない!」と反対されてしまった。父の古いクラシックギターがあったからだ。フォークギターとは違うんだけどな、と思ったがだまっていた。これ以上騒いだら、チャンスを逃しそうだったからだ。
しかし、やりとりを聞いていた祖母が、不憫に思いなんと、電車で駅前の島村楽器までギターを買いに行こうと言ってくれた。こんなエピソードまで似ている笑
週末、祖母と電車に乗って、楽器店まで買いに行った。一番安いものから2番目に高いギターを買ってくれた。それはハードケースがセットだった。どうしてもそれがよかった。去年先輩もハードケースを背負って登校しているのを見たからだ。店員がギターを丁寧に拭き上げ、真っ黒でロックな装いのケースに収納されたその様は、先輩とクラブの帰り道でギターの話で盛り上がるかも、、なんて妄想してしまうほどだった。
ギターを購入してから、初めてのクラブの日を迎えた。朝から私は、妄想女子と化していた。もし通学途中に先輩とあったら、追い抜かそうか、話しかけようか、追い抜かしながら挨拶くらい不自然じゃないだろう、とか、色々妄想を膨らませなていたら、急に恥ずかしくなり下唇を嚙み締めて、ギターを持ちあげて玄関を出た。
片道1.7kmの道のりを登校するには、ギターの重いこと。正確にはハードケースが。最初は軽々と持ち上げていたが、だんだんと辛くなってきた。一旦立ち止まり、先の長いまっすぐな通学路を見つめて呆然と立ち尽くした。
先輩が数百メートル先にギターを背負って歩いていた。先輩はソフトケースだ。軽そう!え〜!ハードケースじゃないの〜、と心の声がこだましていた。追いつきたい。そう思ったが、ケースの樹脂製の取っ手が汗ですべる。手と腕がちぎれそう。頑張って小走りしてみたが、手が限界を迎えた。重たく手にぶら下がる黒い箱が、磁石のようにアスファルトに吸い寄せられ、わたしは立ち止まり先輩の背中を見送ることになった。
このケースの選択を後悔しながら歩くことになっおかっぱ頭の14歳のわたし。先輩との早朝ロマンスにはまだ早いお年頃。