
【ネタバレ注意】野狗子: Slitterhead クリア後の感想
コイツ最近香水の話しかしねえなと思った人もいるかな?
元々ゲームの感想とか投げてたんだよね。
総評
世界観、設定は作り込まれているが、開発途中でリソースの限界が見え、続編が作れる体にして一旦キリのいいところでリリースしたような体裁のゲームだ。良さもあるが、このままでは続編は厳しい気がする。
シナリオ
ここから先、シナリオ終盤のことについて重点的にネタバレ全開で話す。
未クリアの人はさっさと回れ右すべし。
なぜ終盤からかって?キャラ紹介から丁寧に説明してたらとんでもない文字数になったので書き直したんだよ。
警告はしたので、本題に移る。
主人公の憑鬼「夜梟」の目的はシンプルだ。稀少体と呼ばれる特別な人間たちと共に野狗子を狩り、ビジョンで見た香港の滅亡を未然に防ぐことだ。
SIRENのようなオムニバス形式で、多数の登場人物のタイムラインが複雑に絡み合うシナリオかと思われたが、最終的には稀少体(プレイヤーキャラ)のジュリーとアレックス、夜梟ともう一人の憑鬼「豹头鷹」のシンプルな対立構造に落とし込まれる。
また、シナリオのタイムラインにはSIRENのタイムループ構造、SIREN2のパラレルワールド構造を両方取り入れており、物語の途中で世界は2つに分岐する。
復讐心と自罰感情のループに陥り、全てを巻き込んで永遠にこの時間軸をループさせ、野狗子狩りを続けんとするアレックス。彼の意思に飲まれてしまったオメガ世界と、彼から離反し、それを良しとしないジュリーの側につくことができたアルファ世界だ。どちらの世界も、夜梟がつかなかった側に豹头鷹がつく。
オメガ世界のBAD ENDを見届けた後、アルファ世界でアレックスを倒し、こちらもこちらでビターなエンディングか……と思いきや、最後の悪あがきで豹头鷹が街に旅客機を墜落させ、市民諸共爆散し、夜梟の意識が再びゲーム開始時点までタイムリープする、なんとも後味の悪い結末を迎えてしまう。
アルファ世界の犠牲者数を抑えることで、アルファ世界の破滅、そしてゲーム開始まで戻されるループを回避するための希望が見出される。
まず、どちらの世界においても、最終決戦の前に他の稀少体がアレックスの手にかかってしまったため、アルファ世界ではそうなる前にこちらからジュリー以外の稀少体との繋がりを断ち、豹头鷹に居場所が辿れないようにして皆を生き延びさせる。
そしてジュリーと共に一対一でアレックスと対峙する。彼を倒した後、突っ込んでくる旅客機の中の人間に憑依し、なんとかして軌道を修正する。これがプランだ。
旅客機内で豹头鷹と争いつつも、なんとか旅客機は高度を持ち直し、九龍城砦スレスレを飛んでいく。
救われた香港。生き延びた市民、そして稀少体たち。それはアレックスも同様であった。
夜梟と豹头鷹、ジュリーとアレックス。アルファ世界におけるこの対立構造に決着はつかず、物語は別の時系列へと移る……。
物語はここで終わる
復讐と自罰のループの原動力であったリサ野狗子を時空の狭間に封印され、目的を失ったアレックス。アレックスが腑抜けとなったことで、始末されずに生き延びることができた稀少体たち。そして豹头鷹と共に行動するジュリーがオメガ世界の香港に残された。彼らはその後どうなるのか?
アルファ世界では香港を去り、散り散りとなった稀少体たち。彼らはその後どうなるのか?
そもそも一部の稀少体はこの時系列より前に夜梟に会ったことがあるような口ぶりだったが、その真相は?
夜梟、豹头鷹の行く末は?
果たして遥か未来に待ち受ける人類滅亡は回避できるのか?
これらは続編が出ないことには明かされないだろう。
良い点
ミッションに(2nd loop)等と表記されることにより、SIRENの終了条件1・2よりは流れが理解しやすい。ここは好き好きかもしれないが。
SIRENのように何気ない行動がバタフライエフェクトめいて予期せぬ結果に繋がるといったこともほとんどなく、話の大筋は理解しやすい。あの複雑怪奇な因果のいたずらにカタルシスを感じるタイプにとっては不満かもしれない。
宗教編の餌が施設に収容した人間だったと判明するシーンはすごく良かった。胸糞は悪くなるが、それも醍醐味だ。
断片的にしか語られない情報が多いが、最低限の情報が伝わるようには書いているので、なんとなく分かったような気分にはなれる。
悪い点
それにしたって語られない設定が多すぎる。続編が出せなければ設定ごとボツになるわけだが……?
夜梟の記憶が背景を知る上で非常に重要な情報になると思われるが、野狗子文字(?)でほとんど埋め尽くされている。設定に関する情報が断片的になっているのは半分ぐらいそのせい。誰か早く解読してくれ。
ミシェル、銀月、リサの3体の野狗子と九龍炎上のビジョンの関連性が分かりにくい。確かに裏社会を野狗子が完全に支配してしまうと治安は間違いなく悪くなるし、宗教団体も人間を隠れて餌にする醜悪な実態を野放しにしてはおけない。リサに化けた野狗子も然り。当代における人類の敵だ。
「ビジョンはあくまでビジョンなので、3体の野狗子と九龍炎上に直接的な因果関係があると断言している訳ではないですよ」と言ってしまえばそれまでだが……。全体的に続編に説明・解決をぶん投げてる感があり、消化不良感は否めない。
ゲーム内容のほうに書くべきか迷ったが、ちゃんとセリフは喋らせるべきだ。グラビティデイズの会話パートも同様のスタイルだったため、ディレクターがこれを良しとしたのだろうが、このゲームの登場人物は現実にある言語を喋っているのだ。それなのに「ハァ……」「What……!?」「ンン……」のような一言セリフばかりが続く。正直「ああ、声優にたくさんセリフを喋らせるお金が無かったんですね……」となってしまう。
ゲーム内容
良い点
憑依システムは将来性がある。「他人に乗り移る」をゲームに落とし込むコンセプトとしては「魔剣爻」や「The 3rd Birthday」の系譜にあたるだろう。前者は東洋的な世界観と超科学の融合、後者は破滅を回避するための歴史改変と、シナリオ面にも共通点がある。これら2作の続編はもはやないであろうことを考えれば、このジャンルにおける競合は少ないだろう。操作キャラクターのアクションが多様化すればもっと面白くなるはず。
悪い点
「アクションが多様化すれば」つまり、今作ではアクションがあまり差別化できていない。同じ武器タイプ2人ずつの計8人の稀少体と、後はモブ一般人のモーションだけだ。稀少体の攻撃モーションはせめてもっと差別化してほしかった。
憑依システムは市民の犠牲を生みやすい。真エンディングを迎えるにあたり、アルファ世界の犠牲者を抑えなければならないが、憑依システムの面白さをややスポイルしてしまっているきらいがある。
同様の理由で、アルファ世界ではアニタのスキルが使いづらい。哀れな一般人を呼び寄せ、武器を持たせてタコ殴りにさせるスキルだが、これは犠牲者上等の戦術だ。
パリィ(ディフレクト)が煩雑すぎる。ガードをして攻撃が来る方向にスティックを弾く。慣れると意外とできるようになるが、その理由を考えると複雑な心境。
プレイヤーのバリエーションも少ないが、敵のバリエーションも少ない。資料集には「開発リソースが限られているため、汎用性の高いモデルに外見のバリエーションを持たせる形とした」とあり、これは意図したものだ。バリエーションが少なく、続けているうちに嫌でも動きを覚えてしまうので、パリィが自然と上手くなる。悪い点として挙げたが、これも狙いのうちであれば、お見事。
ブラッドジャンプ(フックショット的なアクション)があるにも関わらず、あまり活かせていない。大型のエネミーや強力な飛び道具を持った飛行型のエネミー相手にネオンサインを飛び移り、攻撃を避けつつ戦うといったことも理屈としては可能だと思うが、やはり敵のモデルを少なくした弊害か、ただの移動アクションの域を出なかった。
戦闘バランスが大味。一対多の乱戦において、敵の攻撃が集中すると、稀少体といえどあっという間に膝を折る。「憑依を駆使して一般人を餌にしつつ、稀少体の攻撃スキルで一網打尽にする」がおそらくゲームとしての解なのだが、犠牲者数を気にしなくてよいオメガ世界ならまだしも、アルファ世界ではそういった戦術がとりづらくなる。
稀少体の差別化は所持スキルでなされており、得手不得手がかなりハッキリしているが、ブレイクやトリのスキルが活躍できそうなシーンがあまりない印象がある。反対に、ドニのデバフ耐性やエドのオートパリィのスキルは強力。アレックス、ジュリーは主役級なためかパッシブスキルが多く、意図的に強く設定されているため、手っ取り早く勝ちたいならこの2人の採用率はどうしても高くなる。
収集アイテムを探しに進行上の順路を逆走したり、チェイスを放棄して探索したりするのは別に面白くないと思う。アイテム集め終わったらミッション放棄していいので、そこは楽だが。
ロックオンシステムが前時代的。カメラワークもあまりよくない。ロックオンは一対一を想定したカメラワークで、乱戦に向いていない。そのくせ後半は頻繁に乱戦に持ち込んでくる。
一般人に憑依しているとき、付近に稀少体を即時召喚するスキルを標準搭載してほしい。野狗子のチェイスやビルの向こう側など、やむにやまれず稀少体から離れ、一般人に憑依したまま交戦状態に入ることがある。戦闘が長引くと「ようやく追いついた。自分に憑依してくれ」と稀少体が遅れて参戦してくる仕様になっている。この仕様によって、大した力もない一般人で野狗子相手にサバイブしなければならない緊張感は生まれる。が、それ以上に戦闘時間を引き延ばされている印象もある。