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なぜその効果的な最新機器が臨床現場で利用されないか?

▼ 文献情報 と 抄録和訳

人生の一日:ニューロリハビリテーション技術の臨床的意思決定と導入に関する質的研究

Celian, C., Swanson, V., Shah, M. et al. A day in the life: a qualitative study of clinical decision-making and uptake of neurorehabilitation technology. J NeuroEngineering Rehabil 18, 121 (2021)

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

[背景・目的] ニューロリハビリテーション工学は、新しい技術を導入する際に多くの課題に直面しているが、どの課題が最も制限されているかは明らかではない。目的は、リハビリテーション技術(RT)を臨床治療に使用する際の、リハビリテーションセラピストのリアルタイムの意思決定プロセスの理解を深めることである。

[方法] 本研究では、現象学的な質的アプローチを用いた。リハビリテーション技術を積極的に導入している大手病院に勤務する3名のOTと2名のPTが、9名の患者(脳卒中4名、外傷性脳損傷2名、脊髄損傷1名、多発性硬化症1名)の治療セッションにおけるリハビリテーション技術の使用に関する意思決定について、質問文を用いて記述した。次に、RTに関する文献や実施研究のための統合フレームワーク(CFIR)から得られた17の構成要素をもとに、演繹的質的分析を用いてビネットをコーディングした。そして、総括的な内容分析を用いてデータを統合した。CFIRは,実装を成功させるための決定要因(障壁と促進要因)を分類するために用いられる,一般的な実装フレームワークである。

[結果] 記録されたコンストラクトのうち、最も顕著な5つのコンストラクトは、CFIRの決定要因に由来するものである。①相対的優位性(通常介入と比較した時の有効性)、②患者の個人的属性、③装置/介入に関する臨床家の知識と信念、④時間とセットアップを含む装置の複雑さ、⑤実施に対する組織の準備状況。候補となるRTは、機能訓練との関連性がないため、従来の治療と比べて相対的に不利であると治療者は考えていた。また、RTのデザインは、診断、目標、身体的および認知的な限界など、患者の多面的な個人的属性を考慮していないことが多かった。臨床家のRTに対する安心感は、それまでのトレーニングによって高まったが、RTの複雑さを認識することによって低下した。最後に、臨床家がRTを収集、設定、使用する時間は限られている。

[結論] 臨床的に有用なRTを作成することを目的とした数十年にわたる設計作業にもかかわらず、多くのRTは入院中の神経学的リハビリテーションにおける臨床翻訳のニーズに適合していない。新しいRTは、日常的な物を使ったハンズオンセラピーの即効性、汎用性、機能性を妨げ続けている。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

僕が勤務する病院においても、ロボットスーツHALやHONDA歩行アシストなど、様々なリハビリテーション技術が導入されてきた。しかしながら、その導入に際して、いつも直面する問題があった。「思ったより利用されていない」という問題である。
本論文は、セラピスト側が感じているリハビリテーション技術に対する態度の一部を明らかにした有意義な論文だ。個人的には「①③ vs. ④」の構造があるのではないかと感じていた。

①効果の大きさ + ③装置の効果に対する知識・信念の強さ(positive)− ④その装置を使うことでの面倒臭さ(negative)

上の式がゼロを超えたときに、その装置が利用されることになるのだろう。
僕たちは、思ったより面倒臭がりだし、最小努力の法則にまんまと従ってしまっていると思う。
本気でリハ技術を臨床応用しようと思えば、④を削る努力が必須(装置の準備・片付けだけのアルバイトを雇うとか)だ。
「最小努力の法則」の重力を超えた組織だけが、恩恵にあずかれるというわけか。考えたい。