曖昧さを極限までげずり落とした:『IPA』 疼痛評価尺度
▼ 文献情報 と 抄録和訳
IPA(痛みの評価と介入のための修正された数値システム)について
Vaidya, Rahul, et al. "The IPA, a Modified Numerical System for Pain Assessment and Intervention." JAAOS Global Research & Reviews 5.9 (2021).
[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar
✅ Interventional Pain Assessment:IPA ツール
0 = "I have no pain”:痛みはありません
1 = "My pain is tolerable (no intervention needed)”:痛みはありますが我慢できるレベルです
2 = "my pain is intolerable, (intervention needed) “:痛みがあり我慢出来ないレベルです
[背景・目的] 本研究の目的は,(1)医療従事者と患者の間のコミュニケーションを向上させる痛みの尺度(Interventional Pain Assessment [IPA]ツール)を構築し,(2)この新しい痛みの尺度を0~10のNumerical Rating System(NRS)の数値評価尺度と比較して検証することである。
[方法] IPAでは,3つのカテゴリーのみを使用している。0 = "I have no pain", 1 = "My pain is tolerable (no intervention needed)", 2 = "my pain is intolerable, (intervention needed) "である。Institutional Review Boardの承認を得て、骨折治療後の回復期にある連続した322人の患者を対象に実施した。IPAの評価をNRSと比較した。また、患者にどちらの尺度を好むか尋ねました。統計解析では、Kendallの順位相関(Kendall τ)とSpearman rhoを用いてNRSとの相関を調べた。
[結果] IPAはNRSと統計的に有意な関連を示した(τ = 0.58, P < 0.0001)。また,23.6%の患者が不一致の回答をした。軽度から中程度の痛みを耐えられないとしたのは4.7%(15/322人),重度の痛みを耐えられるとしたのは18.9%(61/322人)であった。82%の患者がIPAを好んだ。
[結論] IPAは有効な疼痛尺度であり,NRS 0~10と強い相関を示し,最小臨床重要度差の算出が容易であり,疼痛コントロールの効果に関する有意義な情報を提供することができた。
▼ So What?:何が面白いと感じたか?
痛みは、主観的な体験であり、どうしたって当事者の心理や価値観のフィルターを通る。
えっ、動作中は全く訴えもないし、スムーズな動きなのに、NRS(疼痛の11段階評価)は9!?
この方、我慢強くて、人に弱みを見せないタイプ。NRSは1-2と答えたけど、表情は・・・。
ということがしばしば、疼痛の評価というのは難しいものだと感じていた。
また、VASやNRSの場合、答える側も厄介な問題だと思っている。
主観的な感覚を程度や数値に置き換える作業は、なかなか認知への負荷量が大きいのだろう。
IPAは、3段階尺度であり、極限まで曖昧さを削り落とすことに成功している。
「痛いか痛くないか、それは我慢できるレベルか、できないレベルか」
一利ヲ興スハ一害ヲ除クニシカズ、一事ヲ生ズルハ一事ヲ省クニシカズ
(何かで利益を得ようと思ったら、害になっていることを一つ除いた方がよい。何か新しく始めるよりは、何か古いことを一つやめた方がよい)
チンギスハンに仕えた男・耶律楚材(やりつそざい)の言葉
僕たちは、精度を高めるために、より精緻な仕組みを加えすぎて、測る者も、測られる者も、大変な思いをしてはいないか?ミニマルで信頼できる臨床評価尺度は、めっちゃ使われると思う。少なくも、僕は使いたい!
真剣に、臨床応用を検討していく。
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