座面の傾斜角度で活動筋を狙えるかも
▼ 文献情報 と 抄録和訳
外乱に応じた姿勢制御におけるシートの角度位置の役割
Ademiluyi, Adeolu, Huaqing Liang, and Alexander S. Aruin. "Role of angular position of the seat in control of posture in response to external perturbation." Experimental brain research (2021): 1-10.
[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar
[背景・目的] 人体が外部から摂動を受けた後にバランスを回復する能力は、垂直な姿勢を維持するために重要である。本研究の目的は、座面の傾斜を変化させたスツールに座った状態で、外部からの摂動に対する体幹と脚の筋応答を調べることであった。
[方法] 健常者10名を対象に、座面の傾斜が0°、10°前方、10°後方で、フットレストとレッグサポートのない調整可能なスツールに座った状態で、上半身に加わる摂動を受けるようにした。
✅ 図. 被験者はスツールに座った状態で、振り子の衝撃を受けた。座位条件。A-水平シート(HS)、B-前傾シート(FIS)、C-後傾シート(BIS)。白丸はEMG表面電極、mは振り子に取り付けられた被験者個人の体重の10%。
姿勢制御の予期期(APA)および代償期(CPA)において、体幹および下肢筋の筋活動および圧力の中心変位を記録し、解析した。(1)-100msから+50ms(先行的姿勢調整期、APA)、(2)+50から+200ms(代償的姿勢調整期、CPA)の2つの期間において算出した。
[結果] APAとCPAは、外部からの摂動に応答して発生した。傾斜シートに座った場合、水平シートに座った場合と比較して、予測筋活動の開始の遅れが見られた(p<0.05)。外乱後のバランスを保つために、参加者は体幹と大腿部の筋肉を活動させ、その活動は脚の筋肉よりも大きく調節された。さらに、座位でのバランス制御の主なメカニズムとして、筋の共収縮を利用していた。さらに、COP変位に座席の傾斜は影響しなかった。
✅ 図. 後傾シート(BIS)、前傾シート(FIS)、水平シート(HS)に座って摂動を受けた全被験者の体幹と脚の筋肉から得られたEMG活動の平均正規化積分値(平均±SD)。(*) 条件間の統計的有意差を示す (p < 0.02)
[結論] この結果は、座位でのバランス制御における座面の傾斜の効果について、今後検討するための背景となる。
▼ So What?:何が面白いと感じたか?
今回の結果をざっくり解釈すると、以下のようになる。
(1) 水平座面では脊柱起立筋、大臀筋の活動が大きい。またAPAが早期に出現する。
(2) 後方斜面では腹筋群、大臀筋、大腿二頭筋の活動が大きい。
(3) 前方斜面では腹筋群、脊柱起立筋群の活動が大きい。
そして、今回の結果は、大きく2つの臨床応用へのヒントを与えてくれたと思う。
すなわち、①座位練習の際の傾斜角選択による活動筋の制御、②車椅子シーティングへの示唆である。
▶︎①座位練習の際の傾斜角選択による活動筋の制御
座位練習で求めたい機能需要に応じて、傾斜角が提案されるだろう。
たとえば、
- 圧迫骨折後や円背姿勢の方で脊柱起立筋群の活動を高めたい → 水平か前傾
- 脳卒中後などで背面筋の緊張が高く、腹筋群の活動を高め後方を緩めたい → 後傾
- 動揺に対する立ち直り速度の増大、バランス機能を向上させたい → 水平
▶︎②車椅子シーティングへの示唆
車椅子のシーティングに関しても上記と同様のことがいえる。
ただし、基本的には水平座面が良いと思われる。
なぜなら、傾斜面を用いると筋活動が特定部位に偏りすぎる可能性(静的な座位)があるから。静的な座位時間が長いことは、慢性腰痛者に認められる特徴(Bontrup, 2019 >>> doi.)であり、避けた方が良さそうだ。
また、さまざまな外的環境に対する反応速度も水平座面の方が高いことが想定される。
通常タイプの車椅子では『たわみ』があるため、どうしても後方が沈む後傾となりやすい。今回の結果から、きちんとシーティングすることが、体幹筋・下肢筋の筋活動にもろに影響を与える可能性が高いことを知った。
このあたりまで、精緻に狙ってシーティングできているセラピスト、病院があったら、脅威だ。
僕も、所属する病院も、そうなっていきたい。まずは、道具面、方法面の更なる検討・統制が必要だろう。
やれることは、たくさんある。
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