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社会的関与の程度と脳の器質的変化が関連する

▼ 文献情報 と 抄録和訳

認知症に関連する脳領域において、社会的関与が大きいほど灰白質の微細構造の統合性が高い

Felix, Cynthia, et al. "Greater social engagement and greater gray matter microstructural integrity in brain regions relevant to dementia." The Journals of Gerontology: Series B 76.6 (2021): 1027-1035.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

[目的] 社会的関与(SE)は、高齢者の認知機能の低下を防ぐ可能性がある。本研究では、社会生活を営む高齢者を対象に、社会的認知に関連する関心領域(ROI)の灰白質(GM)微細構造とSEとの関連を推定した。

[方法] 拡散テンソルを用いた3テスラ磁気共鳴画像診断を受けた健康ABC研究参加者のうち、認知機能障害のない293名を対象にクロスセクション分析を行った。線形回帰モデルでは、年齢、人種、性別、教育を調整した上で、SE指標(配偶者の有無、一人暮らしではない、社会活動、仕事、ボランティア活動)とGM ROIの平均拡散率(MD)との関連を検証した。聴力と日常生活動作(ADL)の困難さを交絡因子として検証した。性別による効果の変化は、交互作用項と性別による層別化で検証した。

[結果] 左中前頭回-眼窩部において、SEの高さはMDの低さ(GMの微細構造の完全性の高さ)と有意に関連していた(標準化推定値[p値]で表示)。左中前頭回-眼窩部: -.168 (.005), 左尾状核: -.141 (.02): -.141(.02)、左側頭極-中側頭回では -.136(.03)、右中前頭回。-.160(.006)、右上前頭回-眼窩部。右中前頭回:-.160(.006)、右上前頭回-眼窩部:-.187(.002)、右中前頭回-眼窩部:-: 右上前頭葉-眼窩部:-.187(.002)、右中前頭葉-眼窩部:-.124(.04)であった。関連性は、聴覚やADL困難度を調整しても頑健であった。いくつかのROIでは性別による有意な効果修飾が見られ、女性のみに関連性が見られた。

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図. 社会的関与指数との有意な関連性が認められた灰白質の関心領域
A、B、C、D、E:矢状面、冠状面、軸状面、3D(左下に眼球を配置)。人口統計のみで調整したモデルにおいて、p値が<.05となった領域を示している。

[考察] SEは、社会的認知に関連する特定のGM領域の微細構造の完全性に関連しており、これらの領域は認知症における役割が説明されている。したがって、SEは、高齢者におけるGMの完全性の喪失に対する有用な予防メカニズムであると考えられる。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

これまで、社会的孤独や社会的関与に対して様々なアウトカム指標との関連が報告されてきた。たとえば、認知機能低下や死亡率増加などである。これらのアウトカム指標は、重要ではあるものの、器質的ではない。今回紹介した研究は、いよいよ直接的に「器質変化があるぞ!」ということを明らかにした研究だ。横断的データのため、これを前向きに明らかにできれば、さらに因果関係が明らかになる。