「ベッドレストが怖い?」 安心して下さい、重力は作れますから!
▼ 文献情報 と 抄録和訳
60日間のベッドレスト中に毎日30分間の人工重力にさらされると、有酸素運動能力は維持されないが、筋機能の低下が緩和される:AGBRESA RCTの結果
Kramer, Andreas, et al. "Daily 30-min exposure to artificial gravity during 60 days of bed rest does not maintain aerobic exercise capacity but mitigates some deteriorations of muscle function: results from the AGBRESA RCT." European journal of applied physiology (2021): 1-12.
[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar
[目的] 宇宙飛行は身体能力を低下させる。ここでは、宇宙飛行を模擬したベッドレスト中の有酸素運動能力と筋機能に対する人工重力(AG)の保護効果を評価した。
[方法] 24名の参加者(33±9歳、175±9cm、74±10kg、女性8名)を、継続的AG(cAG)、間欠的AG(iAG)、対照(CTRL)の3群のいずれかに無作為に割り付けた。全被験者に60日間の6度倒立ベッドレストを実施し,介入群の被験者は1日あたり30分間の遠心分離を行った:cAGは連続,iAGは6×5分間,質量中心で1gの加速度をつけて行った。身体能力は、ベッドレストの前後で、最大随意契約、サイクリング・スピロエルゴメトリー、カウンタームーブメント・ジャンプで評価した。
図:遠心分離機。人工重力の介入には、短腕型の人間用遠心分離機を使用した。参加者は、遠心分離機の片方のアームの上に薄いマットレスを敷いて仰向けになり、足を外に向けた。回転速度と回転中心に対する参加者の位置は、推定質量中心で1g、足で約2gの加速度が得られるように個別に調整した。
[結果] AGは、有酸素運動能力、屈筋機能、等尺性膝伸展筋力および力発生率(RFD)に有意な影響を及ぼさなかった。しかし、AGは、ジャンプ力(グループ*時間の交互作用 rmANOVA p < 0.001; iAG - 25%, cAG - 26%, CTRL - 33%)、足底屈伸力(グループ*時間の交互作用 p = 0.003; iAG - 35%, cAG - 31%, CTRL - 48%)、足底屈伸RFD(グループ*時間の交互作用 p = 0.020; iAG - 28%, cAG - 12%, CTRL - 40%)に対するベッドレストの影響を和らげた。女性は男性よりもジャンプ力(p < 0.001)と膝伸展力(p = 0.010)の低下が顕著であった。
[結論] AGプロトコルは有酸素運動能力の維持には適していなかったが、これはこの介入の心肺機能への要求が非常に低いためである。しかし、プレシンコペーションを回避するために遠心分離中に低強度の筋収縮を行ったため、筋機能の低下が緩和されたと考えられる。
▼ So What?:何が面白いと感じたか?
常々、圧迫骨折患者のリハビリテーション、とくに臥床期には改良の余地があるのではないかと思っている。臥床期に骨負荷をかけないような重力模擬の方法が明らかになれば、入院関連機能不全の多くを防ぐことができるかもしれない。さすがに、今回の装置を導入するというのは非現実的だと思うが、そのパズルのピースが必要なのだなと認識しておくことは大事だ。無知の知である。
P.S. それにしても、今回紹介した論文の掲載誌「European journal of applied physiology」は、遊び心があるというか、挑戦的な視点を含む研究を数多く掲載している印象がある。しかも、オープンアクセスが多い!ぜひ、ご一読いただきたい(安心してください、何ももらってませんから!)。